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異世界で料理人を命じられたオレが女王陛下の軍師に成り上がる!2  作者: すずきあきら
第一章 いや、パスタは揚げるもんじゃないだろう
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敵地を探索。けどやっぱり興味があるのは料理なようでw


「なんで来たんだ。危ないだろ!」

「衝太郎だって危ないじゃない! だから来たんだから!」

「いや、オレはともかく、アイオリアはリュギアスの王女なんだから、こんなところ来ちゃダメに決まってるって!」

「なんで決まってるの? 誰が決めたの? リュギアスではアイオリアがなんでも決めるわ! そのわたしが行こうと思ったら、それでいいの! いいんだもん!」

「いいわけないだろ! アイオリアにもしものことがあったら!」

「衝太郎にもしものことがあったら、わたしがどうしたらいいのよ!」

「えっ」

「……ぁ」

 そこまで言って、急に言葉に詰まるふたり。

 衝太郎は、

「へっ? オレのこと、心配してくれるのか」

 と驚き、アイオリアは、

「わたしのこと、衝太郎がそんなに、まさか……」

 言うなり、耳まで真っ赤になってうつむいてしまう。

 それまでの喧騒が急に静寂に変わって、

「しかし留守居に、まつりごとや街の防衛もそれぞれ人を任じて来たというのだから、ひとまずはよいのではないか。うん? なぜ黙っている? ふたりとも」

 と、こっちはこっちで、空気を読んでいないケルスティン。

「いつでも戻れるよう、船と漕ぎ手を待機させてあります」

「水路から湖へ出て、リュギアまで半日くらいかと、お、思います」

 ジーベとフィーネも口をそろえる。

 けっきょく、いつものリュギアの王宮のメンバーが、そのまま敵地の首都に集っているという異常事態。

「……はぁ。まぁ、しかたないな。とにかく危ないことはぜったいにするなよ。少しでも危険を感じたらすぐ逃げる。いいな」

「なによ、衝太郎こそ、危ないまねは許さないわよ。ちゃんとアイオリアの指示に従うこと。いいわね」

 まだ噛み合っていないようだが、いちおうはお互いに納得したていで、それぞれお茶のカップを口に運ぶ。

 じつは五人、港に面したレストランにいた。

 オープンカフェスタイルのデッキテラス。心地よい風が通り抜け、海の匂いをかすかに感じる。

 首を巡らせるまでもなく、視界に入る青い海と空。

 海には波が、空にはカモメが、それぞれ白く踊っていた。

 往来での「騒ぎ」のあと、場所を変えるにも道端などでは目立ちすぎる。なら逆に、と衝太郎が、

『あそこの店はどうだ。この国の料理がどんなのか、食べてもみたいしな!』

 いちばん流行っていそうなこのレストランを選んだのだ。

 とはいえ、

『あの、お客さま、荷車は店内には……』

『なに。これは吾の身体……い、いや、うむ。そう、だな』

 ケルスティンがあわや入店を断られそうになる一幕も。

 それを、

『……これで、なんとかお頼みできますか』

 ジーベが袖の下、もといチップをはずみ、なおも渋る店員に、

『なら、外のテーブルならどうだ。それほど混んでない。いいだろ、なぁ』

 正太郎がデッキ席を提案して、なんとか入店がかなったのだった。

 そのため、衝太郎たちはふつうに椅子に掛けているが、ケルスティンだけは床に敷物を布いて、その上に正座したようなかっこう、となる。その直後にはとうぜん、荷車を装った馬体が続く。

「あの、お客さま、よろしければ椅子をお使いください」

 親切から店員が言うものの、

「いや、いいんだ、これは」

「宗教上の理由です。おかまいなく」

 ジーベがぴしゃりと言ってのけ、

「は、はぁ、宗教上、の」

「そう、うん! 宗教上だからな、仕方ないよな!」

「う、うむ」

 と、事なきを得た。

「それよりなにか食おうぜ。この国じゃなにが名物なんだ」

 気を取り直して衝太郎が言うと、

「フィレンツァと言えばパスタです」

 ジーベが答える。

「そうか、パスタか! そりゃいい! パスタ料理はオレもよく作ったよ。昼メシなんかに、ささっ、とな。女の子にも人気だし」

「へーえ、衝太郎のパスタ料理ねえ」

「食してみたいものだな」

 アイオリア、ケルスティンが早くも関心を示す。

「ああ、戻ったらな。でもとりあえず、この国のパスタ料理ってのをひととおり食べてみよう。おーい、たのむ!」

 給仕を呼ぶと、衝太郎はいま作れるというパスタ料理をすべてたのんだ。それでもちょうど五人前ほどだ。

「さーて、なにが出てくるか、楽しみだな! 乾燥パスタはあるのかな。それとも全部、生のパスタか」

 そして約二十分後。

「……これが、パスタかよ」

 ひと品目。

 浅いボウルのような器に、カリカリに乾燥したパスタが固まって入っている。油で揚げてあるのだ。

「まるで、かた焼きそばだな」

「こちらは、焼いたパスタのようです」

 とはジーベの皿。揚げられてカリカリではないが、焼かれた生パスタが固まってくっついている。

「茹でた麺をフライパンで焼いて、焦げ目をつける焼きそばもあるけどな。って、これ、焼きそばじゃなくてパスタだし!」

 正太郎はあきれるが、揚げたパスタにどんなソースをかけるのかで、まだわからないと思った。

(かた焼きそばみたいに、うまい「あん」がかかって、カリコリした麺を多少ふやかしながら食うのかも、な)

