……少しだけ、楽しくなってきたかも
「アメリアァアアアアア!」
「エドガー!」
アメリアの姿を見た瞬間、ビュンッ、と驚くべきスピードでエドガーは走り出した。そしてアメリアもそれを受け止める。ヒシリッ、と二人は熱い抱擁を交わした。
「会いたかった! 会いたかったよぉおおおお……! 俺、もう駄目かと……!」
「こんなに傷ついてっ……! ごめんねっ、もう離れないから!」
「ぐすんっ! あ、あいつらが虐めてくるんだ……! 俺、何もやってないのに……!」
「私が来たから安心して。待っててね、すぐエドガーを虐めたことを後悔させてあげるから!」
まるで離れ離れになっていた親子が再会したような、過剰な反応。
目の前の茶番をラッシュは白けた顔で見ていた。
「おーい、お前ら。俺たちも居るってこと忘れてないか?」
「あん? ああ、なんだオヤジ、無事だったのか。いつから居たの?」
「マジで見えてなかったんかい。俺だけじゃない。ほら、フィーリアも居る」
「エ、エドガー様……ご無事で何よりです……」
ラッシュに肩を借り、青い顔でブルブルと震えながら、フィーリアはぎこちない笑みを見せた。
エドガーを気遣っているようであったが、むしろ自分の方が死にそうな有様であった。
「おい、なんでこいつ今にも死にそうな顔してんだ? エルフっていうか、魚人っていうくらい顔が真っ青なんだが」
「ああ。俺とアメリアはすぐに合流出来たんだが、俺達がコイツを見つけた時、頭だけ出して雪に埋もれてたんだ。
頭以外スッポリと雪に埋もれていたせいで、長時間動けなくなっていたみたいでな。
助けた時には寒さで死にかけていて……休もうって何度も言ったんだが、エドガーを助けなくちゃって聞かなくてなぁ」
「ふ、ふふっ……私なんかどうでもいいです。それより、エドガー様が無事で本当に良かったです」
「いや、重いわお前。大人しく寝てろよ」
「重っ……!?」
亡霊のような笑みを浮かべていたフィーリアだったが、ガビンッとショック受け、ズルズルとラッシュの肩から滑り落ちる。
仮にも心配してくれた相手に、無情なウサギであった。
「だがまぁ、無理を押して合流を優先してくれたのは助かったぜ。こっちもヤバイところだったんでな」
「それほどか? 確かにピンチだったみたいだが……」
「ちょっとおおおおお! 呑気に話してないで、早く助けてください! ジーナさんが!」
ネコタの声を聞き、ラッシュは顔を上げる。そしてネコタの側で倒れるジーナを目にし顔色を変えた。
近くでジーナの様子を見て、ラッシュは焦りの表情を浮かべる。
「おいおい、まさかこんな……アメリア、急いで治療を」
「うん、分かっ――ッ!」
アメリアは杖を振り、先端から炎弾を放った。その炎弾は、今まさに自分たちを襲いかかろうとしていた同種の炎弾を一つ残らず相殺する。
アメリアは先に炎弾を放ってきた男、エルネストを睨み言った。
「邪魔をしないで。貴方と遊んでいる暇はないの」
「阿呆か貴様。回復すると分かっていながら、みすみす見逃す間抜けが居るとでも?」
冷たい声音でエルネストはそう返す。アメリアは小蝿でも見たかのように顔を顰めた。
鬱陶しそうな顔を向けられても、エルネストは何の痛痒も感じていない。それどころか、彼は熱狂を感じる静かな笑みを浮かべていた。
「しかし、まさか炎で私と互角に渡り合うとはな。さすが【賢者】と言ったところか。だが、炎に関して私より優れた者などこの世に存在しない! さぁ、どちらがより優れた炎の使い手か、ここで決めようではないか!」
「……今、私は構ってる暇はないと言ったんだけど」
「ふん、興味が湧かないというならそれでもいい。私が一方的に燃やしてやるだけだ」
話の通じないエルネストに、頭痛を堪えるようにアメリアは息を吐く。
ラッシュは鋭くエルネストを睨み据え、アメリアに言った。
「アメリア、俺達が奴を食い止める。その間にジーナを」
「いや、無理だ。ここはアメリアに任せるしかねぇ」
口を挟んだエドガーに、ラッシュは目を瞠って言った。
「何を言ってるんだお前。ジーナの状況が見えてないのか?
