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異世界で料理人を命じられたオレが女王陛下の軍師に成り上がる!2  作者: すずきあきら
第三章 好き嫌いは子どもの仕事みたいなものです
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7

お兄ちゃん!w

「ちょっと、衝太郎! リーリアに野菜を食べさせるんじゃなかったの? いつも言ってるじゃない。栄養素? の大切さ、とか。小さい子は成長期なんだから、よけい野菜もバランスよく食べなきゃ」

 アイオリアも反論する。

「お、よくおぼえたな。栄養素、ビタミン、カロリー、脂肪、糖……食べ物はバランスよく食べないと、って、いつも言ってるとおりさ」

「だったら」

「野菜を食べたほうがいい、バランスが大事だ、回りがあれこれうるさく言ったって、本人が変わらなきゃ無駄だ。味をごまかした野菜ばかり食べさせたって、本来の野菜のうまさをわからないから、そんなのは野菜が好きになってのでも、食べられるようになったわけでもない」

 厳しい衝太郎の言葉に、誰もが声を呑み込む。けれどいちばんショックを受けているのは、当のリーリアだ。

 衝太郎、リーリアの側に屈みこむと、顔を近づけて、

「なぁ、リーリア、お母さん、つまりブーリエ女王のことはどう思う?」

 とつぜんの質問。それもかなり唐突だ。

「ど、どうって、好き、なの」

「好きだよな。尊敬してる。内面もそうだし、きれいな女王陛下みたいになりたいって、思うだろ?」

「そんなの、とうぜんなの。ママは、リーリアの理想の人なの。いつかママみたいな女王にリーリア、なりたいの」

「まぁ」

 これにはちょっと、うれしいブーリエ。

「じゃあ、アイオリアはどうだ。まえはよく遊んでもらってたんだろ? ひさしぶりに会ったお姉ちゃんはどうかな」

「え、なんでわたし」

「アイオリアも、好きなの。かわいいし、きれいなの。リーリア、ママみたいになるまえに、アイオリアみたいになりたいの」

「あ、あら。いい子ね、リーリア! ぅふふっ」

「だよな。アイオリアはきれいだし、リーリアの十何年か先の、目標にもなるよな」

「えっ、え!? いま衝太郎、なんて……きれい、それ、わたしのこと」

 不意にときめくアイオリアを置き去りに、

「じゃあ、こっちのケルスティンはどうだ。メイドのジーベとフィーネは」

「ケンタウロスは、よくわからないの。けど、凛々しくてきれいなお姉さんなの。メイドたちも、きれいでかわいいの!」

「そ、そうか」

「ありがとう、ございます」

「うれしい、です!」

 ケルスティンにジーベ、フィーネも、はにかみながらもうれしそうな顔を見せる。

「なによ急に。衝太郎、なにが言いたいのよ」

 こっちも、いちばんときめいているアイオリア。しかし衝太郎、リーリアの目をじっと見つめて、

「みんなステキなリーリアのお姉さんやお母さんだよな。みんな、好き嫌いなんてしてない。小さいころから野菜だってちゃんと食べてた」

 告げる。

「ぁ」

 リーリアが小さく漏らした。全員が、息を呑む。

「野菜が嫌なら食べなきゃいい。小さい子ってのは、たいていそんなもんさ。ハンバーグ、唐揚げ、ソーセージ、そんなものが大好きだ。あとは甘いもの、ケーキ、アイスクリーム、チョコレート……食べればいい。食べたいだけ。食べられるなら、な。でも、だ。そうやって脂肪や糖ばかりとってると、確実に太る。小さいころからそういう食習慣だと肥満体質になって、こんどはふつうのダイエットくらいじゃ痩せなくなる。肌はかさかさ、じゃなきゃ脂ぎってヌチョヌチョだ」

「イヤぁ! ヌチョヌチョ、イヤ! なの」

 嫌というよりリーリア、いままでになく、本気で怖がっている。

「でもそうなんだ。大人になると食の好みも変わるし、それって身体の中身が変わるってことだから、いま野菜嫌いだからって必要以上に心配することはないって、オレは思う。それこそ、砂糖やハチミツでごまかして野菜を食べるより、な」

