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異世界で料理人を命じられたオレが女王陛下の軍師に成り上がる!2  作者: すずきあきら
第三章 好き嫌いは子どもの仕事みたいなものです
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3

次期女王は幼女(^-^;

「アイオリア、リュギアスの公女にしてわたくしの妹孫、よく来ました」

 さんざめく光が天から落ちてくるような大広間。

 その天井は見えないほど高いが、無数の彫刻で埋め尽くされ、ステンドグラスの色とりどりな反射とともに、そこに天使が舞っていると見えても不思議ではないほど神々しい空気に満たされている。

 氷上のように輝く床。

 その奥に数段高くされた床が設けられ、さらに金銀で飾られた巨大な玉座が置かれていた。

「さぁ、顔を上げて。ひさしぶりにその顔を見せてごらんなさい。ここからは、堅苦しいことはもう抜きにしましょう。ね」

 やさしい声にアイオリアが顔を上げる。それまでは儀礼で、ずっと床を見ながら進んできたのだ。

「ありがとうございます。ブーリエ女王陛下。お召しにあずかり……えっ?」

 女王にうながされ、顔を上げたアイオリア。けれどそこで言葉が途切れる。

 意外な光景を目に、アイオリアの声がかき消されたように出ない。

 それは、

「まぁまぁ、驚いたのも無理はありません。さ、ほかのみなさんも、ドルギアのケルスティンと言いましたか、あなたも顔を上げて」

 ここまで来て、衝太郎や侍女のジーベ、フィーネもようやく顔を上げる。

「ぁ」

「ふぁっ!?」

 その理由。

「なんなの。あたしがなにか変だっていうの」

 女王が、小さい。

 玉座にちょこんと腰かけているものの、脚は床に届いていないし、大きな背もたれの半分も頭は届いていないし、ひじ掛けに腕を乗せるのも無理しているふうだ。

「まぁまぁ、アイオリアには初めてでしたね。みなさんにももちろん」

 という女王は玉座の隣に立って、少女、というより幼女のもう片方の手を取りながら微笑んでいた。

「わたくしの娘、です」

 そこまで言って、玉座の幼女に視線を落とす。

 幼女はここぞ、と胸を張って、

「リーリアよ。会えてうれしく思うわ」

 言い放った。

 舌足らずな、とても甲高い声。

 言うだけ言って、どうだ! やりきったドヤ顔。しかしよく見ると紅潮した頬はプルプル震えている。

 長い金色の髪をきれいに編み込んで、頭の上には小さな銀のティアラを乗せている。

 くせっ毛なのか、網目の隙間から、いくつも短い髪の房が、ピンピンピン! と跳ねていた。

「はぁ……ぁ、いえ、リュギアス領の公主を任じられております、アイオリア・セラ・フィーゼバルトにございます」

「ドルギアの旧領主、ケルスティン=アリアス・コッペリオンであります」

 ふたりとも、そこまでは名乗ったものの、その先はどう言っていいのか正直わからない。これが女王であれば、

(女王陛下に置かせられましては……とか、ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じます、とかになるんだろうけどな)

 大河ドラマの、たいてい秀吉とか家康に目通りした大名たちのセリフを衝太郎に思い浮かべているときだった。

「ときに! そこの黒い服の男、それはなんなの!?」

 鋭い声が飛んで来た。むろん、玉座のリーリアからだ。真っすぐにこちらを見据えている。

「あー、オレ、というか自分は」

「誰がリーリアと直接話していいと言ったの! 使用人ふぜいが、身分をわきまえるの!」

 すぐに激しい叱責が飛んで来た。

「うはっ」

(間接話法ってやつかよ、さすが階級社会だな。てか、めんどくさ!)

 衝太郎は首をすくめるが、

「その者はわたしの料理人です! けっしてただの使用人などではありません。リュギアス全軍の軍師、つねに全幅の信頼を置く、わたし、アイオリアのパートナーです!」

 代わって、声を上げたのはアイオリアだった。

 謁見の間の、玉座に相対して先頭にアイオリア。少し下がってケルスティン。

 そしてずっと後ろに、衝太郎、さらに後ろが侍女のジーベとフィーネ。

 衝太郎のところから女王までは、二十メートルはゆうにある。

 最初は、アイオリアとケルスティンだけ、というのを、やはり同様の理由でアイオリアが押し切った形だった。それがさらにパワーアップしている。

「ぱ、パートナー、かよ。……いやまあ、たしかにアイオリア専属の料理人ってことで、その意味でオレはアイオリアのパートナー……いやいやいや、やっぱり言葉遣い、変じゃね!」