いくらコイツでも放っておくとヤバイ。今は一刻を争うんだぞ! 早くアメリアに回復させないと」
「アイツは粘着質だからな。狙いを定めたら執拗に狙い続けるぞ。ネコタの結界じゃそう長くは保たないし、かといって俺らが邪魔をしようにも──」
「レティ、他の奴らは貴様が止めろ。私と【賢者】の間に割って入ろうとはするなよ。邪魔をすれば貴様から燃やすぞ」
「仕方ないわね。分かったわ、止めてあげる。でも、次に生意気な口を聞いたらアンタからしばくわよ」
不機嫌そうに鞭を鳴らすレティに、エドガーは眉間にしわを寄せる。
「まぁそう来るわな。あの女が相手だと、俺とお前じゃ勝てん」
「んなこと言ってる場合か! あの女がどんだけ強いのか知らんが、たとえ勝ち目がなかろうと、今は俺らが止めるしかねぇんだよ! テメェ、まさか負けるのが怖くて仲間を放って――」
「俺だって負けるくらいですむなら何度だって戦ってやるわ! アイツと戦って失うのは勝利だけじゃねぇんだよ! 人としての尊厳を失いたいのかてめぇええええええええ!」
「お、おう? なんだよ急に……」
涙を流してまで訴えるエドガーに、思わずラッシュは引いた。見たことない気迫だった。
苦々しく、ネコタは言う。
「あの、ラッシュさん。エドガーさんの言うとおりですよ。僕の結界じゃあの人の炎は防ぎ切れないですし、エドガーさんとラッシュさんじゃ、あっちの女の人は……本気で止めた方がいいですよ。いや、本当に」
「お前までそう言うとはな。でもじゃあどうしろってんだ?」
「幸いにも筋肉ダルマは動けず、あのメガネは炎勝負でムキになってやがるからな。性悪女の鞭はネコタの結界で防げるし、加勢さえしなければあのメガネと一対一に持ち込める。あとはアイツにさえ勝てばいいんだが、この中でそれが出来るのは……」
チラリ、とエドガーはフィーリアに目を向ける。
フィーリアは蒼褪めながら、震えた声で。
「ご、ごめんなさっ……寒いし……精霊さんも居なくて……」
「マジで役に立たねぇなオメー」
エドガーの冷たい言葉は、グサリとフィーリアに突き刺さった。
寒さよりも精神的なダメージにより、フィーリアはとうとう膝を着いた。
フィーリアに同情的な視線を一瞬向け、ラッシュはぼやくように言う。
「ってことは何か? ジーナが力尽きる前に、アメリアがあいつを倒して、それから治療しろってか?
Sランク冒険者を相手にそりゃ無茶だろ。その前にジーナが死ぬぞ」
ラッシュの言葉に、アメリアは不安そうにジーナを見た。ヒュー、ヒュー、と掠れたような呼吸。今にも死んでもおかしくないジーナの姿に、眉を顰める。
心配そうに見つめていると、ジーナと目があった。そして掠れた声でジーナは言う。
「ア、アメリア」
「……何?」
「アイツ、気にくわねぇ。……ぶちのめせ」
その言葉に、アメリアは小さく目を瞠る。
そのアメリアの反応が面白かったのか、ジーナは小さく笑った。
「ただし、あたしも結構……キツイ、からな……なんとか死ぬ前に頼むわ……出来るだろ?」
「おまっ!? 縁起の悪いこと言ってんじゃねぇよバカ! そんなこと言ってると本当に死んじまうぞ!」
ラッシュが叱るのも聞かず、ジーナは眠るように目を閉じる。
「……任せて」
アメリアは一言だけ呟き、ゆっくり立ち上がった。そして杖をエルネストに向かって突きつける。
普段通りの、感情の起伏が見えづらい無表情。しかし、その目だけはいつになく輝いていた。
アメリアの目に、今まで見たことない熱が宿っていた。
「――楽勝だから」
誇るでもなく、強がるでもなく。自らを全く疑っていない口調で、アメリアは言った。
その直後、アメリアの周りに幾十もの炎弾が発生する。
炎を高密度に固めた、物理的破壊力をも秘めた炎弾。並みの魔法使いなら、一つ作るだけでも困難であろうそれを、アメリアは軽々と放つ。
己に向かってくるそれらを前に、エルネストは狂ったように笑った。
「素晴らしい! これほどの威力を、この数か! 面白い、望むところだ! 【炎よ、矢と化せ】!」
しかし、エルネストはアメリアを上回った。
二言の魔法言語により、アメリアと同等の威力を持ちながら、数は遥かに超える炎弾を作り出す。それらを纏めて放ち、弾幕を張る。
アメリアの炎弾と衝突し、炎を巻き上げる。だが、物量ではエルネストが上。余った炎弾がアメリアを狙い、勝利を前に口角が釣り上がる。
「――やるね」
しかし、アメリアに焦りは無かった。
搔い潜って来た敵の炎弾を見極め、同じ数を用意する。そして、アメリアはその炎弾を使い、敵の攻撃を全て撃ち落とした。