「そういうことだったの」

 アイオリアも腑に落ちる。

「リーリアはお母さんみたいになりたい。アイオリアやケルスティンみたいになりたい。それにはバランスのとれた、野菜を野菜としてふつうに食べる食生活、食習慣はぜったいに必要だ。逆に、それがなくちゃ、ママみたいになれないぞ」

 これが決め手だった。

「……リーリア、食べる」

「無理しなくても」

「食べるもん。食べられるの。リーリア、ぶとぶとヌルヌル、イヤなの。ママみたいになりたいの。アイオリアみたいに」

 そう言って、もう一度ブーリエのキャロットラペに手を伸ばす。スプーンですくい、

「んっ! ぅぅぅう……んぅ!」

 咀嚼し、飲み込んだ。

「ほら! 食べたの!」

「まぁ、リーリア!」

 ブーリエが愛娘を抱きしめる。リーリアも母を。

 それを見て衝太郎、静かに広間を出ていく。

 扉が閉まるのを見て、

「衝太郎!」

 アイオリアが追いかけた。廊下で追いつき、

「どうしたの? 良かったじゃない。リーリアは野菜を食べるって自分から言って、食べたのよ。衝太郎の思ったとおりに」

「ああ。だからもういいんだ。あとはリーリアしだいさ。でも食べたくないときや、同じ野菜にしたって好みもある。どっちにしても、自分で決めればいい」

 野菜嫌いの子ども向けに、さまざまな味付けで一時的に食べさせることはできる。

 けれど、けっきょくは自分で食べたい、食べる、と思わなければ意味がない。

 それを衝太郎は身をもって証明して見せたのだ。

「でもやっぱり衝太郎ってすごい! 尊敬しちゃう! ぁ、言っておくけど、料理に関しては、だからね!」

「おいおい。いやまあ、そうだけど……ぅ!」

 衝太郎の言葉が途中で途切れたのは、とつぜんぶつかるようにアイオリアが抱きついてきたからだ。

(お、おぉ!?)

