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異世界で料理人を命じられたオレが女王陛下の軍師に成り上がる!2  作者: すずきあきら
第二章 蒸留酒はアルコール度数が高いだけ、じゃない?
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5

お酒の攻勢?まだ続きます

「なんと、これより強い酒があるでありんすか」

「うん。ちょっと本式じゃないっていうか、あり合わせで悪いんだが、オレなりに作ってみた」

 勧める次の酒。

「これ……」

 無色透明。

 独特の香りなどはなく、純粋にアルコールの匂いが立ち上って来るようだ。

「ウォッカさ。アルコール度数は九十度を超えるものもある」

「九十度! で、ありんすとぉ?」

 さすがのハイドラも目を剥く。アルコール度数の単位はこの世界にはないが、衝太郎の言い方で意味はじゅうぶんわかっているのだろう。

 それまでと違い、指でつまめるほどの小さなグラスの中の液体は、どこまでも澄んで、それだけに未知のアルコール濃度を伝えるかのようだ。

「といっても、オレの作ったこいつは、せいぜい七十度ってところだと思うがな。本来は大麦から作ったウイスキーを蒸留して作るんだ。ウイスキー自体、蒸留酒だから、二度蒸留することになる」

「二度も! それだけアルコールが凝集されて、濃くなるのね。九十度って、想像もできないけれど」

 アイオリアも言う。

「そのうえ、白樺の活性炭を詰めた濾過筒を何度も通すんだ。わざと風味を飛ばすんだよ。無味無臭なアルコールに近付けるのが価値っての、なかなか独特だと思うけど」

 ウォッカは言うまでもなくロシアの酒だ。

 厳しい寒さを紛らわすため、強い酒を呑むというところまではいいとして、風味や香りまでも極限まで消してしまうのは、やはり独特だと言わざるを得ない。

 寒いところでは人間の嗜好もシンプルになるのかもしれない。

「では、いただくでありんす」

「ほんの少しだろ? こいつはいっきに喉へ通すんだよ」

 うなずくと、ハイドラは身体ごと反り返るようにグラスをあおる。わずかだが強い酒が、あっという間に喉から食道へ、その下の胃袋へと駆け下りて行く。

「ぉほ! ぉぉぉおおおおお! の、咽が、胃が! 身体が、焼けるようでありんす!  息ができないほど……ホォオオオ!」

 見ている衝太郎たちも、ハイドラの口から炎が噴き出すのでは、と思うほどだ。

「チェイサー、飲むか」

「い、いただくでありんす」

 こんどはハイドラ、衝太郎の差し出すチェイサー=水を素直に受け取り、ひと口飲んで、ホッと息を吐き出す。


 ここでちょっとおさらい。

 一般に酒とは、大きく三種類に分けられる。

 醸造酒。蒸留酒。それに、混成酒だ。

 醸造酒は、酵母が糖分をアルコールに発酵させたもの。

 世界最古の酒が偶然出来あがったのも、この酵母のはたらきによる。そうした蜂蜜酒、馬乳酒、牛乳酒、ヤシ酒、といったものから、よく知られるビール、ワイン、米から作る日本の清酒などが有名だ。

 中国の紹興酒は、もち米を水に浸して蒸し上げ、甕に入れて餅麹と酒薬(蓼とうるち米)を入れて発酵させ、濾過、加熱、殺菌したあと、甕を蓮の葉と油紙で覆い、さらに粘土で塗り固めてしっかり密閉したあと、長期間熟成させたもの。熟成期間は五年以上にもわたる。

 対して蒸留酒は、衝太郎の言うように、蒸留器を使っておもに醸造酒を蒸留・濃縮することで作る。

 ブランデーはワインから。カルヴァドスはリンゴ酒から、キルシュワッサーはサクランボ、アクアビットはイモ類から、焼酎はイモのほか、米、麦、蕎麦、など多くの醸造酒のから作られる。

