時を戻せない僕の非日常(45話)
時を戻せない僕の非日常
『受験生だから塾で自習しに行くんだよね』
『悪い、明日からテストだから勉強するわ』
勉強は嫌いだ、やっていても楽しくないし退屈だ。
中学3年生の春のこと、2年生から3年生に上がった途端これまで一緒に遊んでた友達たちは勉強を理由に遊ばなくなった。
急に周りだけ大人になったかのようなそんな感覚が僕にとって不快でたまらなかった
『りんちゃんの好きな高校に行きなさい』
親は勉強しない僕に対して攻めるなんてことはせず、やりたいようにさせてくれた。
これはそんな日常が少しだけ非日常へと足を踏み入れたそんな日の出来事である。
「まったく、みんな口を開けば勉強、勉強てそんなに大事かね」
学校の帰り道、棒アイスを咥えて1人ベンチに座り公園で遊びまわる小学生を眺めていた。
「全く小学生は幸せだよな、勉強なんてしなくとも誰にも怒られないんだからね。」
いや、別に僕も勉強してないけど誰にも怒られはしないか
「でも、小学生は幸せだよな毎日遊んで寝るだけの生活ができるんだから」
いや、別に僕も学校から帰ってゲームして寝てるだけか。
・・・あれ、もしかして僕って幸せなのでは?
「ごめんなさーい!取ってくださーい!」
ぼーっとしていて気づかなかったが足元を見ると1つのサッカーボールが転がってきていた。
「ほら、気を付けるんだぞ、後ろは道路なんだからな。」
「ありがとうございます!」
僕は駆け寄ってきていた小学生に人生の先輩としてのアドバイスをしながらボールを返す。
「アイスも食べ終わったしそろそろ帰るか。」
咥えていたはずれの棒をゴミ箱に捨て立ち上がった。
「人生が退屈だって顔をしていますね。杉本倫太さん」
突然後ろから声をかけてきたのは、身長180センチは裕に超えているであろう細身のスーツを着た男性だ。
「え、誰ですか?というかなんで僕のなまえを?」
「あー、名前を申してから挨拶が人間界のマナーでしたね。初めまして私は神です。」
(なんか、喋り方からして胡散臭いな、よし、聞こえないふりして逃げるか)
「胡散臭いだなんてひどいですね。それに逃げようだなんていくら神の私でも傷つきますよ?」
「え?」
(今、僕声に出してたっけ?)
「ちゃんと頭の中で考えられてましたよ。」
(だとしたらなんで、僕の考えていたことが分かるんだ?)
「そんなの簡単じゃないですか。私が神だからですよ。なんだってできます。
あなたの考えていることは映像化して見ることだってできますよ。」
(ほ、本当に神なのか?)
「さっきから神だと言ってますよね?」
この時の僕は目の前で自分を神だと名乗る人物が自分の考えていることをすらすらと当ててくる非現実的な現象に混乱状態だった。
「全くあなたたち人間は都合のよろしい時だけ私の存在を信じて、いざ目の前に現れると存在を否定するのですね。実におろかだ。」
「出会って数秒くらいだけど、あんたなんかむかつくな。」
「怒るのは大変結構ですが、言葉は選んだ方がよろしいですよ?あなた1人ぐらい消したところで人間界にとっては誤差ですから。」
こうなったらやってやる・・・
「え?」
僕なりのやり方でこいつにぎゃふんと言わせてやるんだ!!
