野球少年だった俺と無表情な彼女4(31話)
『キーンコーンカーンコーン』と校内に響き渡るチャイム、それはいつも通りの昼休みを表すものだ。みんなが一斉に立ち上がり各々の昼食を摂る場所へと移動する。その中に1人紛れて光野が教室を出て行った。
「おーい茅場昼飯食おうぜ〜」
いつも通り斜め前の席の川田が昼食に誘って来た
「悪い、ちょっと用事あるから明日な」
「なんだ?女か?」
「まぁそんなところだ」
去り際にそう言い残して教室を後にする。
「え!?マジで!?誰だ!どこの女だ!」と
教室から大声が聞こえてきたが、聞かなかったことにしよう。
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一階におり下駄箱で靴を履き替え外に出る、校舎沿いに少し歩くとそこには小さいベンチがある。
案の定、ひとりの女子生徒が昼食を摂っていた。
「やっぱりここにいたか。」
俺の声に反応し、こちらを振り向く
「・・・なに?」
久しぶりに声を聞いたな、しかし相変わらず表情一つ変わらない。
「お前に話がある」
俺の言葉を聞いた彼女は無言で立ち上がり弁当を片付けて移動しようとしていた。
「待て待て、まだ何も言ってないだろう?」
「・・・用件があるなら手短に言って」
少し機嫌が悪そうな感じがするな
手短にか、まぁ元から長く言うつもりはなかったが「野球部のマネージャーしないか?」だと直球すぎるだろうか?なんて言えばいいんだろう。
「・・・」
光野は長々と何を言うか考えている俺を見て無言でこの場を去ろうとしていた。
「ちょっとまってくれ」
「何も用がないならわざわざ来ないで」
ー「野球好きか?」ー
口に出していた言葉は自分でも予想外だった。
「・・・前も別に好きじゃないと言ったはず」
少し間を空けて返事が返ってきた。
「キャッチボールしないか?」
予定とは違う言葉が次々に出てくる。
「・・・いやだから好きじゃないと」
「少しだけでいいから!」
「、、、まぁ5分くらいなら」
俺の押しに負けたのか、それともキャッチボールがしたくなったのか光野は快諾してくれた。
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「右利きだよな?」
「うん」
俺たちは職員室から鍵を借り、部室でグローブとボールを用意していた。
「俺のグローブ貸すよ」
「、、、ありがとう」
そして俺は置いてあるキャッチャーミットを手に取った。幸いにもグラウンドは人がいない結構広く使えそうだ。
「光野いくぞ?」
「うん」
俺の投げたボールは光野のグローブに『バシッ』という快音と共に吸い込まれた。
「おぉやるなぁ」
彩瀬さんの話だとお父さんとキャッチボールをしていたらしいからある程度は強く投げていいのかもしれない
『バシッ』光野の返球も女子にしてはなかなかなものだ。
それから1分くらいは投げては投げ返す一連の動作をしていた。
「上手いな光野」
『バシッ』
「そんなことはない少しやったことがあるだけ」
『バシッ』
「お父さんとか?」
『バシッ』
「・・・」
「昨日お前の姉さんに、、、彩瀬さんに会ったんだ。」
「え、、、なんでお姉ちゃん」
ころころと光野のグローブからボールが落ち、転がっている。
「悪いけど、その時にお前のこと色々聞いたんだ。本当は野球好きなんだろ?だったら野球部のマネージャーしてくれー『いい加減にして!!!』
初めて光野の怒声を聞いた、その表情もいつもの無表情とは一転して、すごく怒っているのがわかる。
『なんでそんなに私に関わってくるの!?放っておけばいいじゃない!!』
「放っておけるかよ」
『なんで!?あなたと私はそんなに深い関係でもなんでもないのに!!』
ーお前のことが好きだからだよ。ー
「・・・え?」
おい、、、俺今なんて言った?
「私なんかのどこがいいの?」
、、、俺はこいつのこと好きなのか?
「さぁな」
俺はなんで "好き" だなんて言ったんだ、、、
「じゃあなんで私のことが好きなの?」
俺が聞きてぇよ、、、
「人を好きになるのに理由はいらねぇんだよ、、ただ好きだって思ったら好きなんだよ。」
ドラマのセリフまんま言ったけどいいのか?
これでいいのか?本当に俺はこいつのことがー
ー好き、、、なのか?ー
「「・・・」」
少しの間静寂が俺たちを包む
「そ、それに野球が好きなのに嘘をついてまで1人になろうとするお前が放っておけないからな」
「、、、結局私がいると邪魔になるから」
光野は少し下を向き、そう答えた。
「邪魔だなんて誰が言ったんだ?先生か?クラスのやつか?」
「、、、言ってない」
「じゃあマネージャーやればいいじゃないか?」
「でも、お母さんが7年前に言った。」
「なんて?」
ーあんたのせいで家族が壊れた、あんたなんかいらないー
光野の口から出た言葉に俺はどうしようもない怒りがこみ上げてきた。彩瀬さんもきっと同じ気持ちだったのだろうか。
「、、、お前の母親は本当にそんなことを言ったのか?」
彼女は無言で頷いた。
「私は邪魔者だから、野球部に入ったら迷惑になる」
「そんなわけあるか!!お前が入って迷惑だと!?
むしろ大歓迎だ!!こっちからお願いしてやる!」
光野は驚いたように目を見開き俺を見ている。
「それにな!この世にいらない人間なんていないんだよ!どんな人間だってこの世には必要なんだ!俺だってそうだし、お前もだ!」
「、、、でもお母さんは」
彼女はすごく困惑している。
「お前の母さんがなんでそんなことを言ったのか俺は知らない!でもお前はお前でいいじゃないか?わざわざ気持ちを殺してまで生きて楽しいか!?」
『楽しいわけないじゃない!!』
彼女は涙をこらえながら叫んだ。
『私だって、、、私だって!野球がしたい!!でも、、、怖い!またあの時みたいに自分のせいで幸せが壊れるのが!!』
溢れた涙を拭いながらその場に座り込んだ
「全部が全部簡単に壊れると思うなよ!俺はお前の幸せを絶対壊さない!絶対にだ!!」
もう光野が1人で悲しそうにしてるところなんて見たくない!光野のために、光野のために!
ー何かしてあげたい!ー
「俺がずっとお前のそばにいてやる。」
俺は座り込んだ光野の正面に座った
「・・・本当に?」
顔を上げた光野の目からぽろぽろと涙が溢れていく。一つまた一つと地面に水滴が垂れていく。
「だからもう泣くな、少しは自分に正直に生きてもいいんじゃないか?」
俺は光野にずっと笑っていてほしい。
、、、もしかしてこれが"好き"ってことなのか?
「私なんかがマネージャーしていいの?」
「いいんだよ」
「何もできないかもよ?」
「少しずつ学んでいけばいい」
「ずっと喋らないかもよ?」
「それは、、、ほどほどにな?」
「、、、ありがとう。私頑張る。」
「あぁ頑張れ本当に短い間だけどな」
「それから、、、」
「ん?」
「私も"幸助"のこと好き!!」
「なっ!?」
今好きって?それに下の名前で!?
「私は"お前"なんて名前じゃない、、、七瀬って名前がある。」
「、、、わかったよ」
女を下の名前で呼んだことなんてないからな、、、
少し緊張するな
ー「七瀬」ー
「ふふっ!」
俺はその日初めて光野の、、、いや七瀬の笑顔を見た。