宙に舞う火の粉を呆然と見つめ、エルネストは呟いた。
「バカな。狙って撃ち落としただと?」
自分のように弾幕を張る、物量任せの防御ではなく狙撃による防御。
同じ魔法を操る者だからこそ、アメリアのやったことの難しさをエルネストは理解していた。
簡単そうにやって見せたが、そんな容易なことではない。複数の炎弾を全て把握し、完全に制御しなければ今の芸当は不可能だ。数発ならともかく、この数を……それも全てを撃ち落とすなど、曲芸に近い。
精密な魔法制御。相手の魔法を見切る魔法洞察力。その卓越した魔法能力が、今の攻防で察せられた。
だが、分からないこともある。
「何故わざわざ炎弾で相殺する? 弾幕を張るか、障壁で防いだ方が楽だろうに」
「え? だって、無駄に数を作ったり、今の威力を防ぐ壁を作るなんて、魔力の無駄遣いでしょ? それなら、同じ物を作って当てる方が楽だし」
何を言っているのか……というような調子で、アメリアは言った。その顔を見て、エルネストは自分の顔が引きつったのを自覚した。
それは、自分の魔法制御に絶対の自信を持つからこその言葉だった。出来て当然、失敗の事を微塵も考えてすらいない。どんな相手だろうが、同じことをこなせる。その確信があるからこそ出来る、傲慢な態度だった。
その何気ない言動は、エルネストのプライドを深く傷つけた。
「……そうか。ならば、見せてみろ! 本当に出来るというのならなぁ! 【炎よ、星々の如く、弾と化せ】!」
先程よりも一言多く加えられた魔法言語は、数えきれない程の炎弾をエルネストの周りに作り出した。
見渡す限り、隙間なく広がる炎の弾幕。逃げ場の無いこの光景はまるで処刑場を思わせた。並みの者なら絶望し、足を止めるしかないだろう。
だが、やはりアメリアは変わらなかった。
透き通るような目で、迫ろうとする脅威を受け入れ、ただ見つめていた。
「【炎よ、流星の如く、在れ】」
魔法言語ですらない、ただの大陸共通語で、ボソリと呟く。
言語のアシストもなく、魔法制御のみで、アメリアはエルネストの魔法を再現した。
一触触発の状況だというのに、エルネストはその技を見て一瞬意識を失う。そして、その屈辱を誤魔化すかのように叫んだ。
「【穿て】!」
「【放て】」
どこまでも対照的な二人の有様を見せ、ここに最高峰の魔法戦が始まった。
数えるのも馬鹿らしい炎弾が、二人の間を行き交う。人の業というより天災のような有様だ。外から見れば、この光景だけでも二人の力を測るには十分だろう。
しかし、当事者の二人にとっては違った。
撃ち合いの中で、明白な差をエルネストは感じていた。
「……これだけの数を捌き切るというのかッ!?」
エルネストは苦虫を噛み潰したように眉を潜める。
ありえない、と思いながらも、認めざるを得ない。
逃げることすら不可能であるこの攻撃を、あろうことか、先ほどと変わらぬ調子で撃ち落としているアメリアを。
一発残らず、全てを狙い落している。わざわざそんなことをせずとも、お互いこれだけの物量を放てば、誘爆で身に届くこともないだろう。通り抜けた数発も、障壁を張って防げばいだけだ。
ならば、何故わざわざ、そんな手間を掛けてこうまで完璧な防御を見せるのか。
理由は明らかだ。自分の方が上だと、まざまざと見せつけ、相手の心を折る為。
同じ魔導を行くものだからこそ、エルネストはアメリアの意図を理解していた。だからこそ、ここで引く訳にはいかないと、怒りを燃やし奮起する。
だが、敵はエルネストの想像をさらに上回った。
撃ち合いの中で、アメリアはポツリと呟く。
「【従え、我が命を聞け】?」
アメリアの言葉が風に溶け込む。その途端、エルネストの炎弾に異変が起きた。
目にも止まらぬ速さで射出していた炎弾が、ググッと速度を落とし、ピタリと宙に制止する。そして、エルネストの打ち出した炎弾の半数がゆっくりと空高く浮かび、アメリアの元へと集った。
「馬鹿な……ありえん……」
エルネストはまるで夢でも見ているかのように、呆然と浮かぶ炎弾を見つめていた。
そうなってしまうのも無理はない。彼の知識、経験から言ってもあり得ないことだ。
これだけの高威力、大量の魔法を操っていながら――相手の制御に干渉し、魔法を奪うなど。
目の前の光景は、エルネストの常識を揺るがす程の衝撃があった。
「【行け】」
そんなことは知らぬとばかりに、アメリアは炎弾の全てを放つ。
エルネストの視界一杯に、星々の如く炎弾が広がる。相手の炎弾は更に増え、そして自分の炎弾は半数以上も奪われたとなっては、抵抗することすら出来なかった。
「――チッ! くそっ! ……おおおおおおお!」
