野球少年だった俺と学園祭(47話)
「ということで学園祭の演劇を決めたいと思います!」
授業終わりのHR正直学園祭とかどうだっていい
教壇に立ち進行しているのは美園だ。
「みんなで力を合わせればきっと優秀賞をとれると思います!」
「1月には修学旅行があるからここでみんなでもっと仲良くなろう!」
そんな言葉を並べる彼女は決して綺麗ごとで言っているわけではないだろう。
いたって真剣だ。
「美園さんがそう言ってるけどさ~正直だるいよな~」
「なぁ~早く帰ってゲームしたいわ」
だが、その真剣な声もちらほらと聞こえてくるクラスメイトの発言からして響いてはないのだろう。
「ねえ、私興味ないから帰っていいかしら?」
立ち上がったのはクラスのお嬢様竜安寺葎花だ。
財団だか、なんだか知らんが急に登校してきては偉そうな態度をとる嫌な女だ
「竜安寺さん…でも学園祭は…」
「市民のなれ合いなんて興味ないのよね。あんたらで勝手にやりなさいな。いい結果が残せたら拍手くらいしてあげるわよ。」
「まあ待ちなよ。竜安寺さん」
バッグをもちその場から立ち去ろうとする竜安寺を引き留めるのは学級委員長の鳴海だ
「なによ?」
「美園さんは夏休み前から学園際に向けて動いてくれていたのだ、協力しようと思わないのかい?」
「そうだぞ竜安寺、せっかく美園さんがクラスのために頑張ってくれてるんだ、協力してやろうぜ?」
加勢するように出てきたのは副委員長の三本
「協力して何になるのよ?なにかもらえるわけ?まあ、どうであれお金持ちの私には商品なんていくらでも手に入るから関係ないわ」
あいかわらず自己中な考え方だ。助け船を出そうにも、めんどくさいことになりそうだしここは静観が正解だな。
「そ、その一応優勝商品はでるよ!葎花ちゃんが欲しいかはわからないけど…」
「へえ、聞いてやろうじゃない!言ってみなさい」
「奈津は良く知らないんだけど“みいこちゃん”て漫画の作者さんの直筆サインだって。」
「「なにぃ!?」」
三本と竜安寺はものすごい反応を示す。
「あんたなんでそれ早く言わないのよ!!」
「そうだぞ美園!!」
「これから言おうと思ったんだよ!」
「エビピラフ先生『僕はサインを書くほどの人間ではないですよ』って言ってサインなんて基本書かないのよ!?いったいなんでよ!」
「この学校の卒業生らしいですよ。そのため今回演劇の特別審査員をしてくださるみたいです。」
ずっと黙っていた丸先生が口を開く
「なんですって!?利人あんた知ってた!?」
「いや、初めて知った!これは大変なことになるぞ!みんな演劇がんばろうぜ!」
・・・
それはそうだろ。
「ちょっとあんた達なんでそんな無反応なのよ!エビピラフ大先生がくるのよ!?」
「いや、私たちその漫画知らないし。」
「そんなもんモチベーションなんねえよ。」
クラスの多方向から野次が飛んでくる
「いま、批判した奴ら全員顔を覚えたわ。後で打ち首よ、死になさい。」
全くそんな言葉で返したらどうなるのかわからんのか?
「そんなの横暴よ!」
「そうだ!金持ちだからって何でもしていいわけじゃないぞ!」
案の定、野次がヒートアップする
「顔がかわいいからって調子乗んなよ!」
「ちょっとエロい身体しやがって!」
「ブヒィ!豚でもなんでもなりますぅ!」
とりあえず最後の2人は打ち首でいいと思う。俺が認める。
「みんな一旦落ち着いて!今喧嘩したってしょうがないよ!!」
美園の一声でクラスが静かになった。
「言い忘れてましたが、」
続けて静観していた副担任の丸先生がおもむろに口を開く
「この学園祭の演劇の順位で今度行われる修学旅行の部屋のランクが分けられるみたいです。」
―――「「「はぁ!!!!???」」」―――
「聞くところによると最低ランクの部屋はもともと墓地だったところを開拓して作ったところで幽霊がでるとか噂があるみたいですけど。」
「前々からこの学校の制度はおかしいとは思っていたが、普通学園祭のそれも演劇ごときの順位で部屋のランク分けとかするか?」
俺は隣の席の七瀬に話しかける
「…聞いたことない。」
「ですが、あなたたちは演劇に対する意欲がなかったんですよね。それならしょうがありません。最低ランクの部屋で人生最後の修学旅行を楽しんでください。」
丸先生発破をかけるのが上手いな。
「私は幽霊と添い寝するつもりなんてないわ!利人と2人でも演劇するつもりよ!あんたたちはどうするのよ!!」
―――――「「「やるにきまってんだろ!!!」」」――――
こうして俺のクラスはまんまと丸先生にのせられて演劇を本気ですることになった。
丸先生も職員室にもどり生徒だけとなった部屋で机を下げ少しだけ広くなった床に全員座り込んでいる状況でクラス会議が始まった。
「演劇をするにあたってまずは脚本よね。例年はどんな原作でやってたのかしら?」
教壇に立っているのは竜安寺、てか、なんでこいつが仕切ってんだ?
