時を戻せる僕と学園祭1
学園祭、それは高校生にとって大きなイベントの1つだ。多くの人は学生の頃の思い出に学園祭をあげる人が多いだろう。そして、例に漏れず僕もその1人だ。きっと、この高校2年生の学園祭のことを忘れることはないと思う。
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ここは手芸部の部室である。
「みんなよく頑張ったな!!全衣装完成だ!」
僕と笹田は手芸部のヘルプで2週間学園祭の演劇衣装作りに参加していた。
そして、前日のたった今、全演劇分の衣装およそ100着以上の作製の全工程が終了したところだ。
「あーやっと終わった」
僕はヘルプなので大して難しいことはしていないが布を切っては針を刺し、また新しい布が来ては切って、針を刺す。そんな単純作業の繰り返に精神は疲弊しきっていた。
「眷属よ、風松に誘われたのだが3人でこれから一杯どうだ?」
「サラリーマンか」
唯一、一緒に作業していた笹田が僕に声をかけてきた。
正直、疲れているし今すぐ帰ってだらだらしたい。
「主将!この後どうされますか?」
「決まっている!ファミレスにて前夜祭を行う!」
部長の田中の大声にうぉぉぉというむさ苦しい歓声が教室を包み込む。どうやら、周りの坊主達はこの後、ファミレスにて前夜祭をしようと企てているみたいだ。
ただでさえ疲れ切っているのにこいつらとファミレスなんて精神が持たない自信しかない。
「眷属よどうするのだ?」
「そうだね、僕も参加させてもらおうかな。場所はどこにするの?ファミレスだと手芸部の奴らとバッティングしかねないよ?」
「手芸部は修道場の近くに行くつもりだろう?王妃の城内に別の集会所があるのだ」
いつにも増して、こいつの脳内変換はややこしい。
「なるほどそこから安全か、だけど風松と笹田ってなんか珍しい組み合わせだね」
「風松も我ら同様に演劇には参加しないみたいなのでな。演劇不参加組でフェスティバルをしようと誘われたのだ。」
そういえば、風松は写真部の活動があるんだったね。
「よし、そうと決まれば出ようか」
こうして僕と笹田は手芸部員の歓喜のハカを背に抜き足差し足で音を立てずに部室を後にしてファミレスへと向かった。
「お、いたいた。お待たせ風松」
「フッ...我参上」
「遅かったな」
僕らは店員に案内され風松がいる席に到着した
「ちょっと色々あってね」
あのあと僕らは、そっと教室を出たはずなのに
文化部である手芸部の「前夜祭は全員参加だ」という運動部ノリの餌食になり追いかけられたため撒くのに時間がかかってしまった。
「2人ともずいぶん疲れが見えるが大丈夫か?」
「全く、ここに来るまででへとへとだよ。」
「...我にかかれば、あんなやつらを撒くなど何の造作もない」
へとへとの僕ら2人は到着するや否や、乾いた喉を潤すため颯爽とドリンクバーからオレンジジュースとコーラを持ってきて身体に流し込んでいた。
「それにしても風松からご飯誘ってくるなんてどういう風の吹き回し?」
頼んだ料理も全員分揃い、食べながら僕は風松に聞いた
「俺らのクラスで今回の演劇に参加しないのはここにいる3人だけだ。クラスのやつらは今も教室で演劇練習に励んでいるのに俺1人だけ真っ直ぐ家に帰るのも気が引けるからな。参加しない組で前夜祭という大義名分が欲しかっただけだ。」
普段人の目など気にせずパシャパシャと写真を撮り写真集を売り捌く風松から気が引けるなんて言葉が出るとは少し驚いた。
「なるほどね。たしかにそれは帰りづらいかも」
ふと時計を見ると時刻は19時をまわる頃だ。
幸助の話によれば毎日20時まで竜安寺鬼監督の元でみっちり練習しているとのことで脚本などは一切知らないけど僕は密かに仕上がりを楽しみにしている。
「お前ら2人は学園祭中にどんな動きになるんだ?」
「深淵なる闇の衝撃波によって削がれた羽衣を再生成するのだ」
ズビズビっとジュースをストローで飲み干した後、風松に対して笹田はそう答えた
「どういうことだ?」
もちろん風松は理解できてない
「学園祭当日は衣装の補正作業くらいしかすることないんだよね。」
「つまりは暇なんだな。」
「そういうこと」
それから、1時間ほど他愛もない話をして食事を済ませると前夜祭会場を後にした。
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こうして僕は学園祭当日を迎えた。