かろうじて残った炎弾を使い、エルネストはなんとか誘爆させて防ごうとする。が、あまりの物量差に全てを防ぐことは出来ない。防御を潜り抜けたアメリアの攻撃が、エルネストに殺到した。
エルネストの姿が、炎弾と雪煙に飲み込まれる。
誰もが死を連想した中、モクモクと立ち上がる煙が晴れると、息を荒げたエルネストの姿が現れた。
エルネストの前方には、炎の膜が作られていた。直前にそれを作り出し、なんとかアメリアの攻撃をしのいだのだろう。
へぇ、と。アメリアは珍しく感心した声を上げた。
「防げたんだ。偉いね」
「――――ッ! 貴様ぁ……!」
鬼のような形相で、エルネストは相手を睨み付ける。
無自覚な挑発だった。これ以上に相手の神経を逆なでる行為もそうはあるまい。
うわぁ……と、ネコタですら同情的な声を上げた。
「アメリアさん、なんて挑発を。あんなこと言われたら、あの人も引き下がれないでしょ」
「ザマアアアアアアアア! 流石アメリア、よく言った! 自分が頂点に立ってるとか勘違いしてる阿呆にはこれ以上ない薬だぜ! エルネストくぅううううううん! 今どんな気持ちですかぁあああああ? ギャハハハハハ!」
「こっちはこっちで煽りまくるし……」
煽るチャンスは見逃さないウサギである。
ネコタの呆れた視線にも気づかず、エドガーはビシリとエルネストを指す。
「へいへいへい! 降参するなら今の内だぜ? 魔法勝負となれば、お前じゃアメリアに勝てねぇよ。つぅか、お前程度がアメリアに挑もうってのが身の程知らずだっつーの!」
「このクソウサギが……!」
今にも殺しにかかりそうな顔で、エルネストはエドガーを睨み付ける。
だが、エドガーはまったく動揺しない。それどころか恍惚としてそれを受け入れている。
――ああ、安全圏から人を煽ることの、なんと愉快なことか。
ウサギさんは今、実に絶好調だった。
「ギャハハハハハ! そんな睨まれても怖くないよ~ん! どうする? またお得意の魔法で勝負してみる? どうせアメリアに止められるけどな! ギャハハハハハ!」
「貴様、調子に乗るなよ……! 私がその気になれば、貴様程度……!」
「あれれ~? 今相手にしてるのは俺じゃなくてアメリアなんだけどな~? それってもしかして、アメリアには勝てないって自分でも認めてるってことかな~?」
「……ッ! エドガー……ッ!」
「クケケケケケ! まぁ、そんなに落ち込むなって! たかが【魔導士】風情と【賢者】とじゃ、差が出るのは当たり前なんだからよ! わざわざ魔法制御で勝負を挑むって方が間違いだっつーのっ! 凡人が天才相手に勝てる訳ねぇだろブワァァアアアアアカ!」
「貴様……許さん……! 貴様だけは、必ず殺して……殺……して――」
怒りに飲み込まれていたエルネストだったが、一体どうしたのか?
言葉を途中で止め、小さく目を瞠る。様子が変わったエルネストに、皆が疑問符を浮かべ注目する。
エルネストはスッと表情を変え、眼鏡の位置をずらした。普段通りの、冷静沈着な男がそこに居た。
「……そうだな。確かにその通りだ、認めよう。流石【賢者】。魔導の頂点を立つ者と言われるだけのことはある。自ら魔法を行使しながら、更にこの私からも魔法の制御を奪うその技術、まさに神業。思わず目を疑った」
一転して、エルネストはアメリアの実力を高く評価していた。
自尊心が高く、他者を認めることが少ない男にしては、珍しいことだ。それも、己が誇りとしている魔法という分野で。
誰もが唖然としている中、エルネストは己の世界に浸っているように、続けた。
「全く、恐れ入る。感服したよ。悔しいが、私では一生かかっても真似できまい。努力では届かぬ、まさしく才能の成せる業だ。心から尊敬する。羨ましい、と思う程にな」
「……ええっと、ありがとう?」
「いや、そんな言葉は不要だ。君の才能は賞賛されるべきもの。私が称えるのも当然のことだ」
「やだ、誰あの人? 僕の知ってるエルネスト君じゃない……!」
煽っていたのも忘れ、ガタガタとエドガーは震えだした。それだけあり得ない変わりようだった。
そのウサギの様子に、エルネストは嘲るように笑い、アメリアに目を戻す。
「魔法の技術、という点では、私は君に遠く及ばないようだ。一魔法使いとしては、悔しいことではあるがな。そこに関しては認めよう。――だが、かといって私が劣るということにはならない!」
――ゴウッ! と。
エルネストの周囲で、炎が発生した。
メラメラと燃え盛り、その熱量は更に高く、規模はさらに大きくなっていく。まるで、巨大な鳥が羽を広げたかのような動きで、エルネストの背後でその力を高めていく。
