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人間やめても君が好き  作者: 迷子
三章 迷いの森

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キノコなのに綺麗だね



「あの、アメリアさん。疲れてませんか? よければ交代しますけど」

「いい。これは私の役目だから」


「そっ、そんなこと言わずに変わってくださいよ〜! アメリアさんばかりずるいですっ!」

「駄目。これだけは譲れない」

「おいおい、喧嘩するなよ。順番だ、順番」


 アメリアとフィーリアは、どちらがエドガーを抱いて歩くかで争っていた。とはいえ、アメリアが圧倒的に優勢のようだ。エドガーは二人を止めることはせず、むしろ楽しんでいる。


 そんなエドガーを、後ろからラッシュとネコタは羨ましそうに見つめていた。


「いいよな。あんな風に美女に求められて。こればかりはアイツが羨ましいぜ」

「可愛いのは外側だけで、中身は最悪なのに。騙されてますよ二人とも」


 ネコタが妬みの言葉を漏らす。勇者といえど、健全な若い男子。羨ましい気持ちがないと言えば嘘になる。


「しかしまぁ、すげぇよな……」

「ええ。これは正直、ヤバイですよね……」


 言いながら、二人はだらしなく鼻の下を伸ばした。

 二人の視線は一点に惹きつけられていた。フリフリと目の前で揺れている、フィーリアの尻にである。


「いや、本当に凄いわ。信じられるか? あれ普通に歩いているだけなんだぜ?」

「正直、男ならたまりませんね。しかも胸も凄いし、スタイルも良くて凄く可愛いし。聞きました? フィーリアさんて里ではあまり人気がないんですって」


「ああ、エルフの連中はどうかしてるな。外の貴族に見つかれば強引に連れてかれるだろうし、人攫いがひっきりなしなのは間違いないぞ。そう考えると、あの子は里で生まれて良かったのかもしれないな」

「どちらが幸せなのかは分かりませんけどね」


 ボソボソとエロ談義に花を咲かせる二人だった。怪しいことこの上ない。

 そんな二人のさらに後ろから、チッ! とジーナが強く舌打ちする。ビクンッ、と二人は大きく体を揺らした。


「男ってのはどうしようもねぇな! ったく、どいつもこいつも……あんなのただの脂肪の塊だろうが。鼻の下伸ばしやがって……!」

「持たざる者のひがみだな。正直見苦しいぜ」

「そう言ったら可哀想ですよ。ジーナさんだって羨ましいんですって」


「聞こえてんぞテメェらぁ……! そんなに殺されてぇか……?」


 わりとマジな殺気に、二人は竦み上がった。

 三人の気配を感じ取ったのか、フィーリアは心配そうに振り返る。


「あの、どうかしましたか? 何か問題でも?」

「ああいや、なんでもない。ただ、試練のことを考えてたらちょっとな」


 にやけそうになるのを堪え、ラッシュは難しい顔を作って言う。


「【ヒカリダケ】、【ファルル】、【フォルクス】。勢い良く受けるとは言ったものの、どれも聞いたことのない名前だ。果たしてすんなりと捕まえられるかどうか……」


 ラッシュとて、森、動物の知識に関しては負けない物を持っている。しかし、それはあくまで外の常識の物。この森の特有の生態であれば、その知識が役に立たないかもしれない。それをラッシュは心配していた。


 最悪を想定し悩むラッシュに、ジーナはあっさりとした口調で言った。


「探すのが面倒なだけで、別に難しいこともねぇだろ。案外直ぐに見つかるんじゃねぇか?」

「アホ。そう簡単に手に入れられる物を試練にする訳がないだろうが。

 なぁフィーリアちゃん、そのあたりはどうなんだい?」


「はいっ。どれもこの森でも希少な物で、まず見つけることが大変ですっ。もちろん、捕獲するのも大変なんですけど。

 特に【ヒカリダケ】は滅多に見つからなくて、試練を受ける人を困らせる物なんですよ。【ヒカリダケ】が見つからないっていうだけで、長く狩人の試練を達成出来なかった人もいるくらいなんですからっ」


「そうなんだ? それじゃあ最悪、見つからなくて試練が終わらない可能性もあるんだね」

「一番最悪なパターンだな。それだけはなんとしても避けたいが」

「ふふふっ、確かに普通はそうなんですけどね。エドガー様は運が良いですよ」


 あんっ? とエドガーはフィーリアを見た。

 フィーリアは大きく胸を張って言った。


「私に任せてくださいっ! エドガー様のお手伝いをさせていただきますっ!」


 フィーリアの言葉よりも、ブルンッと大きくゆれる胸が気になる勇者一行だった。




 ♦︎   ♦︎




「そういうことだったのですか」


 族長の話を聞き、隊長エルフは納得したように頷いた。


「なるほど、それでは祭壇に案内することも出来ませんね」

「うむ。だが、そんなことをエドガー殿達に話せる訳もない。だからこその狩人の試練だ。エドガー殿達に気づかれぬよう、少しでも時間を稼がなければ」


「なるほど。しかし、そう上手くいくでしょうか? あの者達は紛れも無い実力者。我々の予想を裏切り、試練を突破する可能性も」

「はっはっは、それは有り得ぬ。【ヒカリダケ】の希少性はお主も知っているであろう?」

「確かに……他の二つはともかく、【ヒカリダケ】は実力だけではどうにもなりませんからね」


「その通り。あれはその味から動物にも狙われるキノコだ。そして暗いところでのみ繁殖し発光する為に、比較的見つけやすい。だからこそ、動物にほとんど食べられ手に入れることが難しい。

