野球少年だった俺と学園祭2(48話)
「あんた達聞きなさい!演目はシンデレラで決まったわよ!」
それは、昼休みのこと皆が談笑なり机を付けて友人と昼食を取るなか、竜安寺の大声が教室に響き渡る。
どうやら、学園祭のクラス代表による演目の抽選があったみたいだ。
お〜とその場にいたクラスメイト数人は歓声をあげる
「へぇ、それはよかったね。」
歓声の中冷めた声で返事をしたのは、俺の横でさっきから裁縫道具を並べ、ずっと似たような布を無心で切っている倫太だ。どうやら箱庭の手伝いとやらで笹田と一緒に編み物をしないといけないらしい。
「何よ、あんた思ったより反応薄いわね。」
「当たり前だろ。僕は手芸部の手伝いで当日も演劇には参加しないんだから。今は全演劇分の衣装作りという頭のおかしい裁縫しか考えられないよ。」
「あら、あんた出ないの?とっておきの配役を考えていたのに残念だわ。」
「僕にとっておきの配役?いったいなんなのさ?」
「農民よ」
「演目シンデレラだよね!?そんなジャパニーズ要素絶対ないよね!?」
「アレンジに決まってるじゃない『一方、その頃日本では』の語りで登場させるわ。」
「いや、『登場させるわ。』じゃないよ!そもそも演目決まる前から配役決めてるのおかしいだろ!シンデレラじゃなかったらどうしてたのさ!」
「そんなの、シンデレラに決まったクラスの代表を札束でビンタしてイチコロよ。」
そんな強引なやり方が許されるのか
「えぇ...この人が代表で大丈夫なの僕のクラス。
奈津に聞いたけど修学旅行の部屋がかかってるんでしょ?」
竜安寺の発言に引いた倫太が俺の顔を見る
「大丈夫だ倫太。俺も同じ気持ちだ。」
「ところであんた今、全演劇の衣装作りって言ったわね?」
「え、うんそうだけど」
この感じ、何やらめんどくさそうなことに巻き込まれそうで俺は少し倫太と距離を空ける
「他のクラスがどんな演劇やるのか教えなさい。特にロミオとジュリエットをするクラスは絶対よ、全衣装作るなら分かるはずよね?」
「いや、それは分かるだろうけど。知ってどうするの?まさか、また札束ビンタするつもり?」
「失礼ね、そんな卑劣なことはしないわ」
卑劣な自覚はあったんだな
まだ人の心があって安心した。
「ロミオ役のズボンに穴を開けるのよ」
訂正する、もっと卑劣だ
「え、道徳の教科書捨てたの?」
「残念ながら、3ページ目で飽きて読んだことないわ」
「道徳の教科書に飽きたとかいう概念は存在しないんだよ!僕は絶対衣装に穴あけたりとかしないからね!?」
「いいじゃない、1つくらい股間部分に穴を開けても問題ないわよ!あんたの力で演目を『お粗末とジュリエット』に変更させなさい!」
「退学者の次は逮捕者出すつもりか!!」
曲者揃いの俺らのクラスでもやはり竜安寺は一つ頭を抜けている気がする。
結局、倫太と竜安寺の小競り合いは「まぁ、いいわあんた達今日から猛練習よ!」と最終的にめんどくさくなった竜安寺が雑に会話を終わらせた。
そんなこんなで俺らのシンデレラの練習が始まる。
_____________
放課後、早速衣装の採寸と全員に台本が配られみんなで円になり簡単なセリフ合わせが始まる。
「改めて読むとシンデレラってこんな話だったけか?」
俺は横に座っているシンデレラ役の七瀬と継母役の鳴海に声かける
「たしかに、私の記憶のシンデレラとは少し違う気がするな」
「...うん。私も違う気がする」
俺の知ってるシンデレラは魔法使いの力によってドレスやカボチャの馬車をもらうはずだが
この台本は、シンデレラ本人の力でドレスや馬車を手に入れてる。
「そりゃそうさ、もうすでにアレンジを入れてるからな」
そんな俺らの声が聞こえていたのか三本が話に入ってきた。
「いいのか?確か、アレンジはダメなはずだろ?」
「大丈夫、ちゃんと俺と美園で箱庭と委員会に裏を取りに行って多少のアレンジは許可をもらったから」
「委員会のやつらはまだしも、あの箱庭もか?すごいな」
「いやぁ、好感度モンスター美園様を連れてけば箱庭も委員長も一つ返事で承諾してくれたよ。やっぱ人気者は違うね〜」
