あれこそが獣だよ
冷たい風が入り込む、暗く、狭い洞窟の中。
その奥で焚き火を挟んで、六つの人影が向かい合っていた。
洞窟の奥に居るのは、アメリア、フィーリア、エドガーの三人。エドガーはアメリアの足元から顔を出し、フルフルと震えている。
そんなエドガーを背に庇いながら、アメリアは厳しい表情で敵と相対している。フィーリアも怯えているようであったが、それでもキッと強く睨みつけている。
そんな三人を塞ぐように、洞窟の入り口側にラッシュ、ジーナ、ネコタが立っていた。
仲間に向けるものではない憤怒の表情で、アメリアとフィーリアを見ていた。
その中でも比較的冷静なラッシュが、厳かに口を開いた。
「大人しくそいつをこっちに渡せ。そうすれば、お前達のことは許してやる」
「駄目、エドガーは渡さないっ」
「そっ、そそそそっ、その通りですっ! エドガーさんは渡しません!」
「フィーリアさん。お願いですから、言うことを聞いてください。今がどういう状況なのか、分かるでしょう?」
聞き分けのない子供に言い聞かせるように、ネコタは言った。どこか悲しそうですらあったが、手は聖剣に添えられている。その矛盾に背筋が凍りつくような恐怖を感じる。
しかしそれでも、フィーリアは譲ろうとはしなかった。
「だ、駄目ですっ! どうしてもと言うなら私を倒してからにしてくださいっ!」
「よく言った。いい度胸だ。せめて苦しまずに寝かせてやる」
「ひぃっ……!?」
ジーナの殺気に、フィーリアは思わず後ずさる。さすがに殴り合いに長けた女からの殺気に耐えられるほど、温室育ちのフィーリアは強くはなかった。
それを見て、エドガーは悲しげに、そして優しげに首を振った。
「いいんだ、二人共。もういいから。二人が傷つくのは見たくないんだ。だから――」
「そんなの駄目だよ! エドガーを渡して私達だけ助かるなんて、そんなのっ!」
「そうですっ! そんなことするくらいだったら死んだ方がマシです!」
「アメリア……フィーリア……!」
「茶番もいい加減にしろよこら! マジで殴り殺してやろうか!?」
血走った目をするジーナを見て、ウサギは神妙な顔で頷いた。
「見てみろ、フィーリア。理性を捨て、欲望のままに行動する……あれこそが獣だよ。ウサギの俺なんかより、よっぽど獣だ。あんな風にだけはなっちゃいけねぇぞ」
「ウサギィ! テメェ、マジで殺すぞ!」
「来るなら来い、受けて立つ! このエドガー! たとえ兎の身であろうとも、人の心だけは絶対に失わない! 貴様らのような獣には断じて屈さぬっ! 正義は我にあり!」
「いいだろう。なら望み通りにしてやるよ」
「んぁあああああ〜!? ア、アメリアァ……!」
「ああっ、エドガー!? ッ、エドガーを離して!」
「そうです! 離さないというのなら……!」
「ちょっ、待て! こんな場所で魔法や精霊術なんて使ったら……バカッ! 本当にやめろ!」
「ふっ、二人とも落ち着いて! ジーナさんも一旦ストップ! ストップで――ぎゃあああ!」
……完全に、いつだったかに見た光景と全く一緒であった。
世界を救うべく動く勇者一行は、今日も今日とて楽しそうに仲間割れをしていた。
なぜ今回も争っているのか? それを語るには、一ヶ月ほど前までに時間を遡る。
――もはや鉄板である。