 あれを手に入れるには、この森の隅々まで把握していることはもちろん、よっぽどの幸運がない限り不可能だ。もしくは、あらかじめ何処かで確保しているかだな。まぁ、そんな方法は有り得ぬが」


「今までも様々なエルフが栽培しようとして失敗してきましたからね」

「ああ。いくらエドガー殿でも、あれを手に入れるには相当の時間がかかるだろう。時間稼ぎには十分だ」




 ♦︎   ♦︎




 試練を受けている勇者一行は、エドガーとフィーリアが出会った泉に居た。


 フィーリアの黒歴史とも言える巨木の根っこの隙間を、五人がじっと見つめている。すると、その隙間からひょこりとエドガーが頭を出した。ふい〜、と息を吐き、パンパンと埃を払う。そして、胸元から成果を取り出し、五人に見せる。


「たぶんこれだろ? ちょっと探したら直ぐに見つかったぜ。こりゃ確かに目立つわ」

「はいっ、それですそれ! それが【ヒカリダケ】ですっ!」


 エドガーの見せたキノコに、フィーリアは大興奮であった。

 他の者も、興味深そうにキノコを見る。


「うわっ、本当に光ってる。こんなキノコがあるんですねっ」

「うん。キノコなのに綺麗だね」

「またけったいなキノコだな。本当に美味いのか?」


「もちろんですよっ! 滅多に食べられない珍味で、里でも族長と一部の立場ある人か、実際取ってきた人くらいしか食べられないんですから!」

「お、おうっ。そうか。それなら美味いんだろうな」


 胡散臭そうにするジーナに、フィーリアはぐっと拳を握って力説する。ジーナは胸の迫力に負けて頷いた。思わず従ってしまう畏怖がそこにはあった。


「いや、まさか本当に見つかるとはな。フィーリアちゃんが偶然見つけていて運が良かったな」

「ふふふっ、実は偶然じゃないんですよ」

「ん? どういうことだ?」


 首を傾げるラッシュに、フィーリアはくふふと悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「実はこの【ヒカリダケ】は、私がここで栽培した物なんです」

「なにっ? いや、待て、でもさっきは誰も栽培出来なかったと」


「ええ、今まで誰も栽培方法を確立出来ませんでした。だから狩人の試練の対象になり、その時しか食べられないご馳走になってたんです。でも私、どうしても【ヒカリダケ】が食べられるようになりたくて。だから一人で頑張っちゃいました!」


「一人でこのキノコの栽培方法を見つけ出すって、それ凄いことなんじゃないですか!?」

「ああ。里では栽培を諦められていたものなら、相当な試行錯誤と時間がかかっただろう?」


「はい、大変でした。どんな条件でキノコが生えるのか、動物から隠すにはどうすればいいのか。一生懸命考えて、最近ようやく完成したんですよ! 初めての成功がそのキノコです!」


 いつもはビクビクとしているフィーリアが、ぐっと胸を張る。この成果に関しては、よっぽど自信があるらしい。

 なるほどと、エドガーは頷いた。


「そうか。このキノコを取る為にあそこに挟まってたのか」

「エ、エドガー様っ! それは言わない約束では!?」


「えっ? 挟まる? この根っこの隙間に?」

「ははっ、嘘つけよ。そこまで狭くないだろ。どれだけ……」


 アメリアとジーナはフィーリアを見、思わず己の胸に手を当てた。なぜか虚しい気持ちになった。そんなことをしなければよかったと後悔した。


「でも、いいですか? その記念すべき最初のキノコを僕たちにくれて」

「はい! もちろんですっ! エドガー様のお役に立てるなら構いませんっ! でも、里に帰ったら私にも分けてくれると嬉しいですっ!」


「お前本当に食い意地が張ってんな。だからそんなにブクブク太るんだよ」

「酷いっ!?」


「お前な。こんだけ好意を向けてくる相手をそんな風に扱うのはどうなのよ? だいたい、そもそもそれはフィーリアちゃんの好意で分けてもらったものだろうに」


「甘いぞオヤジ。こいつは意外と図々しいところがある。適度にシメておかなければならん」

「お前のそのフィーリアちゃんへの当たりは一体どこからきてんだよ。落ち込んでんじゃねぇか。慰めてやれよ」


 見ると、ズズンと凹んでいるフィーリアが居た。

 やれやれとため息を吐き、エドガーは声をかける。


「冗談だよ、そんなに落ち込むなって」

「グスンッ、本当ですか?」


「ああ、俺にはお前しか居ないんだ。頼りにしてるぜ」

「そ、そうですか……もうっ、エドガー様は仕方のない人ですねっ! それじゃあ、次どんどん行ってみましょう!」


「なぁ、やっぱりシメていいか?」

「まぁ待て。やる気になってんだから、せめて試練が終わってからにしろ」


「よし、試練が終わったらあいつの目の前でこれ見よがしに飯を食ってやる」

「本当に性格悪いですよねアンタ……」





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