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異世界で料理人を命じられたオレが女王陛下の軍師に成り上がる!2  作者: すずきあきら
第三章 好き嫌いは子どもの仕事みたいなものです
19/28

5

子どもの料理といえば、やっぱり・・

 三日後。

「お待たせ! できたぜ!」

 衝太郎が勢いよくドアを開け、ダイニングへと入って来る。

 テーブルにはすでに、

「ふん! 遅いの!」

 リーリア、それに、

「まぁ、楽しみですね。リーリア、きっとおいしく野菜が食べられますよ。衝太郎の料理なら!」

 ブーリエ女王。

「衝太郎、わたしたちの分は?」

「あるのだろうか」

 アイオリアとケルスティンも、もちろんそろっていた。

「ああ、あるぞ。今日は女王陛下をお招きしての晩餐会だろ?」

 そう言いながら、手に持ったトレーの上には銀のディッシュカバーが。

 そして衝太郎の後ろにはジーベとフィーネが、それぞれカバーで蓋をされたトレーを手にしている。

「とはいえ、今日の主賓は、えっと、リーリア次期女王だからな」

「リーリア、でいいの。それより早く、食事を出すの! お腹空いたの!」

 最速するリーリア。

 王女とはいえ、やはりまだ三歳。思ったことがすぐ口に出る。

 クルクルと巻いた金色の巻き毛が揺れる。

「おう。まずは食べてくれよな!」

 リーリアの前に置かれるトレー。そしてディッシュカバーが取りのけられると、中から現れたのは、

「!」

「まぁっ」

「へーえ、かわいい!」

 ブーリエ女王が笑顔を見せ、アイオリアも声を上げる。

 当のリーリアは、眼下の料理に目が釘付けで、声も出せないというふうだ。

 ようやく、

「こ、これ、なんなの」

「お子様ランチだ!」

 問うと、衝太郎が答える。

「お子様」

「ランチ?」

 反芻する女王とアイオリア。

「そうさ。オレの世界では、小学生……つまり十二歳くらいまでの子どもが食べるスペシャルなランチなんだ。まぁ、今回はディナーだけど。大人は食べられないんだぜ。リーリアだけのために作った、王女さまランチってところかな」

 衝太郎が言うと、リーリアは目を輝かせた。

「お子様……王女、ランチなの」

 リーリア専用お子様ランチ。

 まず容器に驚かされる。お子様ランチに特有の、トレーのようなワンプレートにすべての料理が収められている。

 そのプレートは、

「宮殿……この、グルゴーニュ宮殿か」

 ケルスティンの言うように、衝太郎たちがいまいる王宮、グルゴーニュ宮殿の本館をかたどっていた。

 尖った小さな塔が林立して容器の縁を形作る。中は大小いくつかの区画に仕切られ、それぞれ料理が詰め込まれている。

 しかしもっとも目を引くのは、その中心、いちばん大きなスペースに鎮座する、

「グレナグラの塔、なの!」

 もっとも高く大きな塔。下層は方形平面、上層は円形平面で、半球形の屋根を乗せた特徴的な建物だ。

 もともとグルゴーニュ宮殿が戦いのための城塞だったころに作られた、天守閣であり物見の塔も兼ねた、キープと呼ばれる構造物。

 それが宮殿となって優雅に作り直されたものだ。

 それがいまは、

「チキンライスでできてる。てっぺんには、グレナグラ=ビラの旗を乗せた」

 全体に赤っぽいチキンライスは、夕日を弾く半球形屋根の赤く染まった佇まいを思わせる。

 頂上の尖塔には、青地に伝説の動物グライフが描かれたグレナグラ=ビラの旗が、紙で作られ、竹串のポールに翻っていた。

 壁面の円柱もうまく再現されている。外観は、チキンライスを詰める食品型の造形によるものだ。

 グリーンピースが均等に乗せられているのは、半球形屋根の明り取りの突起に見立てたものだろう。

「すごい、の」

「おかずもいっぱいあるぜ。エビフライ、ハンバーグ、黄色いのはかぼちゃとコーンのポタージュスープ。ホウレンソウのキッシュは、ホウレンソウをきざんで潰してあるから青臭さはないし、かすかな苦みがむしろ卵の甘みを引き立ててる。いちばん野菜っぽいのはキャロットラペかな。でも食べてみろよ、甘くてうまいぞ」

 衝太郎の言うとおり、多くの料理がプレートからこぼれんばかりだ。黄色、薄緑、オレンジ、色とりどりに、ひとつひとつは小さく。

「デザートもあるぜ。プリンだ。乗り切らなかったから、別皿だがな」

 と、もうひと皿。

 背の高い、一本足のガラス皿の上、緩やかな円錐形を描いたカスタードプリン。

「これ、エルドラ山なの!」

「まぁ! ほんとう、そっくりね!」

 女王も口をそろえる。

 山の形に合わせてうまく切り整えられ、頂上付近には粉砂糖がたっぷり。冠雪を表現していた。

 しかし建物や風景をかたどったり、色鮮やかな料理たちにも増して、リーリアの目をとらえて離さないものがある。

 それは、

「この人形……グルゴーニュ宮殿の衛兵ね!」

 アイオリアが言い当てる。

 グレナグラの塔、チキンライスの横に、手のひらにちょうど乗るくらいの人形が立っているのだ。

 赤、白、黒のきらびやかな衣装と、銀色に見える鎧と兜。

 ちょっとデフォルメされた衛兵の姿だ。衝太郎たちも、宮殿に入るとき、中の要所要所でよく見る。

「なめても平気な自然素材で塗ってあるからな。安心してくれ、って、オレの向こうの世界じゃないし、そこまでうるさくないか。まぁとにかく、このプレートは陶器職人に無理言って二日で作ってもらったもんだし、衛兵人形も、おもちゃ職人に特急で作らせた、どっちも一品モノだぞ」

