時を戻せる僕とファンクラブ1(41話)
九月中旬の朝であった
ふと目覚めた僕は身体に違和感を感じた
"動けない"
それはまるで金縛りにでもあったかのごとく体が縛られて動かなかった。すぐに助けを呼ぼうと思ったがこういう時は声が出せないのがお決まりである。一体僕が何をしたのだろうか、どうしてこんなに不運なのだろうか出せないため息を一つつき目の前の黒いサングラスをつけた学ランの集団をじっと見ていた。
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それは遡ること半日程前のことである
いつも通り箱庭先生の指導という名の体罰をくらい重い足取りで家へと辿り着いた。
「ただいまー」
「おかえり!りんちゃん!」
出迎えたのは母ではなく近所に住む幼馴染美園奈津である。
「今日は僕の家でご飯食べるのか?」
奈津が僕の家で夕飯を一緒にすることは全然珍しいことではないむしろ小さい頃は頻繁に食べていた。
「うん!りんちゃんご飯食べる?それとも先にお風呂にはいる?」
「うーんどうしようかな」
それとも「わ・た・し」という選択肢を少し期待したけども案の定それはなかった
「そんじゃ先に風呂入る」
制服のボタンを外しながら浴室へと向かったその時だった。
「あ!りんちゃん頭に虫!!」
『トタトタ』
「え?どこ?」
〜『ツルッッ』〜
「うわぁ!」
「あぁぁぁ!!」
『ムニュ』
『ドン!!』
〜『チュッ❤︎』〜
・・・
わずか数秒の出来事でお互いの唇と唇が重なり合い奈津が僕の上にのっかかる奇妙な絵面がそこにはあった。お分かりいただけただろうか。
一体僕らの身に何が起こったのかそれは僕ら自身も理解できておりませんそれでは、なぜこのようなことになったのか順を追って説明するため『リセット』を使いましょう
僕は塞がった口のまま心の中で久しぶりに唱えた
『リセット』と
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ーちゃん頭に虫!!」
振り返ると飛んでいたのは虫ではなく黒い糸だった恐らくリビングかどこからか飛んできたものだろう。
『トタトタ』
迫り来る奈津しかしそのわずか数センチ先にある謎のバナナの皮
『ツルッッ』
「うわぁ!」
見事に滑り僕に向かってこける奈津
ここで避けるという選択肢もあるが、もしこのまま避けたら大惨事だ、ならば先程のように"唇"が当たらないように防ぐまで。
「こい!」
僕は構えたそれはまるでサッカー日本代表ゴールキーパーのように!!
「あぁぁぁ!」
奈津の小さいようででかい身体が時速100k m(体感速度)で飛んでくる。いける!僕の算段では飛んでくる奈津を抱きしめそのまま倒れることなく「危ないだろ?」とクールに言いすてそのまま浴室へと向かう算段である。
だがしかし、スポーツにも日常にもイレギュラーはつきものだ。
『ムニュ』
そう反発したのだ!奈津の小さい身体に備わっている恐ろしい二つもの兵器が僕らの間でまるで高反発枕かのように!
『ドン!』
先に倒れる僕そして反発したもののバランスを崩した奈津は僕の体の上...いや唇に重なるように降ってくる
『チュッ❤︎』
さぁこうしてこの奇妙な図の完成である
所有時間はなんと驚きの7秒!この動作を25回行うとカップラーメンが出来上がるよ!
「ハッ!ご、ごめんりんちゃん...」
「...な、奈津の方こそ大丈夫か?」
急いで起き上がりお互い顔を合わさずに会話をはじめる。
「奈津...チュウしたの初めてで...そのリビング行ってるね!」
奈津は顔を真っ赤にして急いで母がいるであろうリビングへと向かった。
「最近多いな不可避時間...」
リセットを習得して約2年気づいたことが多くある
まずリセットの乱発だ。
リセットで戻せる時間は10秒だ、10秒以下の秒数に戻すことはできない、だが10秒以上戻すことはできなくもない。方法は簡単でリセットを乱発すればいいのだしかし、リセットの10秒間が終わる前にリセットを使うとひどい頭痛が走る。
「なにそれしょぼ!?」と思ったことかもしれないけど、あの頭痛は本当にやばい!そしてこの頭痛が先程の現象を...不可避時間を引き起こすのだ。例えば今回僕がリセットを二回使い20秒戻したとしよう。しかし時間というものは戻してもなんらかのことがあり最初に時間を戻した時、回避しない限りさっきの場合のキスという出来事へと辿り着くようになっているため頭痛があると回避することは不可能であるこのリセットを使っても回避できない現象をどこまで伸びるかわからない僕の股間になぞらえて不可避時間と僕は呼んでいる。
「...キスなんて僕も初めてだぞ。」
普通の男子高校生ならどうだろうかこの状況、帰ってきたら近所の幼馴染(爆乳)と誤ってキスをする。
普通なら間違いなくそのまま一夜の過ちへと誘うことだろう。
『ブーブー』
そんなことを考えていたら携帯が鳴った。
「が、学校!?」
スクリーンに映し出された漢字二文字に僕は驚愕した
「はい!もしもし!」
「もしもし杉本くんですか?丸です」
このか細い女性の声はうちの副担任であり化学の担当もしている丸先生だ
「はいそうですが、なぜ番号を?」
「風松くんに教えてもらいました。」
風松?いや、そもそもなんで僕に電話なんだ?
