野球少年だった俺と無表情な彼女3(30話)
それから一週間後の帰りのHR
「今日は光野が休みなわけだが、誰か家に連絡簿を届けてくれる人はいないか?」
その日学校に光野の姿はなかった。
マネージャーに勧誘したあの日から俺は光野と一言も会話を交わしていない正確に言えば光野が会話を返してくれなかった。
「誰もいないか?」
クラスの皆はやはり光野にあまり良い印象を持っていないみたいだ。
「いいのか茅場?」
「まぁ俺でいいならいきますよ?」
気がついたら俺は手を挙げていた。
「それじゃあ茅場は住所教えるからHR終わったら職員室に来てくれ、それじゃ終わるぞ」
先生の言葉の後に日直の号令がかかる
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「お前急にどうしたんだ?」
部活が終わり荷物をまとめていると隣の川田が着替えながら俺に話しかけてくる。
「どうしたって何が?」
「連絡簿のことだよ、一度でもお前が人の家に届けたことがあったか?」
「ないな」
確かに一度もない
「光野さんだからか?」
「そうかもな、じゃ俺は行くから」
「気をつけろよ大会近いんだからな怪我とかすんなよ」
「分かってる、お前は俺の親か」
それから先生から渡された住所を見ながら俺は歩いていた
「ここか、、、」
住所が示すのは建築してからかなりの時間が経ってそうなアパートだった。
201号室とのことなので二階に上がり部屋の前まで行く
しかしチャイムを押すのは緊張するな、、、
『ガチャ』
え?ドアが勝手に開いた。
「あれ?どうしたのきみ?」
中から出て来た女性は見た感じ20代前半くらいで光野の母にしては若すぎる気がする、姉といったところだろうか?
「うちに何かよう?」
「あ、、、えと」
急な出来事に頭が回らなかった。
とりあえず分かったことはこの女の人が携帯を取り出し1を二回と0を一回押したということだ。
それは俗に言う110番というもので、警察を呼ぶために押す番号だ。
「ちょっと待ってください!!なんで110番押したんすか⁉︎俺は怪しいものじゃないっすよ⁉︎」
「え?違うの?」
「俺は七瀬さんの同じクラスの茅場で、連絡簿を届けに来ただけです!」
「もしかして七瀬の友達?」
「まぁ、、、そんなところです」
はたして、俺は光野の友達なのか?
「七瀬に友達がいたの⁉︎今あの子買い物に行っていないけどさぁ上がって!」
腕を掴み強引に俺を部屋の中へと引きずりこむ
「そんな硬くなくていいから、座って座って」
六畳一間のワンルーム部屋の中は目の前にテーブルそして小型のテレビと光野とその家族と思われる写真が壁にいくつも貼られている。
「あぁ自己紹介がまだだったわね、私は光野彩瀬七瀬の姉よ」
テーブル越しに俺と彩瀬さんの会話が始まる
「これ連絡簿です。」
「どうも」
それから少しだけ俺から見た光野のこととか色々な話をした。
「それで七瀬さんの具合は?」
「あぁ実は風邪はひいてないんだよね、」
「え?サボりすか?」
「いやぁそれが一週間前くらいから元気なくてね何か知ってる?」
一週間前?それってちょうどマネージャーに勧誘した時だ。
「俺と監督が野球部のマネージャーに勧誘しました。」
「え⁉︎そうなの?あの子なんて?」
「それが、最初はやりたいって言ってたのに親の許可がいるって聞いた瞬間にやめるって」
「あぁそうか、やっぱ気遣ってんのか野球好きなんだからやればいいのに」
「やっぱり野球好きなんですね」
まぁ分かってはいたけど
「あれ?言ってないの?好きなんてもんじゃないよ前の中学校でもよく試合見に行ってたもん」
ちょっと待て、それって加賀中だよな?