その炎から感じられる脅威に、アメリアは目を大きく瞠った。
アメリアをして警戒せざるを得ない。それほどまでの魔法だった。
ニィッと、エルネストは笑みを深めた。
「かの【賢者】を相手に、魔法技術でも私が上だと、そう証明することに欲を出したのが間違いだった。認めよう、貴様を相手に私は驕っていた。だが、今は違う。魔法制御力、技術では私が劣る。そこでは私に勝ち目はない。ならば本道に帰るまでだ」
限界なく、炎はまだ大きく、高くなる。
それは、地獄の炎を思わせる禍々しさだった。
これもまた、人の身でなせるとは到底思えない力だった。
それも当然。彼もまた、Sランク冒険者という化け物なのだから。
「火力こそ火の魔法の本質。多数の炎弾を操る相手なら制御を奪う隙も出来ただろうが、ただ一つの魔法に全神経を集中させれば、いかに【賢者】といえど奪うことは出来まい。火の魔法において、この私を上回る者などこの世には居ない!」
狂笑を浮かべ、エルネストは言い放つ。
己を取り戻したエルネストに、むぅっ、とエドガー唸り声を上げた。
「あの野郎、完全に開き直りやがったか。ああなったアイツは強ぇぞ。流石のアメリアといえど手こずるかもしれん」
「「お前のせいだろうが!!」」
ゴンッ! と、ラッシュとネコタの拳骨がエドガーの脳天に突き刺さる。
むごぉぉおおお!? と苦しみ、エドガーは二人を睨み上げた。
「な、なんだテメェら! いきなり殴りやがって!」
「なんだもクソもあるか! 余計なこと言いやがって! せっかくアメリアが上手くやったってのに、テメェの余計な一言のせいで立ち直っちまったじゃねぇか!」
「アンタどっちの味方だよ! アメリアさんに恨みでもあんのか!?」
「だ、だって! だってだって! 悔しかったんだもんっ! 口だけでも仕返ししたかったんだもん!」
「もん、なんて言っても可愛くねぇんだよボケッ! 黙ってろ! これ以上アメリアの邪魔をすんな!」
ラッシュの説教に、エドガーはがっくりと肩を落とした。
他の仲間ならともかく、アメリアの足を引っ張ってしまったことには、流石に責任を感じていたらしい。
なんたる失態……! 最悪、腹を斬ってでも詫びなければ……!
割と本気で、エドガーは落ち込んでいた。
くくっと、エルネストは意地の悪い笑みを浮かべる。
「感謝するぞ、かつての友よ。貴様の一言が、私を目覚めさせてくれた。その礼に、今の私の全力を見せてやる。昔と比べ遥かに成長した私の力、とくと見るがいい」
「ア、アメリア……すまねぇ……面目ねぇ……!」
「……大丈夫だよ、エドガー」
クッ、と四つん這いになって涙を流すエドガーに、アメリアはそう声をかけた。
そして、その目は変わらず、エルネストの作り出した炎を見つめている。
ゴウゴウ、メラメラと。
炎は、未だに成長を続けていた。
火に強い竜種ですらも燃やし尽くすかのような、今まで見たことのない、炎。
こうして狙われているだけで、恐怖を感じずにはいられない、原始的な脅威。
誰もが震えて立ち尽くすしかないそれを前にして――アメリアは、小さく笑っていた。
「……ごめん、ジーナ。ちょっと不謹慎かもしれないけど」
【賢者】として生まれ、魔導を歩んできたアメリアだが、それを行使することに愉しみを感じたことはなかった。
だって、真剣にやらなくても、少し器用に動かすだけで、全てが思い通りになってきたから。
卓越した魔法制御力があったせいで、小手先の技術だけで、なんとかなってしまったから。
だから、全力で頑張る必要がなかった。
ゆえに、魔法に関して、真剣になれなかった。
だが、今アメリアは、技術ではなんとかならない事態に遭遇した。
問われているのは技ではなく、単純な力。
ああ、アレなら……この相手ならば……。
――生まれて初めて、全力を出せるかもしれない。
「……少しだけ、楽しくなってきたかも」
口元に小さな笑みを作り、瞳に好奇心を浮かべアメリアは杖を振るった。
瞬く間に、エルネストに匹敵する炎が作り出された。
自らに匹敵する力を感じ取り、エルネストの瞳に警戒が浮かぶ。
「貴様……私に本気で……!」
「貴方の望み通りでしょう? 合わせてあげる。私もちょっと、興味が沸いたから」
「――ッ! いいだろう! その傲慢さ、後悔させてやる!」
エルネストから濃密な殺気が放たれる。
対し、アメリアはワクワクした子供のような顔をしていた。
お互い、まったく正反対の表情。だが、その背後にある炎の凶悪さはどちらも同じ。
ただそこにあるだけで周囲の空気を燃やし、雪を溶かし続ける。気づけば、二人の周囲だけ地形が変わっている。
全てを破壊しつくす暴力が、解き放たれようとしているからこその緊張感。何者だろうが割って入ることは許されない。二人の間では、そんな空気が張り詰めていた。
……だが。
「……ほぁああああ~」
そんな空気を壊すように、のんびりとした声が聞こえてきた。
今にも戦端が開かれるというのに、思わずエルネストはその声の主を見た。アメリアですら後ろを振り返る。
凍えて死にかけていたフィーリアが、血色の良い顔で立ち上がっていた。
「暖かい……凄く暖かいですっ! まるで生き返ったかのようです!」
「お前、空気読めよ」
あまりの間の悪さに、ついエドガーは言ってしまった。しかし、復活したフィーリアには届かなかったらしい。
ただポヤポヤとした表情で、火の温かさを感じている。
蕩けそうな口調で、フィーリアは言った。
「私、今、凄く幸せです。温かいって、凄く幸せなことだったんですね。気持ちいいし、心が晴れるし、それに、精霊さん達も喜んでます」
ポヤッとした表情を浮かべていたフィーリアの瞳が、パチッと目覚めた。
「これだったら私も、エドガー様のお役に立てますっ!」
ハキハキとした口調で、フィーリアは言った。
その途端、フィーリアの頭上で炎が発生する。
その規模は、アメリア、エルネストの物を遥かに超えていた。
「え?」
「なっ!? ……そんな、何が……魔力が一切……!」
誰もが驚きに溢れていたが、とりわけ二人の衝撃は大きかった。呆然と、フィーリアの頭上に沸いた炎を見上げている。
空気を読まず、フィーリアは楽し気に言った。
「精霊さん達、お願いしますっ! アメリアさんを守って、あの人をやっつけてくださいっ!」
フィーリアの人格がよく表れた、可愛げのある親しみの持てる声。
だがその声とは裏腹に、起きている現象は凶悪極まりない。
頭上で燃える炎が楽し気に揺れ、躍りかかるようにエルネストに向かっていった。
「え? あ、あれ? なんで?」
敵意は感じないものの、間違いなく死に至る炎が近付き、アメリアは慌てて炎の壁を作ろうとする。だが、アメリアの炎は壁を作ることなく、柔らかく解けてフィーリアの炎に合流した。
自分の作った魔法が奪われる……というより、魔法が意思を持ったかのように制御下から離れ、自分から混ざりにいくという人生初めての出来事に、ポカンとした目でその炎を見送る。
アメリアのものまで取り込み、なおその強大さを増したフィーリアの炎は、津波のようにエルネストを飲み込もうとしていた。
「おっ……おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
炎の波に向かって、エルネストは練り上げた魔法を一直線に撃ち出した。
まともにぶつかっては、吸収されて終わる直感した。ならば一点に力を集中し、突き破ることで己の身を逃す。プライドが障ると考える間もなく、生存本能がエルネストを動かした。
エルネストの判断は間違いなく最適のものだった。しかし、大自然の形をした炎の前には無駄であった。
エルネストの抵抗は、まるで波に向かって水鉄砲を放ったかのように、あっさりと飲み込まれた。そして、エルネストもまた炎の中へと消えた。
理不尽な程の暴力だった。誰もが、その暴力の跡を呆然と見つめていた。
だが当の本人は、ピョンピョンと飛び跳ねて己の成果を喜んでいた。
「やりましたっ! 見てましたかエドガー様っ! 私だってやれば出来るんですよ! ほら、これなら足手纏いじゃないですよねっ! ねっ?」
「ウン、ソウダネ。フィーリアガイテヨカッタヨ」
「何で片言!? こ、こんなに頑張ったんですから、褒めてくださいよぉ……!」
思っていた反応と違い、涙目になって講義するフィーリア。可愛らしい表情であったが、エドガー達は皆、顔を引き攣らせていた。
ハッキリ言って、ドン引きだった。
違った意味で、エドガー達はフィーリアを仲間にしたことを後悔した。
「あの、もしかしたら、フィーリアさんって戦わせちゃ駄目な人なんじゃ」
「ま、まぁそういうなよ。頼もしい仲間が増えたと思えばいいじゃないか。これからの旅は過酷になっていくわけだし」
「俺はそうは思えねぇな。アメリアの支配下にあった炎を、当然のように操ったんだぞ? 精霊術がまさかこれほどとは。それに加え、術者は精神的に未熟な小娘。暴発したらと思うと……」
「なっ、なんですか皆して! 酷いっ! せっかく頑張ったのにっ!」
プンスカと怒るフィーリアに、ヒッと化け物を見たかのような悲鳴を上げる仲間達。