丸先生に対して怒られるようなことは何もしたことないぞ?
「それで要件なのですが明日8時に化学室に来てほしいのですが大丈夫ですか?」
「大丈夫ですけど一体なんでですか?」
「授業で使う実験器具の準備を手伝ってほしいんです」
「な、なぜ数多いる生徒から僕を選んだんですか?」
「箱庭先生が雑用は杉本くんを使えと」
あの箱庭絶対許すまじ。
「大丈夫なのですよね?」
丸先生は生徒に対してもこのものすごく丁寧な口調もあり生徒からも絶大な人気を誇る先生だ。それだけに断りにくい
「わ、わかりました。」
「ありがとうございます。楽しみにしてますね」
「楽しみ!?なんでですか!?実験器具の準備だけですよね!?」
「いいえ化学教師にとって実験とは楽しみなものなのですよそれではまた明日」
そ、そうなのかなぁ
電話が切れたあと少し考えたがまぁ人には人の乳酸菌のように人の考えなんてそれぞれなのだからわからないという結論に至り風呂へと向かった
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「ふぅさっぱりしたぁ」
風呂から出た僕は寝巻きに着替えそのまま食卓へと向かった。
「おじさん、おばさん子供ってチュウしたらできるの?」
リビングのドアの前へ来た時だ。奈津のその言葉が聞こえてきた。
「パパどうしようなんて答えたらいいのかしら」
「ママの口から教えてあげてよ」
間違いなくその質問は子供に聞かれて困る質問第1位だ。
「奈津ちゃんどうしてそんなこと聞くの?」
「その...実はさっきりんちゃんとー
『どりゃぁぁぁぁぁ!!』
大声をあげてリビングへと入る僕
「どうしたのりんちゃんそんな大声だして」
母さんが驚いた表情で僕を見る
「ただの発声練習!!」
「そんな大声出したらご近所さんに迷惑だろ?それより奈津ちゃん倫太とどうしたの?」
しかし父さんは僕から奈津へと視線をもどす
「だから...そのりんちゃんとー
『マンマミーア!!』
絶対言わせないキスしたなんてことがバレたら絶対気まずくなる!
「あ!これはオペラの練習!!」
「りんちゃんも奈津ちゃんも顔真っ赤だしさっきからおかしいわよ?一体二人に何があったの?」
「だ、だから...」
「「だから?」」
もじもじしてる奈津を両親が心配そうに見る
ー「りんちゃんとチュウしちゃったの!!」ー
しかしもじもじから一転、奈津は叫んだ。まるで甲子園の応援団のように
『リセットォォォォ!!』
僕もすかさず叫んだ全ての言葉をかき消すように
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一体二人に何があったの?」
「奈津ちゃん集合!!」
座ってる奈津の腕を引いてリビングを出る
「どうしたのかしら二人?」
「孫が出来ちゃったらどうしよママ!!」
「あら、大変ね名前考えなくちゃ!」
あの両親につっこむ余裕はない
「やっぱり子供ができちゃうのかな...」
「子供はできないから安心しろ」
「え!?そうなの!」
「もっとアバンチュールな事しないとできないんだよ。保健の授業で習わなかったのか?」
「奈津保健苦手だから!」
「そ、そうかとりあえずキスしたのは二人だけの秘密な」
「え〜なんで!?」
「なんででもだ。もし誰かに喋ったらしばらく口利かないからな」
こう言っておけばキスが流れることはないだろう
「う〜わかった。」
「わかったら戻るぞ腹減った」
「うん!」
それから僕らは夕飯を囲んだ。
そしてこれが現在の状況に繋がることをこの時の僕は知らなかった。