「小さい頃は私と父さんの三人でよく公園でキャッチボールしてたなぁ」
聞いてはいけないと思ってた、でも知りたいと思った。
ーあの七瀬さんの両親て何しているんですか?ー
「・・・」
彩瀬さんは少し下を向いて黙る
「すんません、、、今のは忘れてください」
「いや、いいよ多分七瀬は学校で話せる人は君くらいでしょう?」
「それが、俺もそんなにはなしてませんよ」
「話を聞く限り七瀬はきみと仲良くなりたいみたいだけど?」
「え?俺話しかけても無視されてるっすよ?」
「昔はそんな子じゃなくてね、家族が大好きで明るい子だったんだけどなぁ」
少しの間無言になる
「いいよ、話してあげる私と七瀬の両親のこと」
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僕は幸助とゲームをしながら二人の過去の話を聞いていた
「へぇ七瀬、姉ちゃんいたんだ」
「あぁ性格は真反対だけどな顔はそっくりだぞ」
七瀬と顔がそっくりということはかなりの美人なんだろう。
「それで七瀬の姉ちゃんはなんて言ってたの?」
「それはなぁー
「懐かしい話をしてるね、幸助くん」
「「え?」」
僕にとっては聞いたことのない声だが、隣の幸助は声を聞いて硬直している。
「あ、彩瀬さん⁉︎どうしてここに⁉︎」
彩瀬?もしかして七瀬の姉ちゃんか⁉︎
「あれ?言ってなかったっけ?七瀬の誕生日だからこっち来るって」
「聞いてないですよ」
幸助の前に立つ女性は身長は170あるくらいの長身でとても綺麗な顔立ちをしていて、いかにも七瀬の姉って感じだ。
「ごめん、じゃあ忘れてたのかもねで、隣の彼は倫太くんだね?」
「なんで僕の名前を?」
「七瀬からよく聞いてるわ、あと奈津ちゃんも妹がお世話になってます。」
笑顔の彩瀬さんはとても美しい、七瀬はあまり笑わないからわからないけどきっと七瀬も笑ったらこんな感じなんだろう。
「お姉さんもその話入れてくれる?」
ゲームのコントローラーを持ち僕らの横に座る
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「七瀬さんの母さんが育児放棄?」
彩瀬さんの一言目の言葉がそれだった。
「そう、正確に言えば育児ノイローゼってやつだね」
ノイローゼという言葉は聞いたことがある
「なんでそんなことになったんですか?」
「私が14歳、あの子が8歳の頃に両親が離婚したのそれで私が父方に七瀬は母方に引き取られたんだ。昔はね七瀬は明るい子で、いつも笑ってて、もう可愛くてしょうがなかったよ。」
感情豊かに光野のことを話しているが、今の光野からそんな姿は考えられないな
「私は両親が離婚する前と変わらない暮らしをおくれていたよ」
「七瀬さんは?」
「私があの子と再会したのはそれから6年後、結構立派なマンションの一室でね、母さんと七瀬の二人で住むには十分なところだったよ」
「でもね、いなかったの」
「誰がですか?」
「そのマンションにお母さんは居なかったんだ。」
「それって、、、つまり」
「お母さんは七瀬一人でマンションに6年間住ませてたんだ。もちろんずっと1人だったわけじゃないよ?当時七瀬は小学生だったしお母さんも家には帰ってたと思う。」
「だからって一人で6年も、、、」
自分がもしもその立場になったらと考えると怖くて不安で仕方がないだろう。
「それを知ってから私は七瀬を連れてすぐにこの家に引っ越してきたのよ。後先考えずに引っ越してきたから今はバイト漬けの毎日だけどね。」
「でも七瀬に会った時、自分に激しい憤りを感じたわ、七瀬が一番好きだった家族が無くなり、かわいかった笑顔が無くなり、あの子が一番辛かった時に姉である私がそばにいてあげられなかった事が」
そう言いながら拳を握っている
本当に光野のこと好きなんだなこの人は
「彩瀬さんてすごく優しいですね」
「え?なんで?」
「俺だったらそのお母さんのことをまず恨むし何より一緒に住むって考えが浮かびません。」
「私は当たり前のことをしたまでだよ。」
光野のことを聞いて1つだけ決めたことがある
「彩瀬さん」
「ん?」
「俺もう一回七瀬さんをマネージャーに誘ってみるっす!!」
「いいの?」
「もう一度七瀬さんに笑顔を取り戻してみせます!、、、ダメすか?」
自分で言って少し照れくさくなった。
「ふふっ!あははは!これは頼もしいな!
七瀬を頼むよ、えーっと」
「茅場幸助です。」
「幸助くん!」
時計を見ると針が8時を回ったところだ
「うわっ!そうだった!バイトに行くところだったんだ!!ごめん幸助くんまた今度ね!」
彩瀬さんは急に荷物をまとめ出し玄関へ向かう
俺もつられて荷物をまとめ玄関へと向かった。
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