ムムムッ、と拗ねた様子を見せるフィーリアに、割と本気でエドガー達は身の危険を覚えた。特にエドガーの恐怖は大きい。これからは少しだけ優しくしてやろうと思った。
グスンッと鼻をすすり、フィーリアはプイッと顔を背ける。
「もういいですよっ、せっかく頑張ったのに。あ、アメリアさん。あの人は私が抑えますので、早くジーナさんの治療を……」
「…………」
「ア、アメリアさん?」
アメリアは口を小さくへの字にして、なんとも言えない顔でフィーリアを見ていた。微妙に不機嫌そうでもあった。
見たことのないアメリアに、フィーリアはおそるおそると声をかける。
「あ、あの、アメリアさん? 私、気に障ることでも?」
「別に。なんでもないよ」
「な、なんでもないって……そんな筈……」
「なんでもないってば。……はぁ。ほんと、空気読んでよ……」
「アメリアさぁぁあああんっ!?」
ボソリと吐き捨てられた言葉に、ガビンッ、とショックを受けるフィーリア。
仲の良いアメリアにまで責められ、得意な気分は呆気なく崩壊した。何ッ!? 何がいけなかったの!? と、心の中でパニックに陥る。
縋るようにフィーリアは手を伸ばすが、アメリアはムッスリとした顔で無視し、ジーナの治療を始めた。
初めて全力を出す機会。自分が操っていた炎。自分に匹敵しえる好敵手。
その全てを奪われたのだから、アメリアのご機嫌が斜めになるのも無理はない。それに気づけないことが、フィーリアが世間知らずのお嬢様である証明でもあった。
彼女が常識と人の心を知るには、まだまだ時間がかかりそうである。
「ぬぐっ……おぉおおおおおおおおおおおおおお!」
フィーリアの炎の中から、雄たけびのような声が聞こえてきた。両手を横に広げ、炎をかき分けるような仕草で周りの火を搔き消し、エルネストの姿が現れる。
火の精霊に剥ぎ取られそうな炎をなんとか押さえつけ、炎の衣を身に纏い、なんとかフィーリアの攻撃から逃れたようだ。しかし、その姿は満身創痍だった。顔には軽度の火傷が出き、黒いローブのあちこちが焦げ穴が開いている。
炎の【魔導師】の頂点に立つとは思えない、なんともみすぼらしい姿だった。
傷を負いながらも、なんとか無事な姿を見えたエルネストに、レティはホッと息を吐く。
「エルネスト、生きていたのね」
「ゼェ、ゼェ……! ああ、流石に死んだかと思ったがな……だが、たとえ死ぬとしても、この私が火に焼かれて死ぬわけにはいかん!」
「そう、流石ね。貴方が生きてて良かったわ。ええ、本当に」
これでもうしばらく、あの危険人物を任せられる。
レティは打算により、エルネストの生還を心から喜んだ。さすがの彼女といえど、あんな化け物を前にして勝てるとは思えなかった。
なんとか息を整え、エルネストはフィーリアを睨み据える。
「まさか【賢者】の魔法に干渉するとは……しかも、魔力を一切感じなかった……あれが噂に聞く【精霊術】とやらか。なんと出鱈目な力だ……正直、嫉妬する気にもなれん。同じ炎の使い手として、心から敬服する」
「え、えへへー。そうですか? そんなに褒められると照れちゃいますね~」
顔を赤くして、クネクネとフィーリアは身を躍らせる。豊満な身体が揺れ、無自覚にいやらしい動きだった。
仲間から冷たくされたばかりの直後に、敵からの賞賛はなんとも心地よかった。
そんな気の抜ける仕草をされても、エルネストは油断することなく見つめる。
「伝承にしか残らない、物珍しいだけのただのエルフかと思っていたが……とんでもない隠し玉が居たものだ。まさか竜人とエルフのハーフが存在するとはな……」
「なんでッ!?」
まったく予想すらしなかった勘違いだった。
どこでそう判断したのか、フィーリアにはさっぱり分からなかった。
混乱陥るが、フィーリアはなんとか正気を取り戻した。自分のアイデンティティに関わる問題だ。なんとしても問い詰め訂正させなければなるまい。
「どうして竜人のハーフが出てくるんですか!? わ、私は生粋のエルフですよっ! むしろ、私ほどの血統書付きのエルフなんか居ないくらいですっ! 訂正してくださいっ!」
「エドガーではあるまいし、すぐに分かる嘘もたいがいにしておけ。
純血のエルフが火の精霊を操れる訳があるまい。となれば、火を得意とする種族のハーフであることは明白。
加えて貴様を見る限り、エルフに近しい美貌を持つ種族であると絞られる。となれば、そんな種族は竜人しかおらん」
案外、そう的外れでもない推測であった。
一部事実なだけに、むむむっと涙目で唸るフィーリア。
フンッ、と。バカにするなとばかりに、エルネストは続けて言った。
