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人間やめても君が好き  作者: 迷子
二章 先行き不安の旅路

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そのまま飢えて死ね!



 ――そして時は冒頭へと戻る。


 王都を出発してから四日目。予想以上に勇者一行の旅は難航していた。


 途中にいくつか小さな村に寄ったものの、食料の交渉をしても足元を見られ、値段を高く設定される。勇者の正体を明かして吐き出させるのも可能であったが、出発したということ以外は極秘であるため、明かすことを禁じられている。なによりネコタが嫌がったため、これも不可能。


 狩りをして食料を確保してから進むという手もあったが、必ずしも十分な量の獲物が取れる保証がないこと。次の街までの距離を考えて、この食料でも餓死はしないこと。


 以上の面から、このまま進むことになった。


 しかし、初日に深めた絆は何処へやら。まともな食料がなく空腹なまま続けられた旅路は、日数を重ねるにつれ険悪なものとなった。それが昨夜の乱闘騒ぎである。


 全員がトボトボとした足取りで歩き続ける。アメリアですら、体力の限界でエドガーを抱くのをやめていた。出発して数日で、勇者一行は早くも追い込まれていた。


 力のない声で、エドガーが呟く。


「……やばい。今にも倒れそうだ。夜のバカ騒ぎがとどめになったな」

「空腹だけならお前はまだいいだろ。俺なんか見ろよ。どっかの誰かさんのせいで体力と血を失ってんだぞ」


「あ? なんだオヤジ。言いたいことあるならハッキリと言えや。餓死する前にあたしが息の根を止めてやるよ」

「もういい加減に止めましょうよ。バカバカしい。争ってる場合じゃないでしょう」


 よっぽど体力を消耗しているのだろう。普段のネコタから想像できないほど、陰険な声だった。

 ジーナがネコタを睨むが、その労力すら疎んだのか、はぁっと力なく息を吐く。


「――あっ」

「アメリア!?」 


 険悪な空気のまま歩き続けた五人だが、最後尾に居たアメリアがふらりと頭を揺らし、膝を着いた。

 他の三人が驚きで振り返り、いち早く気づいたエドガーがアメリアに近寄る。


「大丈夫かアメリア! しっかりしろ!」

「……うん、大丈夫。ごめんね、ちょっと目眩がして」


「空腹状態で長時間歩いてんだ。無理もねぇよ。おいオヤジ、ここで少し休んでくぞ」

「待って、私なら大丈夫だから」


 立ち上がろうとするアメリアを抑え、ラッシュは言う。


「エドガーの言う通りだ。なに、ギルドのある町まではもうすぐだ。今から休んでも今日中には辿りつくさ。だから安心して休めよ」

「そうですよ。早く街に着くことより、アメリアさんの体の方が大事です。だから休んでください」

 

 アメリアは数秒ほど固まり、ゆっくりと頷いた。


「うん、分かった。足を引っ張ってごめん」

「なに言ってるんですか。誰もアメリアさんを悪いなんて思ってないですよ」


「ああ。それに旅慣れてもいないのに、ペースを考えなかった俺も悪い。気にするな」

「そもそも、諸悪の根源はあのブタだからな。お前が謝ることじゃねえよ」


「……うん、ありがとう」


 先ほどまで険悪だった空気が和らいでいく。仲間割れが起きる寸前ではあったが、一人が脱落状態に陥ったことで仲間意識が働いてきたらしい。


 和やかに笑いあう四人だったが、ただ一人、エドガーの様子は違った。


「アメリア、本当に大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね」


「ちょっと疲れただけなのに、いくらなんでもビビりすぎだろ。アメリアだって反応に困るわ」

「うるせぇ! アメリアはテメェみてな雌ゴリラとは体の造りがちげぇんだよ! 自分を基準に考えんじゃねえ!」


「ああん!? んだとこの糞ウサギ!」

「まぁまぁ、許してやれよ。心配のあまり焦ってるだけなんだから」


 今にも殴りかかりそうなジーナを、ラッシュはなだめる。

 アメリアは笑っているというのに、まだ心配なのか、エドガーはおろおろとうろたえていた。


「アメリア、本当に大丈夫か? 無理して嘘ついてないか?」

「もう、心配性だねエドガーは。でも本当に大丈夫だよ。休めば歩けるようになるから」

「そうか、それならいいんだが……。何か俺に出来ることはないか?」


「大げさだな。傍にいてくれるだけでいいよ。……でも、食べ物があると嬉しいかも」

「ははっ、また無茶言いますねアメリアさんは」

「まったくだ。それが出来ればこんなに苦労してねえよ。はははっ」


「食い物か。よし、待ってろ」

「「はっ?」」


 ネコタとラッシュの声が重なる。

 それを気にも留めず、エドガーはパンッと両手を叩いた。


 手から緑色の光が漏れる。その両手を地面に着け、ゆっくりと引く。すると、ポンッと音を立て選考会で見せたあの長ニンジンが姿を見せた。


 目を丸くするアメリアに、エドガーはニンジンを差し出した。


「さっ、遠慮せずに食え」

「……えっと、食べれるの?」

「おう、生でもいけるぜ。超美味いぞ」


 エドガーはボキッっと先端を折り、口の中に入れる。ゴリゴリと旨そうに食べるエドガーを見て、アメリアは苦笑を浮かべつつ、遠慮がちに口を着けた。


 生でニンジンを食べる自分という構図をおかしく感じていたアメリアだが、何度か咀嚼し目を瞠る。


「――なにこれ。凄く美味しい」

「だろ? ニンジンも馬鹿にできねぇだろ?」

「うん。果物みたいに甘い。こんなの食べたことない」


 気が進まなかったのが嘘のように、アメリアは次々と口を着けた。

 それを見て、エドガーは満足そうに笑みを浮かべる。


「ふぅ、よかった。これで一安心だな」

「「「ふざけんなあ!」」」


 二人のやり取りを眺めていた三人は、声を揃えて怒鳴りつけた。

 ブチ切れたジーナが、エドガーの耳を掴んで持ち上げる。乱暴な扱いに、エドガーは抗議の声を上げた。


「痛てぇだろうが! 何すんだテメェ!」

「何すんだじゃねえだろうが! お前が何してんだ! いや、むしろ今までなんで何もしなかった!?」


「あんた僕たちが今どうしてこんなに苦しんでるか分かってるんですか!? 本当にいい加減にしろよ! 冗談で済む時と済まない時があるんだよ!」


「すっかり忘れてたぜちくしょう! そういえばお前選考会の時も自分で食ってたよな! だがまