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異世界で料理人を命じられたオレが女王陛下の軍師に成り上がる!2  作者: すずきあきら
第四章 旅は家に帰りつくまでが本番なわけで
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10月最後の更新です。気が付けば今年もあと二か月!( ;∀;)


「さぁ、できたぞ。入ってくれ」

 衝太郎が言い、ジーベとフィーネが扉を開ける。

「待ちくたびれたっての。どれだけかかってんだよ」

 さっそく入って来るニケ。その両側には、空中騎兵の侍女たちが付きそう。むろん、いまはグライダーの羽根は付けていない。

「おつかれさま! 衝太郎。楽しみにしているわ」

「そなたにだけ苦労を強いてしまったようだ。なにもできぬ吾を許せ」

 アイオリアとケルスティンも、そう言って席に着く。

 一行がニケたちに「とらわれて」から、すでに四日が経っていた。ジーベとフィーネが市場へ、衝太郎の使いで買い物に行って来てからも三日。

「待たせて悪かったな。だがその分、いいものができたと思う。あぁ、それと、ごめん。ケルスティン。こんどのは、ニケのためのメニューだから」

「かまわぬ。吾のことは気にせず、食せぬ料理は飛ばしてしまってほしい」

 ケルスティンは基本菜食だから、肉や魚、卵など動物性のものは食べず、身体が消化できない。

 だが今回は、ニケをもてなすための献立だ。

(鳥類は雑食に近い。てことは、つまり人間と同じってことだ。ただし、食べられるってのと、好物、おいしいと思うものは違う。そこが肝心のはず)

 全員がテーブルに着くのと同時に、ジーベとフィーネが厨房から料理を運んで来た。

「へー、これが衝太郎、おまえの作った料理かっての。……なんだかちょっと、変わってるな」

 まだテーブルに置かれるまえに、ニケがトレーをのぞき込んで言う。

 それはアイオリアたちも同じで、

「変わった、匂いがするわね。ううん! ぜんぜん悪い匂いなんかじゃなくて、でも、いつもと違ってて」

「これはこれで、吾は惹かれるものがあるが。うむ。食器やトレーも変わったものだな。木でできているのか」

 ついで、置かれたトレーや食器類に目を奪われる。

 そこで衝太郎。

「和食って、いうんだ。日本料理。オレがもといた世界の、育った国の、これが料理なんだよ」

 その言葉どおり、いまや全員の前に置かれたトレーは、日本料理で見る脚の付いた膳で。その上に三つの椀が、それぞれ蓋をして乗せられていた。

「和食? じゃあ、いままで作ってくれた料理は、衝太郎のもといた世界の料理じゃないの?」

「そうじゃない。いままでのも全部、オレのもといた世界の料理だ。けどこんどのは、オレが生まれたころからずっと食べてて、育った料理の、もともとのルーツっていうか、伝統的なものなんだよ」

 そう言って衝太郎がうながす。

「そうなのね。衝太郎のずっと食べていた、もとの世界の料理、楽しみだわ! ……いただきます」

「いただきます」

 アイオリア、それにケルスティンが、膳を前に目をつむって合掌する。

 それを見たニケ。

「なんだそれ、っての。さっさと食うぞっての!」

 椀の蓋を取ろうとして、

「なん、だ? これ、くっついてるのか。外れないっての!」

「軽くずらすように、回して取るといい。そっと、な。力任せに外すと、中の汁をかぶることに……」

「きゃあっ! なによ、早く言ってよ、もぉ!」

 さっそく、アイオリアがやっていた。

 さいわい、わずかにこぼれただけで済んだようだ。

 トレー、つまり盆のうちには、三つの椀が並んでいる。

 食べる側から見て左から、

「これは、穀物だな。米、か」

 ケルスティンが言う。椀の中には三口ほどで食べきる程度の飯が盛られていた。しかし白飯ではない。

「玄米だ。カルシウムが高いからな。アワとヒエも一分ずつ入ってる。それだけじゃ味がないから、エビの頭や殻を揚げて、すりつぶしたものを振りかけてある。あ、ケルスティンのには入ってないよ」