 ラムはサトウキビ、テキーラはリュウゼツランから。ウイスキー、ジン、それに本来のウォッカも、穀類から作られる蒸留酒だ。

 とくにジンは、もともとヒノキ科の木やネズの実を、麦など由来のアルコールに漬けて蒸留したもの。最初は薬用酒として広まった。

 同じウイスキーでもバーボンはトウモロコシから。ケンタッキー州のバーボン郡で、偶然、焦げた樽で熟成したことから独特の風味が強くついた。バーボンとはブルボン朝のことで、アメリカがフランスの植民地だった経緯が見て取れる。

 そのフランス、シャンパーニュ地方の白ワインから作られるシャンパンは、気候から、秋に仕込んだワインが春に再発酵してしまい、ガスが多く溜まったことから、強い発泡性を持つワイン=シャンパンができたものだ。

 そして混成酒とは、それら醸造酒、蒸留酒に、果汁や香料、砂糖、着色料やハーブなどを加えたものを言う。


(オレが即席で作った酒じゃなくて、もっと、ブランドもののブランデーやワイン、ビールなんかもハイドラに飲ませてやれたらな)

「ウォッカは、ハチミツ、レモンの汁、牛乳なんかで割ってもうまいぜ」

 衝太郎の言葉はほぼ、もといた世界での知識としてだ。

 今回、さまざまな酒を作るのにあたって味見はしているが、たしなむまでにもいたっていない。

 だがハイドラは首を振って、

「この酒をもっと楽しみたい。極めてみたいでありんす。割って飲むのはそのあとでもよい」

「よく言った。じゃあ、もう一杯だ。こんどのはよく冷えてる」

 と、衝太郎が差し出す新しいグラス。

 見るからに冷えていて、白く曇っている。果たしてハイドラは、受け取ると、

「冷たい、でありんす」

「ああ。キュッ、ってやってくれ。ずっと氷の箱に入れておいたから、氷点下以下に冷えてる」

 氷点下以下なら、水はとうぜん凍る。たいていの酒はみな凍ってしまうが、ウォッカはその高いアルコール度数ゆえ、

「凍らずに、なんだかゆっくり波打つみたいでありんす」

「オレの作ったウォッカもどきだとこの程度だけど、ほんものは零下二十度、三十度って極寒でも凍らないんだ。さ、あったまらないうちに」

 うながされ、とろみのついた液体を、ハイドラはまたもいっきに流し込む。

 そして、

「ォおお!? さっきとはまた違って、なんという爽やかさ。冷たい氷の塊が喉を通ったと思うと、そのあとで火が着いたように熱くあたたまって! これはもう、酒の楽しみを超えているでありんす!」