「だいたい、その身体付きで純血のエルフだと? それこそありえんだろう。一度しっかり鏡を見てみろ。次からは説得力のある嘘を吐くのだな」
「エドガー様ッ! あの方、燃やしてもいいですか!?」
「ああ、いいぞ。思う存分やっちまえ。だからそんなに泣くなよ……」
「だって……! よりにもよって……! 私だって気にしてるのに……!」
「そうだよな。酷いこと言うよなアイツ。だが、落ち込んでいたってお前が損するだけだぞ? そのむしゃくしゃした怒りは、悪口を言ったアイツに向けてやろう。なっ?」
的確にトラウマを射抜かれ、意外にダメージが大きかったらしい。ボロボロと泣き出し、フィーリアは戦意を失っていた。
しかしエドガーは巧みに誘導し、フィーリアを元気づけた。ここからどう立ち直らせて、戦力に変えるのかが、詐欺師エドガーの腕の見せ所だ。優しさの足りない男である。
「――ふぅ。アメリア、あんがとよ。おかげで助かったぜ」
「いいよ、気にしないで。それよりも、ゴメン。せっかく気を利かせてくれたのに、結局、治療が遅くなっただけだったよ」
「いや、あんま言ってやんなよ。あたしは気にしてねぇから……」
そうこうしているうちに、ジーナの治療を終えたらしい。
ジーナは立ち上がると、バシンッと拳を掌に叩きつけた。
「さて、よくもやってくれたなテメェ。アメリアに譲ったつもりだったが、まだ生きてんなら好都合だ。倍返しにしてやるぜ」
「野蛮な雌猿が、私達の崇高なる戦いに割り込むつもりか。そのまま寝ていればいいものを」
「戦いに崇高もクソもあるか。どっちが強いか、それだけの話だろうが」
「そういう所が野蛮だというのだ」
苛立たしそうに、エルネストは舌打ちする。
レティは鞭を構え、その会話に口を挟んだ。
「エルネスト。もうこれ以上黙って見てる訳にはいかないわよ」
「……これだけの数が揃っては、流石に拘っては居られぬか。オリバー、貴様もそろそろ回復しただろう。早く立て」
「ぐっ、ぬぅ……! おう、任せろ! 我が筋肉、これしきの事でへこたれんわぁ!」
蹲っていたオリバーが、ガバリと立ち上がりポーズを決める。
ジーナの傷を癒したが、あちらも戦力を回復させたようだ。
フンッ、と。戦意を向けてくる三人を見て、エドガーは鼻を鳴らした。
「こうして見ると壮観だな。個人主義のSランク冒険者三人が、共闘して向かってくるか」
「なぁに、こっちも全員揃っている。負けてないさ」
ラッシュは不敵に笑って弓を持つ。
それに応じ、各自が己の武器を構えた。
意地の張り合いはここまで。ここからは命を懸けた全面対決だ。
どちらかが止まるまで、戦いは終わらない。これまで以上の、過酷な戦いの幕が上がろうとしていた。
……その筈、だったが。
――その時、風が吹いた。
「うおっ!」
晴れていた空に似合わぬ突風。エドガーの軽い身が浮き上がりかけ、慌てて踏ん張ってこらえる。
「ったく、山の風はこれだから。今にもって時に水を差しやがって。フィーリアじゃあるまいし、空気読めよ。風だけに」
「し、失礼なっ! 私だって空気ぐらい読めますよ」
「それは後で審議に入るとして、自然現象に文句を言っても仕方ないでしょ」
フィーリアが抗議をし、ネコタが呆れた目を向ける。
呑気な空気が流れたが、しかし、【狩人】であるラッシュは違った。
今の風に、違和感を感じた。
「いや、待て。こいつは……」
ラッシュの言葉を搔き消すように、また突風が吹き荒れた。
たちまち空が雲に覆われ、雪が混じり出す。ほんの十秒程度で猛吹雪と変わり、アメリア達の戦いによってむき出しになった山肌が、すぐさま白に染められていく。
ありえないと言ってもいい天候の急変。
とても自然的には思えない、大自然の猛威が現れていた。
この変わりようには、むしろ何者かの意思を感じた。
それを、Sランク冒険者達も同じように感じていた。
「ブハァ! なんだなんだぁ、この雪は! 急に変わりすぎだろうが! とんでもねぇ山だなここは!」
「バカね。いくらなんでも、こんなのが自然現象な訳ないでしょう」
「ああ、その通りだ。どうやら本命が来たようだな」
視界が雪で霞む中を、エルネストは目を細め、ずっと先を見つめていた。
引き寄せられたかのように、同じ方向をエドガー達も見据える。
何の変哲もない変わらぬ雪の降る中、雪の色に混じって白い何かがあった。
まるで雪に運ばれたかのように、いつの間にか、自然とそこに現れた。
『ヴゥウウウウウウウウウ……!』
山を荒らす愚か者達に、怒りを誇示するように、唸る。
――ヒュルエル山の主、【永久氷狼】が牙を剥いた。