◎$♪×△¥●&?#$
「あなた一体なにを!?」
思考を読まれることを裏手に取った僕はありとあらゆる雑念を脳内に繰り広げた。
「やめなさい!!あなたなんて汚らわしいことを考えるのですか!?これは本当に人間がすることですか!?」
それはものすごく勉強嫌いな僕が唯一毎日動画を見て勉強する『保健体育の実習分野』のことを
「まだだ!!ここをこうしてこうすることもするんだ!!人間の可能性をバカにするなあああああ!!!」
―5分後―
「・・・ハアハア」
「・・・やりますね。流石に今のは神である私も一本取られましたよ。認めますよ全知全能の私がまだ人間に関して未知の領域があったことを。」
「それならよかったですよ。じゃあ僕は満足したんで帰ります。」
「待ちなさい。」
神と名乗る男はその場を去ろうとする僕を引き留めた。
「あなたはもし時間を巻き戻す力がもらえるとしたら欲しいですか?」
「…時間を巻き戻す力?」
「はい。」
そう言うと神はベンチに腰掛け、僕にも座るように促した。
「杉本さんあなたは人間のことをどう思いますか?」
「どう思うと言われても、そんなこと考えたこともないしなぁ」
「私の仕事は、生命を終えた生物の生まれ変わりをするか地獄に落とすかの二択を決める仕事をしています。あなたたち人間界で言うところの閻魔様と呼ばれるところです。」
「急に壮大な話ですね。」
「あなた達人間の中には自分のプライドのために他を犠牲にして、救えるものの命を見過ごす愚か者もいますし、寿命は残っているのに自ら死を選ぶ大バカ者もいますし、見えないところから誹謗中傷する小心者もいます。」
腕を組みぺらぺらと話し出す神
「あーちょっと話が難しそうなので簡単に言ってもらってもいいですか?」
僕の言葉を聞き「はあ」と一つため息をつくと神は疲れた顔でこう言った。
―「最近仕事が多すぎて休めないので、死ぬ人数減らしてもらっていいですか?」―
「それは僕にはどうしようもないだろ!!」
「具体的な方法を提案したほうが良いですか?戦争をなくしてください。」
「むりですって!僕に大統領にでもなれって言うんですか!?ただの中学生ですよ?」
「いけます。人間の可能性を諦めないでください。」
「…それ5分前の自分に同じこと言えますか?」
「もちろんです。神に誓います。…あ、神は私でした。」
どうしよう。僕こいつに1発タックルかましたい。
「いいですか。杉本さん、神になれって言っているわけではないのですよ?」
「いや、だったらあなたがすれば良いじゃないですか?不思議な力で止めれるでしょ」
「もちろんできますよ。ですが、人間の生死に関与する行為は神の規則で禁止なのですよ。」
少し残念そうな顔をしながら神は言った
「いやだね。僕はこれから受験だし忙しいんだ。」
「ほう。受験生というのは学校終わりに公園で無駄な時間をすごすのですね。実に興味深い。」
くっ…こいつ痛いところを突きやがる
「今のあなたからは何をしても満たされない退屈の感情しか見えませんが、まあいいでしょう。他を当たりますよ。」
半笑いで僕を煽ってくる
「そうしてください、僕はあんたが嫌いだ!あんたの力になるつもりなんてこれっぽちもないね!」
「わたしが嫌いですか。なるほどそれは実に興味深い。まあ、私とお話しした記憶は消しますし時間も巻き戻しますのでご安心を。」
そういうと神は手のひらをこちらに向けた
その時だった。
『キキーッ!!』
『ドン!!』
大きなブレーキ音と聞いたこともない鈍い音が突如公園に響き渡ったのだ。
音の方向を向くと大きなトラックと近隣住宅や通行人が群がっている。そしてその中央には
「え。」
先ほどの小学生が力なく横たわっていた。
「あらあら。また仕事が増えたではありませんか」
驚く僕に反して神は呆れているような顔をしている。
「きゅ、救急車を呼ばないと!!」
「無駄です。」
「は!?おまえ何言ってるんだ!助かるかもしれないだろ!」
僕は慌てて携帯を取り出すと急いでダイアル画面を開く
「無駄だと言っているでしょう。あの方の寿命は今日で尽きる運命なのです。」