 いつものように、動物性のものは食べられないケルスティンへの配慮だ。

「こっちは、スープね。……変わった、色だけど」

 反対側、右の椀の中身は味噌汁だ。こっちも二口三口で飲める量。小さめに切った油揚げと青菜が浮かぶ。

「じゃあ、これはなんだってーの! ……魚、か?」

 真ん中、やや奥に置かれた椀の中身は魚のお造りがふた切れ。

「鰤のお造り、刺身だけど、漬けにしたあと、軽く皮目を焙ってある。香ばしさが増してうまいぞ。そのまま食べたいい」

 が、これもケルスティンは食べられないため、代わりに、

「がんもどきを出しで軽く煮たものだ。がんもどきは豆腐、つまり大豆由来で、ニンジンやゴボウ、レンコンをこまかく刻んだものを混ぜ合わせて、油で揚げたものさ。もともとは、雁……ぁ、いや、なんでもない」

 もともとは精進料理で、雁、つまり鳥の肉の代わりとされた、と言おうとして、衝太郎は言葉を飲み込んだ。

 ニケの手前、鳥肉の話は禁物だ。

「そうか、痛み入る。ところで、この料理もまた箸で食するのか」

 ケルスティンが言う箸。

 以前、リュギアでの食事でも出て来たものだ。

「ああ、ごめん。日本料理ってのは、まぁ中華もそうだけど、その「箸」で食べるんだ。持ち方は……って、もうケルスティンは箸、使えるんだよな」

 衝太郎がいちおう自分でやって見せる。

 その言葉どおり、すでにケルスティンは箸を習得済み。ジーベとフィーネもそうで、唯一心もとないのは、

「これ、ぅう……やっぱり手が、つりそう!」

「しばらく使っていないと難しいものだな……ふむ」

「だよな。だから、こっちのスプーンとフォークも用意した。いちおう木製のものにしたけどな。無理しないで、使ってくれ。箸は、そのうちまた、ゆっくりおぼえてくれたらいい」

 これまた用意されていた食器を、さっそく侍女たちが並べる。

「言っちまうと、和食自体、本来は畳の床に直接座って、食べるものなんだ。そこまでは求めないし、いまの日本の家庭も店も、たいていはテーブルだからな。こういう木の和食器や膳が市場に売ってるってこと自体、驚いたくらいだし。なければなにかで代用しようと思ってた」

 和食器は、しかしどれも木目の鮮やかな素のもので、漆塗りなどではない。

 衝太郎の説明に、しかしニケ。

「なにをごちゃごちゃ言ってるっつーの。箸? ニケはスプーンやフォークも使ったことないっての!」

 もうニケは、手づかみでお造りも、飯も平らげてしまっていた。汁椀を口に運び、飲み干す。

「ふぅー! しかも量がぜんぜん少ないっての! これじゃお腹いっぱいにならないってのよ」

「いい食べっぷりだ。うれしいね。安心しろ。これは「懐石」って、コース料理なんだ。まだまだ続くから、どんどん食べてくれ」

 それぞれの椀の量は確かに少ない。

 ニケでなくとも、全員が食べ終わるのに十分もかからない。

 次の膳が出るまでに、茶が供された。

「緑色してる!」

「甘くは、ないな」

「てゆーか、なんだよ、超苦いってか、渋いっての!」

「緑茶だよ。茶葉は紅茶と同じだ。渋かったら、砂糖を入れてもいい。ちょっと違うが、中国じゃそんなふうにも飲むしな」

 茶葉を自然に乾燥させ、もみ込み、発酵させたのが紅茶。

 緑茶は摘んですぐに蒸すか炒ることで発酵を止めている。その後乾燥させるのは同じだが、風味はおのずと大きく異なる。

「うぅぅ、がんばる」

「渋いが、飲んでいると不思議な甘みも感じる。これはこれで美味である。初めてだが奥深い味だ」

 ふたりを横に、黙っているニケ。

「どうした。砂糖、いれるか?」

「う、ぅ、うるさいっての! ……んんんん!」

 いっきに残りのお茶をあおった。ごくっ、と飲み込む。

「おいおい、無理するなって」

「無理なんかじゃないっての! ん? あれ、けっこう後味、悪くない。それに、食べたものの匂いまで、す~ッ、ってなくなってさわやかで……」

 いつのまにか感心しているのに自分で気づいて、赤面するニケ。

「そうだな。砂糖を入れたりすると、甘さだけが残るからな。それに緑茶は、カテキンが血中コレステロールを下げてくれ作用があってな……まぁ、ニケにはあんまり関係ないか。でもビタミンCも、驚くほど含まれてるんだぞ」