「去年はロミオとジュリエットをしたクラスが優勝したみたいだよ!」
体操座りの美園がそう返す。なんでお前がこっち側なんだ?
「ロミジュリか、王道過ぎて面白くないわね。もっと改変できるものがないかしら。」
「ちょっと待て、原作の改変は禁止だろ?なんで改変する前提なんだよ」
「多少ならいいはずよ、大体こういうのってインパクト残さないと優勝なんてできるはずないじゃない。何クラスあると思ってんのよ?それとも茅場あんたがいい案を出してくれるのかしら?」
「それはそうだが…」
たしかに、2学年全体を順位付けするなら2桁分のクラスを評価することになる。
普通の原作通りの演劇をしたところで印象には残らないだろう。
「…シンデレラとかいいと思う。」
「七瀬?」
まさか普段喋らない七瀬の口からそんな言葉が出るとは
「シンデレラ?理由を聞かせてもらおうかしら」
「…魔女や王子とか特徴的なキャラが他の作品に比べて多くでるし、このクラスの個性の強さが出しやすいと思う。王都へ向かうところとか舞踏会とか。」
「なるほどね、私の考えていた赤と緑の帽子に自分のイニシャルを入れた2人の兄弟が攫われた姫を助けに行く物語より良さそうね。採用よ。美園問題ないわね?」
こいつ、学園祭でマリオするつもりだったのか?
「うん!大丈夫だよ!でももし他のクラスと被ってしまったらくじ引きになっちゃうからそこが不安かな!」
「任せなさい、その時は賄賂を包むわ」
おいこら。
「次は配役ね。」
「すまない竜安寺」
手を挙げたのは風松だ。
「何かしら」
「俺は当日、写真部の仕事で学園祭の風景を撮影しなければならないから参加できない」
「あら、そう。他にも参加できない人はいるかしら?」
そうか、部活で参加できないやつもいるんだな。
りんたも箱庭に連れられて今回は参加しないみたいだし、
何なら俺は中学時代部活で参加しない側だったからちゃんとクラスの学園祭に参加するのは初めてな気がする。
「他はいないみたいね、それじゃ、鳴海配役表を黒板に書いてちょうだい」
「わかった!」
シンデレラ
王子
魔女
いじわるな姉妹
ねずみ
と次々と配役を書いていく鳴海
「まずは主演よね」
ある程度書き終えると竜安寺が口を開く
「主演は竜安寺がしないのか?」
三本が不思議そうな顔で質問をする
「私は今回、脚本と演出をするわ、そしてエビピラフ先生に認めてもらって“みいこ”の製作に携わる未来まで視えているのよ。」
なるほど、それは俺には視えない未来だ。がんばってくれ
「ところで主演だけど光野あなたがしなさい。」
「…え?私?」
七瀬は急な指名を受け呆気に取られている。
「そうよ、このクラスの強みは学校中に広まっているあんたのビジュアルよ。生かさないわけないわ」
「…私にそんな大役は務まらない。」
「何言ってんだ、逆にお前じゃなきゃ誰がそんな大役務まるんだよ?」
「…幸助?」
「あんな頑固でわがままな竜安寺がお前を認めてお前にしかできないって言ってんだ。断ったら誰が竜安寺を納得させられるんだ?」
「そうだよ七瀬ちゃん!自信もって!」
「光野さんならきっと最高のシンデレラにしてくれるだろう。」
俺に続いて美園と鳴海が背中を押す声を飛ばす
「茅場の言い方は癪に障るけどまあ、そのとおりよ。案体外に主役を任せられる人なんていないわ。やってちょうだい。」
「光野さんが主役なら優勝間違いなしだ!」
「頑張ってね!七瀬ちゃん!」
次々とクラスから激励の声が飛んでくる
「わかった。やってみる。」
「なら次は王子役よ、まあ、あんたら全員考えは同じよね」
考えが同じってなんだ?
というか、全員の視線が俺に向いている気がする。
「お、おい待て!まさか俺か!?」
―――「「「うんうん」」」―――
全員声を揃えてうなずく。
「あんた、背も高いし顔もこの中じゃ悪くないんだからやりなさい。」
「いや、ほめてくれるのはありがたいがだな。」
「それに隣の光野をみなさいな。」
「…わたしは幸助がいい。」
俺の顔をじっと見つめそうつぶやく七瀬。
もう断る理由がみつからない。
「わかったよ!そのかわり優勝できなくても文句言うなよ?」
こうして俺の思いもよらない学園祭が幕を開けた。
次話も来週のどこかで掲載予定です。