「だったらお前の力を使ってあの子を助けろよ!」
「それは無理です。」
「なんでだよ!!」
「先ほど説明しましたよね?神は人の生死に関与してはいけないと。まあ、あの方は年齢的にも考えてすぐに生まれ変わりまた1から新たな人生のスタートになるでしょう。次は早く亡くならないといいですね。」
そういいながら目の前の男は口元を手で押さえニコニコと笑う
「ふざけるなよおまえ!!何笑っているんだ!!」
僕は思いっきり男の胸ぐらを掴んだ。
「自分の知り合いが死んだわけでもないのになぜそこまで怒るのです?実に興味深いですね。それより見なさいあそこの人間たちを。人が死んだというのに一生懸命携帯をむけ動画を撮影しておりますよ。人の死を笑っているのは私よりも、あなたたち人間の方ではないのですか?」
助けられない。そうかもしれない。もう遅いかもしれない。
どうやったらあの子を助けられる。どうしたら。
「おい、神」
「ほう。やっと私が神であると認めましたか。」
「力をよこせ!」
「神に命令だなんて、背信行為極まりないですね。何をする気です?」
「時間を戻してあの子を助ける!神のお前が人間の命を助けるのはだめかもしれないが人間の僕ならいいはずだ!」
「なぜです?あなたには関係ないでしょう?」
「そんなの決まってるだろ。お前にとってはたかが1人の命かもしれない、人の死を喜ぶ人間だっている。でもあの子にも家族がいて友達がいて、死んだら悲しむ人がいるんだよ!そんな人を少しでも減らしたいと思うのも僕たち人間だ!」
僕がそう言い切ると神は少し微笑んだ気がした。
「心の中でリセットと唱えなさい。そうすれば時は巻き戻ります。」
神は僕に手のひらを向けながらそう言った。
必ず救って見せる!
「リセット!!」
こうして僕は初めてのリセットを使った。
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「!!」
…戻ったのか?
「はい、戻りましたよ。先ほどの道路を御覧なさい。」
僕は言われたとおり道路を見やる。
「何もない。」
男の子が倒れてなければ、人も群がっていない。
「あの子は!?」
僕は本来の目的である男の子を探す。
「いませんよ。」
神はニコニコしながら僕にそう言った。
「は?時間を戻したんだろう?だったらいないなんてことはないはずじゃないか」
状況を読み込めない僕をよそに『ゴー』という音とともに先ほど男の子を無残な姿に変えてしまったトラックが大きな音を立てて通り過ぎて行った。
「それじゃあ、あの子は一体…」
「私が生み出した幻覚です。」
「そうか、全部幻だったのか。」
「ほう。驚かないのですね。」
顎に手を当て少し驚いた表情を見せる
「今更もう驚かないよ。でもなんでそんなことを?」
「テストです。」
「テスト?何の?」
「あなたが能力を持つにふさわしいかどうかのですよ。もちろん合格です。」
神はうれしそうな顔を僕に見せる。
「合格?」
「ええ、見ず知らずの男の子のためにあんなにも素直で必死になる姿、実に素晴らしかったです。」
「僕に一体これから何をさせるつもりだ?」
「なにか成し遂げろだなんていいませんよ。そのままのあなたで生活をしてください。」
「そのままの僕?」
「私、人間が好きなのですよ。多種多様で様々なストーリーを見せてくれる人間がね。だからこそ天寿を全うしてから神である私のもとへ最後に逢いに来てほしいのです。」
さっきまでの憎たらしいキャラとは一変してとてもいい性格に見えるきっとこれも幻覚だ。
「多くの笑顔で最後に人生を振り返ってほしい。もちろんあなたにも、全員救えとかそんな無謀なお願いはしません。あなたの手の届く範囲でよいのでその力を使って幸せな人を増やしてください。私はあなたの可能性を心から信じていますよ。」
そういうと神は目の前から一瞬で姿を消した。
「やってやるさ。僕はこの力で正しい世界に変えてやる!」
誰もいなくなった公園でひとり天に向かってそう叫んだ。
―それから時を戻す力を乱用して今の高校に不正入学するのは少し後の話である。―