 まるで、夢見るような瞳、心地で訴えるハイドラだ。

「よかったよ。そう言ってくれて、オレもがんばって作った甲斐があった」

「ねえ、その、お酒を超えてるって、どんななのよ。わたしも」

「アイオリアは止めといたほうが……どうしてもっていうなら、止めないが」

「なによ、そんなちょっとくらい、ひとくちにも足りないじゃない。わたしだって……んっ! んんんんんーっ!」

 ハイドラと同じ、冷やしたグラスを受け取ったアイオリア。その半分ほどを口に含んだところで、目が白黒、反転するようだ。

「だいじょうぶか。吐き出すか?」

「んんんん!」

 衝太郎の言葉を拒んで、アイオリア、目を硬くつむると、

「ん、ぐ!」

 なんとか呑み下す。たちまち真っ赤に顔を火照らせ、しかしすぐに真っ青になり、ハイドラのチェイサーのグラスをつかむと、残りをすっかり飲み干してしまう。

「ぷぁ! はぁぁぁああ……! し、死ぬかと、思った」

「おいおい、だから言ったろ。酒自体、飲みなれてないヤツが飲んだら、マジで危ないぞ」

「ぅう、早く言ってよぉ。……でも、ほんの少しわかった。このお酒、ぅうん、ほんとうに火の精がいるみたい。精霊が宿るって、思うはずよ!」

 そんなアイオリアを後目に、

「ふふん、子供にはまだまだまだ十万年くらい早いでありんす。……んっ! ほぉぁあああ、五臓六腑に染み渡るとはこのこと……天国まで行ってしまいそうでありんすぇえ」

 二杯、三杯と杯を重ねるハイドラに、

「だいじょうぶか。もうこれだけだぞ」

 最後の一杯を渡す衝太郎。

 ハイドラはもう慣れたスタイルで、一気呵成に呑み下すと、

「ふぁあ……! よい。よい酒でありんす」

 すっかりとろけた目を、衝太郎に向けた。

 ぺろっ、と長い舌で唇をなめる。なんとも妖艶な、ゾクッとするような色気が薫って来る。

 大きく空いた胸元からこぼれるような膨らみも、ほんのり桜色にそまって香気を増しているようで、

「え、っと、ぉ」

「ちょ、ちょっと! 衝太郎! どこ見てるのよ! そんな年増の胸なんて見て、どうするつもり!」

「いや、どうするって……てか、見てないし! んおお!?」

 衝太郎の言葉が急に裏返る。と思ったときには、身体ごと空中へ持ち上げられていた。ハイドラのヘビのシッポにからみ取られたのだ。

「誰が年増でありんすえ!」

 ハイドラ。怒っているようで、笑っている。

 この展開を楽しんでいるふうだ。

「やめなさいよ! おまえの人質はわたしよ! それに、いまだって、言ったのはわたしなんだから!」

「ほーほほほほ! 誰を人質にしようと、あちきの勝手でありんすよ。んーっ、若い男の匂い、いいでありんすなぁ」

 ヘビの身体でぐるぐる巻きにした衝太郎を引き寄せ、ぴったりと身を寄せるハイドラ。そればかりか、顔と顔を合わせて頬ずりまで。

「うぉぁあ!」

「衝太郎! やめて、離して! 離しなさいよ、この年増ヘビ女!」

 怒ったアイオリアの正直すぎる、身も蓋もない言葉が飛ぶ。これにハイドラ、烈火のごとく怒るか、と思いきや、

「ぁあんぅ、いけずでありなすなぁ。美味しいお酒で楽しゅうしてなにが悪いんでありんすぇ? ん? んんんぅー!?」

 ハイドラの長い舌が、衝太郎の顔をぺろん、ぺろんっ、となめ上げる。

「ひゃぅぅぅ!」

「ぁ! こらぁ! わたしだって、衝太郎とキスしてないのに! もう無理! もう限界なんだから!」

 言うと、腰の剣を抜こうとするアイオリア。ハイドラの侍女たちが、さっ、と展開して四方を取り囲んだ。

「やめるんだ、アイオリア! 戦っちゃダメだ」

「でも!」

「こいつはただの酔っ払いだ。害はない……とも言えないが、酔っ払い相手に本気出しちゃ、野暮ってもんだ」

「ホホホホ! あちきが酔っているでありんすと? ちっとも酔ってなどないでありんす。あちきはシラフでありんすよぉおお!」

 赤い顔で高らかに。まさに酔っ払いの行状だ。

「こんな、からみ酒だとは思わなかったけどな。でもそれだけオレの酒を楽しんでくれてるってことだ」

「そうでありんすよ! わかったらさきのウォッカをもっと! もっと出すでありんす。まだまだ呑み足りないでありんすえええ」