 味もだが、幼児にはとにかく目の前の料理に関心を持ってもらうのが最優先。

 おもちゃで気を引き、食後はおもちゃで遊んで、親も隣でゆっくり食事ができる、というデパートのお子様ランチの公式をそのまま使った衝太郎だ。

「ぅっ」

 思わずスプーンではなく、おもちゃに手を伸ばすリーリアに、

「おっと、おもちゃはご飯を食べてからだ。行儀よくぜんぶ食べたら、おもちゃをあげるよ」

 釘をさす衝太郎。

「ふ、ふん! べつにそんなおもちゃ、ほしくないの! 食べるのにじゃまだから、避けようと思ったの!」

 ぷーっ、と頬を膨らませるリーリア。しかし、おもちゃを除いても、目の前の料理を無視することはできなかった。

「さ、リーリア。いただきなさい」

「わかってるの」

 女王の言葉に、スプーンを手に、まずハンバーグに向かうリーリア。半分に割るだけで、リーリアの小さな口にも入る大きさだ。

「どれも、スプーンの縁でらくらく割れるやわらかさになってる」

「んっ……そうね、まぁまぁなの。次は」

 エビフライ。口に入れると、思わず目が笑みを漏らす。もぐもぐ咀嚼して、

「キッシュだ。卵と生クリームに具を混ぜて、パイみたいに焼く料理さ」

「ぅっ、ん……お、おいしいかも、なのね」

 そこまで食べて、リーリアのスプーンがチキンライスに伸びる。丸い屋根部分をすくおうとして、

「ダメなの、きれいでかわいくて、食べられないの!」

 首を振る。しかしそれは、楽しい迷いだ。

「わかるわ、リーリア。ほんとう、よくできていますものね」

「だいじょうぶ、食べちゃおうよ」

「思い切って崩してしまえ」

 ブーリエ女王やアイオリア、ケルスティンも思わず見守る。

「食べるまえに、旗を取るんだよ」

 衝太郎が言い、

「こう、ね」

 頂上の旗を引き抜き、プレートの横へ待避させるのも、ちょっとした儀式だ。国の旗を落としてはいけない。

「食べる、の!」

 意を決したように、リーリアのスプーンがチキンライスにめり込む。半球形屋根の下、円形表面の塔部分が、ごっそりとえぐりとられた。すると、

「あら」

「わぁっ」

 半球形屋根までが崩れ落ちた。ブーリエたちが声を上げる。歓声に近い。そうして見守られながら、

「んっぅ!」

 リーリアがスプーンを口に運ぶ。見られている楽しさからか、塔をもう崩す、と決めた快感からか、どんどん食べ進む。

 あっという間に、方形表面の基盤部分だけになってしまった。

「ふふーん! リーリアがどんどん壊しちゃうの。食べちゃうの!」

 リーリアは、自分の大きな怪獣にでもなって、グレナグラの塔を襲っている気分なのだろう。

 最初は壊すのを惜しがっていたのに、いったん壊し始めるとそれが楽しい。どんどん食も進む。

 小鉢に注がれたコーンとかぼちゃのポタージュスープをすすると、ホウレンソウのキッシュも抵抗なく食べる。

「でもこれは、嫌いなの」

 けれど、キャロットラペの、つやつやしたオレンジの皿の前で止まるリーリアのスプーン。

「出たな。お子様の嫌いな野菜、三傑には入るからな、ニンジン」

「しゃりしゃり、味は変だし、ウェッってなるの」

「これ、リーリア」

 ブーリエがたしなめるが、子どもの物言いは正直だ。

「いいぜ、食べなくても。ただ、勇気を出してひと口、どうだ。味も見ないで終わり、じゃ、カッコ悪いだろ?」

 衝太郎の言に、

「そんなのわかってるの。でもニンジン嫌いなの」

「だよな。でもさ、リーリアは次期女王、次の女王だ。これからいろんな勇気が試される」

「そんなの」

「関係ないな。ニンジンを食べるなんて、女王の責任や勇気に較べたら、小さすぎてどうでも良すぎて、関係ないもんなぁ」

 そこまで言われ、母のブーリエやアイオリア、ケルスティン、さらには侍女のジーベやフィーネの視線も集まる中、

「ぅうううーぅ! 食べればいいの! ひと口だけなの! それで終わりなの! ……ん、んくっ!」


好き嫌いは克服できるのかな

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