 おののく衝太郎をよそに、

「まぁまぁまぁ、リーリアもアイオリアも、いま、そこじゃないですよ。まずはわたくし、ブーリエの話を聞いてからに、ね」

 ごく穏便、かつ効果的な女王の介入。

「ま、まぁ、そうなの」

「はい」

 リーリアも母には逆らえないのか、うなずく。アイオリアが胸の前に手を置き、膝を曲げてかしづく。

 改めて、ケルスティンや侍女たちも同じ姿勢でうつむき、衝太郎は、

(ええと、膝をついて、だっけか)

 しかし女王、

「あらあら、いいのですよ。わたくしの言い方がいけなかったですわねえ。ほら、もっと、顔を上げてみんな。こっちへ、近くへいらっしゃいな、さあ」

 手招きするから、

「マジでほんとに、いいのか」

 ようやく、その顔を表情までわかるほど近づくことができた。

 輝くような金色の髪。

 笑みを絶やさない、慈愛に満ちた表情。

 水色のドレスに身を包み、ぱっと見のプロポーションも神々しいほど。

(ふぇー、きれいな女王さまだー)

 衝太郎がついつい 見とれるのも無理からぬところ。

「あの、それで」

「ええ、そうでした。アイオリア、あなたをここへ呼んだのは、まず、のびのびになっていたリュギアス大公の称号、領地を治めることの正式な許諾を与えるためです。今日より、リュギアス大公女・アイオリアと名乗りなさい」

「は、はい。謹んで、お受けいたします」

「て、いうところなのですけれど、じつはまだティアラができていないのです。うふふ、追って届けますから、安心してね」

「はい、ありがたき幸せ、です」

 後ろで見ていた衝太郎。

(おいおいおい、戴冠式はナシ、とか、案外うっかり女王さまなのか?)

 心の中で突っ込みを入れる。

 ここで女王、ケルスティンに目を向け、

「ときにケルスティン、元ドルギアの領主と聞きますが、いまはリュギアスに寄宿の身であるとか」

「はい。そのように」

「ケルスティンは、いまはリュギアスの騎兵を率いる指揮官です。わたしがもっとも信頼し、ケルスティンもそれに応える戦績いちじるしく……」

 アイオリアが説明し、紹介する。それを遮って女王、

「よくわかりました。もとは敵とはいえ、アイオリアがそばに置き、リュギアスのために数々の戦いにも功を上げているとのこと。今回、ともに招待した甲斐があったというものです。よほど仲がいいのですね、ふたり」

 微笑む。

「仲がいい……かどうかは、そう、ですね」

「ケンカするほど仲がいい、の言葉を借りれば確かにそうとも言えるかと」

 微妙ではあるが、否定はこれまたできないふたりだ。

「そこでケルスティン、あなたにはグレナグラ=ビラ王国の正騎士の称号を授けます。正騎士ケルスティンよ、これからもリュギアスのため、グレナグラ=ビラ王国のために力を尽くしてください」

 と、女王。

「もったいないお言葉。このケルスティン、命に代えても」

 ケルスティンは馬体の片膝をついて首を垂れる。

 華やかなドレスではなく、騎士の鎧を身に着けてくればよかった、と思っているかもしれない。

「さて、ふたりには大きな用を伝え、ここまで出向いてきてくれた労に報いることができました。ここでひとつ、願いがあるのです」

「願い、ですか。はい」

「なんなりと、申し付けられたい」

「わたしは……近々、娘のリーリアに女王を譲りたいと思っています。そこでふたりには、リーリアを助け、力になってもらいたいのです」

 女王の言葉は、その場にいた全員を驚かせた。

「女王を」

「譲る」

「その、ちっこいのに?」

 最後は、衝太郎だ。思わず口から出てしまった。

「なんですって! いまなんと言ったの、おまえ!」

 むろん聞き逃さないリーリア。

「ぁ、いや、失礼した、です。でも、ちょっと聞きたいんだけど、キミは……リーリアさまは、何歳なんだ? です?」

 敬語もあぶなっかしく、尋ねる衝太郎に、

「リーリアは」

「三歳なの! なんか文句あるの!」

 顔を赤くして、声を張るリーリア。思わず玉座から立ち上がっていた。

 いっしゅんの沈黙のあと、

「三、歳」

「そうか、三歳……」

 口に出してから、その重大事にきずくアイオリアとケルスティン。思わず顔を見合わせる。

「三歳……はぁああ!?」


古来、3歳とかもっと幼い赤ん坊でも王や皇帝に即位している場合がありますからねw

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