「奈津は先に学校行ったから今日は1人で登校か〜」
僕はあくびをしながらとぼとぼと学校へ向かう学園祭なので荷物が少なくてとても助かる。
「お久しぶりですね杉本さん。」
「今日はどうやって過ごそうかな」
胡散臭そうな細身の男が見えた気がしたが気のせいだろう。
「全く、あなたくらいですよ神であるこの私を無視するのは」
「なんだよ。僕はお前が嫌いだと言ってるだろ」
僕は、はぁとひとつため息をついた。
「相変わらずひどいですね。定期観察ですよ」
「定期観察?」
「はい、私の能力を貸してあなたの行動を観察しているのですから定期的に訪問するのは当たり前です。最近リセットの調子はどうです?」
「リセットの調子?」
僕は言われて最近の出来事を思い返す。
海の家も役には立たなかったし、奈津のファンクラブにも捕まったし。
「うーん。最近は不可避時間が多いんだよね」
「私の能力に変な名前をつけないでください。そのなんですか、おちっ...それはなんですか?」
「ん?何のことですか?」
「いや、ですから今おちん...とか言ってたでしょう」
「はっきり言ってくれないとわからないですよ?」
「杉本さんあなた分かっているでしょう!神で遊ぶんじゃありません!」
気分が良くなった僕は不可避時間についてこと細かく説明をした。
「なるほど、10秒では巻き戻しても解決できない問題が多いわけですね?」
「そうそう、第一10秒なんかで世界が変えられるのかって話なわけですよ?もっと長い時間巻き戻せないと使い勝手も悪いしさぁ」
「陰湿なクレーマーですかあなたは」
「いや、僕は別に10秒のままでもいいんですよ?ただ使う場面は限りなく少ないからこのまま続けても面白くない監察にしかならない話なので、まぁ使ってほしいならそれ相応の時間にしないとダメじゃないのかなと思いますけどね。」
「神を強請る気ですか?あなたは」
続けて神はごほんと咳払いをつく
「いいですか?確かに10秒では少ないという意見も分かりますが仮に日数単位で戻せるようにしましょう。そしたらまたあなたは入試の時みたいなカンニングなどの不純なことに使いますよね?」
「そ、それは」
当初リセットは1分戻せるものだったのだが入試でカンニングして入学した結果、神の怒りを喰らい現在の10秒まで短縮されたのだ。
「まぁ、いいでしょう今回は特別です。」
「え?」
「学園祭期間の2日間だけリセットの時間を1分に増やして差し上げます。」
「まじで!?やるじゃん神様!」
僕はその言葉を聞いた一瞬で自分がこの2週間の準備期間に作成した際どい衣装の数々を思い返しこれからの2日間の学園祭計画を立て始めた
「これは忙しくなるぞ!」
「もう変更してますので、今リセットを使ってみてください」
「おう!リセット!!」
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僕は時計の時刻を確認する
「すげぇ1分戻ってる!」
「もちろん条件をつけさせていただきます。」
「条件?」
「あなたは何をしでかすか分かりませんからね」
「それで、条件てなんだよ」
「この2日間でリセットを使える回数は3回です。」
「え、たったの3回?」
「今1回使ったので残り2回ですね」
「はぁぁぁぁ!?今使えって言ったのはあんただろ!?」
「無条件で1分まで伸ばしてあげているのですから感謝してほしいくらいですよ」
この飄々としている態度に腹が立つが確かに時間を伸ばしてもらったのは事実だから今回は許すことにした。
「僕はあと2回使ったらどうなるんだよ?3回目以降はリセットが使えなくなるの?」
「脳の血管が盛大に破裂して死にます。」
「え、やだ怖い。何この人」
「人ではありません。神です。」
「それが神のやることか!」
「使わなければいいだけの話なので簡単ですよね?」
うん、やっぱり僕はこいつが嫌いだ。
「分かったよ。もう用は済んだだろ。僕は学校に行くよ」
僕は、立ち止まっていた足を再び学校へと向けて歩き出す
「お気をつけて、学園祭楽しんでくださいね」
「けっ!言われなくても楽しんでやるよ!」
「あ、杉本さんひとつ言い忘れてたことがありました」
その言葉で顔を合わせずスタスタと歩いていた僕の足が止まり、声の方向へと振り返ると神はいつも通りのゆったりとした口調でこう言った。
ーこの学園祭中に笹田澄乃さんは死にます。ー
「は?」