前から思っていたが、三本は人の懐に入り込むのが上手い、きっと学級委員の鳴海を連れて行ったとしても承諾どころか門前払いにあっていただろう。
「にしても、美園1人でそんなにかわるものなのか?」
「当たり前だろ?学祭の委員て先生達の指名で各学年で数人しか選ばれないんだから絶大な信頼を置かれている生徒の集まりだぜ?」
「なるほどな」
美園を選ぶあたり周りの人間関係やどうすれば承諾を得られるか把握して動いたのだろう。流石は、あの竜安寺でさえも手懐ける男だ。
「そういえば、その美園はいないな?」
「美園は委員会だよ。学祭の委員って1年の合唱コンと3年の出店の管理もするから本祭中もずっと忙しいんだと、だからあいつの役も読むだけのナレーションてわけよ」
そんなに大変なんだなと感心しながらセリフに合わせてパラパラと台本をめくる。
そんな台本は城までの行き道に遭難した旅人を入れたり、ガラスの靴をダイヤモンドにしたりと多少のアレンジはあれどまだ許容の範囲だった。
ーーーーーここまでは、ーーーーー
事の発端は鳴海の何気ない一言からだった。
「なんかいまいち印象に残らない気がする。」
「なんですって?」
舞踏会の振付を練習していたクラスメイトの動きが止まる。
「いや竜安寺くんの脚本が悪いわけじゃないんだ!ただ...なんかもっとアレンジするならインパクトのあるものでもいいんじゃないのかと」
鳴海さんの発言にうーんと黙り考える竜安寺
「ねぇ利人アレンジってどこまで許容されてるの?」
一時の沈黙の後箱庭と委員会に話をつけてきた三本に顔を向ける
「明確な決まりはないな」
「でも、言質を取ってるならこっちのものよね!あんた達インパクト性に重視した案を出しなさい!」
そこからクラスメイトによる大喜利に似たインパクト案合戦が始まった。
もちろんクラスメイトの中には流石にやりすぎなのではないかと意義を唱えるものもいたが竜安寺の「いや、箱庭の言質とっているから」の一言はまさに魔法使いの魔法のようなもので俺たちシンデレラは時間も忘れて「それならいいか」と馬車に乗り込み暴走という城へと走った。
だが、暴走こそしていたもののクラスの雰囲気は最高なものになっていた。
「もっと腰を下ろしなさい!!」
脚本が決まり残りの期間の練習は竜安寺の監督魂にも熱が入る
「「「おう!!」」」
「そう!できるじゃない!!」
気がつけば竜安寺に反発するものはいなくなっていた。
「なんか、こういうのいいな」
七瀬と座ってクラスメイトの練習風景を眺めていたらその言葉が出てきた。
「...幸助?」
「俺中学の時野球ばっかでこんな学校のイベントは参加していなかっただろ?」
思えば俺はいつも周りの忙しそうだけどどこか楽しそうな姿ばかり見ていた。野球の試合で参加できない俺はそんな姿をどうせ学校のイベントだからと冷めた目で見ていた。
「最初は反発ばかりで誰も積極的に参加しようとはしてなかったけどさ、何かきっかけがあってこうやってみんなで一つのものに熱中して作り上げるのって楽しいな」
「...うん。私も今すごく楽しい」
「ほら茅場!光野!何ボサっとしてるの!?早くこっちに来なさい!時間は無限じゃないのよ!」
「はいよ」
どんな結果であってもきっとこの学園祭は一生忘れない記憶に残るだろう。そうであってほしい。
そして、遂に本番の日がやってきた
舞台幕を前に円陣を組む俺たちクラス一同
流石に本番前ともなると緊張する
俺だけじゃない七瀬や他のクラスメイト、中井さんもいつもより顔が硬い気がする。
「あんた達もしかして緊張してるのかしら?」
前のクラスの演劇後の拍手がまだ少し残る中監督の竜安寺から最後の檄が飛ぶ。
「いい、今までの練習の成果を存分に発揮なさい!失敗したって構わないわ!私の脚本ですものミスくらい簡単に補ってあげるわよ!行くわよ!」
監督の言葉に皆どんどん緊張がほぐれていく
『それでは次のクラスの演劇です。』
「ファイト!!」
「「「「「おう!!!!」」」」
こうして俺らの舞台は始まった。