 言いながらハイドラは衝太郎を抱きしめ、顔と言わず身体中といわず、撫でまわしている。

 それを見るアイオリアの表情がみるみる険しくなって、

「あああ、無理! それ以上衝太郎にさわってごらんなさい。ぜったい許さないんだからぁ!」

「ほおん、許さないとは、どうするでありんすか。んぅ? だったら、これでどうでありんすぇえ?」

 ハイドラ、とうとう真正面から衝太郎に迫る。

 大きな目は妖艶に身開かれ、目の周りも頬も、ポォッ、と朱に染まっている。

 青いほど白い肌に赤味が射して、うっすらと汗ばみ、甘い匂いが漏れ出すようだ。

「お、おい、ハイドラ……」

「待てと言うなら、待たないでありんす。うんにゃ! 待つ必要なんぞ、どこにあるでありんすか、フフフッ!」

 笑う唇を、自身の長い舌がレロッ、ぺロォ……なめ回しながら、ハイドラ、不意に両腕を頭の上まで上げると、

「衝太郎、気を付けて! なにか」

 アイオリアが叫ぶ。しかし、

「武器なんぞ野暮なものは出しんせん。それより、強い酒のせいでありんすか、さっきから熱うてかなわんきに……」

 ハイドラ、背中に回した手は、あろうことか身にまとった薄物の結び目を、ひとつひとつ解いていく。

「えっ、ちょ……!」

 驚く、というよりおののく衝太郎の目の前で、ふわっ、はらり……、ハイドラのコスチュームが脱げ落ちる。

 もともと、水の中を半ば住処としているハイドラだ。着衣も水着のようなもの。あっという間に、すべてのコスチュームが床に舞い散った。

「こ、こ、こらぁああ! なに脱いでるのよ! 変なもの見せないで! そんな、年増の! そんな……ぅう、ぅ!」

 憤るアイオリアだが、その舌鋒が途中で萎えるのは、

「ほぉん? 変なもの、とは聞き捨てなりんせんなぁ。このあちきの珠の肌も、この胸も、どうでありんす! 見てたもれ! ほら、ほらっ、ほらぁっ!」

 ふりゅ、ぷりゅんっ! ブラ同然のビキニトップからこぼれ落ちる、弾け出る、ハイドラのバスト。

 わずかにハイドラが手で、指でその中心を押さえているだけで、ほとんど丸々と剥き出しだ。その大きさ。

「ケルスティン以上……かな、って、こりゃあ、からみ上戸ってより、脱ぎ上戸ってヤツかよ、おおおっ?」

 衝太郎がのけ反るのは、突き出すようにその乳房が迫って来たからだ。これには、大きさの違いからか、意気阻喪していたアイオリアも、

「バカぁ! なにやってるのよ! 衝太郎、逃げてぇっ!」

 だがハイドラは、もう衝太郎をその両腕の中にとらえてしまっている。抱き寄せ、衝太郎の顔が乳房の間に埋ずめてしまう。

「ぅぐぐ、もご、ご……!」

「ふふふふん! たっぷり味わいなさえ。それともこのまま締め落としてやろうでありんすかえ? ふふっ、ほほほほ!」

 一見、極楽な顔面バスト責め。しかし実際には、

(い、息が……でき、ね、ぇ)

 衝太郎の急激に視界が暗くなる。やわらかしっとりの乳肌に口も鼻も塞がれて呼吸困難地獄に陥っていく。

 抵抗する力が急速に抜ける中、乳房の中から衝太郎の顔を掘り出したハイドラ、

「よく見ると、かわいい顔をしているでありんす。あちきのものになりんせ……」

 衝太郎の唇に自分の唇を……、

「……ぉ、ぁ!?」

「もぉお! ほんとに許さない!」

 これにキレたアイオリアが、こんどこそ剣を抜こうとした、そのときだ。

 ぼたっ。

「……ぅっ! い、痛てっ!」

 衝太郎が降って来た。痛みから、正気に戻る。

 もちろん、ハイドラがヘビの尻尾で締めつけていたのをゆるめたから、必然的に落っこちたのだ。

 そして、どさっ! ハイドラまでが。

 こっちは落ちたというより、そのまま横倒しになったと言っていい。

「衝太郎っ!」

 アイオリアが駆け寄る。助け起こして、

「だいじょうぶ? ケガは」

「ああ、ない。それより、ハイドラは」

 衝太郎と、ハイドラのもとへ。警戒しながら見ると、

「……うにゃむにゃ、くーっ、ぅぅくぅ、くくぅぅうー」

 こっち侍女たちに囲まれながら、床に横たわり、気持ち良さそうに寝息を立てていた。

「えええっ! 寝てるぅ!?」


ハイドラは、脱ぎ上戸?

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