「カテキン、ビタミン?」

 ニケには少々難しい、というより、理解の外のようだ。アイオリアたちにしても、なかば雰囲気で聞いている程度ではある。

 懐石の合間の飲み物は酒であるのがふつうだが、

(オレも含めてみんな未成年だし。こっちの世界でそういう法律はないけどな)

 あえて緑茶にしてある。

「さぁ、次の椀だ。持ってきてくれ」

 衝太郎が言い、ジーベとフィーネが各人の膳を下げる。

 そして新たに運んで来たのは、

「煮物膳だ。食べてくれ!」

 声に誘われるように、全員がふたを取る。

「わぁ、きれい!」

 アイオリアが声を上げる。

 透明な澄まし汁の中に、白いあんが沈んでいる。周りにふわふわと浮いている雲のような湯葉。

 ☆をかたどった麩も楽しい。

「白いのは「しんじょ」。エビやカニ、魚の身を擦りつぶして、山芋と練って蒸したものだ。香りづけにゆずを、やっぱり皮を擦って入れてある。それと、ケルスティンは、ごめん。エビなんかの代わりに、野菜やキノコを入れた」

「かまわぬ。というより、痛み入る。吾はこっちの味が好きだ」

 特製しんじょのケルスティンを除けば、

「ふわぁ、って白くてやわらかくて、でもエビやカニの味がしっかり届いて来るのね。この汁も、ただうすい塩味ってだけじゃなくて……」

「ぜいたくに出汁を取ってるからな。甘い、辛い、なんかとは別に「うまみ」を感じられたら、日本料理が好きになるよ」

 とうぜん、ケルスティン用は鰹節の出汁を使わない代わりに、干しキノコの戻し汁で代用していた。

「ふん! こんなの、なんかかび臭いだけだっての。さっきから同じような味ばかりで、ま、まぁ、ちょっと見た目は、いい感じかもしれないけど……」

 ニケは食べようとして、改めて椀をのぞき込み、手が止まる。

「ぇっ、これ……星?」

「あ! わたしも思った。この、しんじょ? が太陽みたいで、湯葉が周りを取り巻くガスやちり。で、麩の惑星が回ってるって」

 アイオリアが、より詳しく言葉にしてみせる。天文学の知識はかなりのレベルのようだ。

「そのとおり。よく気づいてくれた。日本料理は、目で見る楽しさもあるんだ。本来は食器や部屋自体にもそうした趣向が凝らされているんだ」

「部屋にも、か」

「ああ。それどころか、部屋へ入るまえの庭の風情とか、かすかに虫の声が聞こえてくる、さりげなく活けてあるとか、な。そうしたトータルなプロデュースを初めてした人が、千利休って……」

 衝太郎の解説に、聞き入っているかと思うと、

「ぅぐ……なんだかぼんやりした味だっての。うん、ん……ぁ、でも、噛んでるうちに、へぇ、だんだん、いいかもって」

「慣れてくる、のよね。もっと、バターやスパイスの刺激をはっきり感じたい、とか、肉の繊維質とか野菜のシャキシャキ感とか、歯ごたえが欲しい、とか、最初は思うのだけど、しだいにこのやさしい感じに」

「包まれているようでもある。味に浸る、というのかな。それこそ、建物や空気まで料理を楽しむ一部になる、それが日本料理というものなのかもしれぬ」

 アイオリア、それにケルスティンまでが日本料理に魅せられて、その魅力を語りだしているに至っては、

(ついこの間まで、醒めた干し肉や硬いパン、蒸かした野菜と水だけの料理でいいって、言ってたくせに)

 ケルスティンは、生野菜だけだった。

 そんなふたりの変わりっぷりがおかしい衝太郎だったが、同時にとてもうれしくもある。むしろ、

(もっともっと、うまいものを食べてもらわないとな!)

「ん? どうしたの、衝太郎?」

「いや。お、もう完食してるじゃないか。ニケも食べたか。じゃあ、次の膳だ」


懐石料理って、なかなか食べる機会ないけど、たまにはゆっくり味わいたい(^-^)

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