 顔と顔が肩口で交差しているので、アイオリアの顔は見えない。

 ただアイオリアの体温を感じ、抱きしめられる圧力の中で、

「衝太郎、うんと褒めてあげる。衝太郎はすごいわ。すごい料理人で、アイオリアの専属の、パートナーで」

「専属のパートナーって、なんだよ」

「いいのよ。とにかく衝太郎はすごいんだもの。ほんとうに大好、き……尊敬してるんだから!」

 いちばん肝心のところで、あわてて言い換えるアイオリア。

「雪でも降るんじゃないのか。それとも熱があるのか」

「なによ。せっかく褒めてるんだから、よろこびなさいよね。それともわたしに褒められて、うれしくないの?」

「いや。うれ、しい」

「ほんとう?」

「ああ。アイオリアはオレのなんたって恩人だしな。この世界でオレに居場所を作ってくれた、いちばん感謝してる」

「そうじゃなくて」

「えっ」

「そうじゃないの。恩人とか、感謝してるとか、もうそういうのじゃなくて、わたしが衝太郎を褒めて、すごいって、尊敬してるのはウソじゃない気持ちなんだから」

「それは、わかってる。だから」

「だから! 衝太郎も、わたしに、その、もっと」

「感謝だろ? だからしてるっていま」

「ぁあもぉ! そうじゃないって何度言ったら」

「おじゃまだったかしら」

 とつぜんの声。アイオリアは反射的に、

「またおまえたち、ジーベ、フィーネ、何回わたしのじゃまをする気! ……ぁ、ぇええ!?」

 振り帰って驚き、言葉を失う。

「あらぁ、アイオリアも元気なのですね」

「女王陛下! し、失礼を……申し訳ありません、ごめんなさい!」

 あわてて離れるアイオリア。

 言うまでもなく、そこに立っていたのはブーリエ女王。リーリアの手を引いている。

「いいのですよ。若いってよいわねぇ」

「で、ですから違いますぅぅ」

 ようやく衝太郎から離れたアイオリア。モジモジと肩をすくめて身をよじる。

「まぁまぁ恥ずかしがらなくても。よいカップルではありませんか」

「ほんとうですか!? ぁ、申しわけ……」

「カップルって、オレとアイオリアは、主従関係の契約関係で……ぅぐ!」

「よけいなことは言わないで! もぉ!」

 アイオリアが思い切り足を踏みつけたのだ。しかしこれでは丸わかり。

「あらあら。仲がいいのですね」

「だから違……」

「違いません!」

 まだとうぶん続きそうなアイオリアと衝太郎の掛け合いを終わらせたのは、

「衝太郎!」

 リーリアだった。

 ぇ、っと思う間に衝太郎に走り寄り、その腰をつかむ。リーリアの背丈では、それがせいいっぱいだったのだ。

「お、ぅ。リーリア」

「あ、ありがとう、なの。衝太郎のおかげで、ママみたいな女王になるって、ちゃんと思えたの。だから野菜も食べるの。ちゃんと。なるべく、食べてみるの!」

 最後は衝太郎の顔を見上げて、キュッと唇を結ぶ。決意が現れていた。

「そっか。いいぞ。いい子だな、リーリア。きっとなれるよ。ママ以上の女王陛下に、さ」

 衝太郎はリーリアの髪をくしゃくしゃと撫でた。

 嫌がるかと思いきや、リーリアはネコのように頭を衝太郎の手に押し付ける。気持ちよさそうだ。

「まっ!」

 それを見て、小さく声を上げるアイオリア。しかしリーリア相手では、何も言えない。

 そのうえリーリア。

「いつか……」

「ぅん?」

「決めたの! いつか衝太郎を、リーリアの料理人にするの!」

「ぇぇええ!?」

 こんどはアイオリア、全員が振り向くほどの声だ。

「ちょ、っとリーリア! 衝太郎はわたしの、アイオリアの料理人よ! リーリアだからって、あげないんだから!」

「そんなの、もう決めたの! リーリアの料理をずっと作ってもらうの! リーリア、衝太郎の料理じゃないともう食べないの!」

「できるわけじゃないじゃない!」

「できるの! リーリア、衝太郎といっしょにいるの!」

 もうはっきり、ギュゥ、と抱きつく。子供が、離れない! と嫌々をするようだ。

「はは、わかったわかった。リーリア、な、ちょっと落ち着こうか」

 衝太郎が諭す。

 野菜嫌いのこと。リーリアにしてみれば、おそらく初めて「叱られた」のだ。

 それも、衝太郎は頭ごなしに叱るのではなく、料理を作って食べさせ、リーリアに納得させた。

 初めての経験は、リーリアに衝太郎を強く意識させるのにしかるべきものだった。つまりは、

「やー、なの! 衝太郎の料理がいい! ずっと衝太郎がリーリアといっしょにいるのがいいの!」

「だから衝太郎はわたしの料理人でリュギアスの軍師なんだから!」

「はいはい。ふたりとも、少しいいですか?」

 ここで女王、ようやく仲裁に入る。

 といっても、リーリアは衝太郎にまだくっついているし、アイオリアは衝太郎の上着をつかんだままだが。

「衝太郎には、わたくしからも感謝を述べたかったのです。リーリアの野菜嫌いを治して……いいえ、それはまだ先のことかもしれませんが、大きなきっかけを与えてくれて、リーリアを変えてくれました。礼を言います」

「ぁあ、ぜんぜん、それほどでも……う、ん! こちらこそ」

 衝太郎の言が途中から変わったのは、アイオリアが肘で突いたからだ。

「そこで、こうしてはいかがでしょう。衝太郎はこれまでどおりアイオリアの料理人とします」

「えーーーー!」

「はい! 仰せのままに、女王陛下」

 リーリアとアイオリア、対照的なリアクション。ブーリエ、続けて、

「ただし、衝太郎には正式に、このグルゴーニュ宮殿の料理長、それもリーリア付きの料理長になってもらいます。異存はありませんね」

「やったぁーーー! の!」

「ええ!? それは、どういう……」

「兼任、ってことか?」

 また上がるリアクションを見て、

「いえ、違いますよ」

「はぇ、え!?」

「え、じゃあ」

「衝太郎には、リーリアの兄になってもらいます」


今回で第三章は終わり、次回投稿から第四章になります。

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