 が、期待はすぐに絶望に変わる。

「これ、なんだ?」

「砂糖、です。これをかけて食べるみたいですよ」

「こっちはシナモンです。かけますか」

 フィーネとジーベに言われる。かけてみたが、

「ぅう、これ、かりんとうっていうか……あれだ、プレッツェルだ! あれほど軽くも、サクサク感もなさそうだが」

 もったりバリバリした甘い揚げパスタは、どう見ても食事というよりは、お菓子の類だ。しかも菓子ならこんなに量はいらない。

「こりゃダメだ。ジャンルが違う。アイオリアの、そっちはどうだ?」

 見ただけで無理そうな揚げパスタ砂糖がけをパスして、アイオリアの前に置かれた皿に衝太郎は手を伸ばす。

 こっちは、

「スープパスタか? このスープ……」

 深めの皿に、たっぷりの白いスープが満たされパスタの細い麺が浮いている。その光景はまるで、

(ラーメンかよ。まさか豚骨スープじゃないよな)

「ミルクね。ミルクでパスタを煮込んであるわ。それと……お肉」

 早くもミルクの匂いを嗅ぎつけたアイオリアが言う。ところどころ浮かんでいるのはもちろんチャーシューではなく牛肉だ。

 衝太郎も顔を近づけ、うなずいた。

「ラーメンと違って、最初からミルクでパスタを茹でてるな、こりゃ。パスタがでろでろだし、肉もいっしょに茹でてるみたいだ」

 もう味はとうてい期待できない。

「吾のも食べてくれぬか。どうも吾には無理のようだ」

 ケルスティンが自分の皿を見せる。

 差し出された皿を見て、

「こっちはわりとふつうだな。茹でたパスタだけを盛り付けて……これは、チーズか。悪くないけど」

(家でパスタ茹でて、具がないから粉チーズだけかけて食うみたいな感じか。うん、ケルスティンには乳製品のチーズがよくないんだな)

 と衝太郎。そして自身の前に置かれた皿は、

「……肉の代わりに魚といっしょにミルクでパスタを煮たんだな。魚は……イワシ、ね」

 以上五品。

 どうやらこれらがこの街でよく食べられているパスタ料理らしい。

 どれももう、見た目で味はわかった衝太郎だったが、

「出されたものは食べないとな。……いただきます!」

 軽く手を合わせ、食べようとするものの、

「ん? フォークがないぞ」

 見ると、アイオリアやケルスティンたちのテーブルにも、食器のフォークやスプーンはない。

 給仕が忘れたのか、と呼ぼうとしたが、

「あれを」

 とジーベが視線で指す。衝太郎からは背中の方向だ。振りむくと、

「うわ」

 他の客がパスタを食べていた。

 しかしフォークでパスタをくるくる巻いて、でも、蕎麦のように少しずつ口へ運んではすする、でもない。

 手づかみ。

 手でパスタをつかんで高く持ち上げ、麺の下で口を大きく開けて、そこへ放り込むという食べ方。

「あれで、いいのかよ」

「あれで、いいみたい、ですね。ぅぅ」

 フィーネも引いている。

(フォーク使うのってけっこう時代が下ってからだって聞いたけど、でもなあ)

 衝太郎の「世界」では、フォークが一般に食事に使用されるようになったのは、十六世紀ごろのこと。それ以前、七、八世紀ごろからイタリアで使われ始めたものの、なかなか定着しなかった。

 王侯貴族といえど、料理は手づかみが基本だったのだ。

 いっぽうスプーンのほうは紀元前からあった。

「リュギアスは進んでたのね」

「吾はもともと、生野菜が主食であるから関係はないが。どれ、しかたがない……」

 ないものは仕方がない。給仕にたのんでも、フォークは出ないだろう。

 覚悟を決めて、ケルスティンがパスタに手を伸ばしたところ、

「いいものがあるぜ。……ほら!」

 衝太郎が、ポーチのような小カバンから取り出したもの。

「箸、ではないか」

「ああ。どんな料理があるか、わからないからな。いちおう持ってきた」

 二膳分の箸、そのひとつを差し出す。

 不審人物だったアイオリアの背中に突きつけたのも、じつはこの箸だ。衝太郎は刃物などは持っていない。

「衝太郎、あなた、箸なんて持ってきたの? でも、わたしの分がないじゃない」

 そう言うアイオリアには、

「悪ぃ、アイオリアたちが来るとは思わなくてさ。オレとケルスティンの分だ。けど、焼き菓子みたいなパスタのほうは、手づかみでもいけるだろ。箸が使いたいなら、オレのを貸してやるよ。オレは後でいい」

 自分の箸を渡す衝太郎。

「え、えっ? 後でいいって、じゃあ、わたしが使った箸を衝太郎が使うわけ? わたしが口に入れた箸を、衝太郎が……! それって、間接……!!」

 なぜかとつぜん真っ赤になって、うろたえるアイオリア。

「どうした? 関節でも痛むのか。衝太郎の箸がイヤなら、わたしの箸を貸そうか」

 申し出るケルスティンには、

「違うわよ! それじゃぜんぜん間接キスの意味が……って、ぁ、ううん! このままでいいの、だから衝太郎が、アイオリアが食べるまで待っていれば……!」

 ふたたびしろどもどろになるアイオリア。

「なんだ、オレが先に食べたほうがいいのか? いや……ぉお?」

 見かねて言う衝太郎が、しかし気づいた。

 デッキ席に別の一団が入って来たのだ。

 大柄の女性と、彼女を取り囲むように四人の少女たち。

 かなり目立つ。

 というのは、女性の背丈で、

(なんだ、あれ……二メートル、それ以上あるぞ)

 ケンタウロスのケルスティンもそうだが、等身が高すぎる。十等身以上ありそうだ。案内しているのはレストランの支配人なのか、ただの給仕ではない。

「小顔なんてレベルじゃないって。それにあの顔、見覚えが……」

「ハイドラ!」


次回は戦い、かな

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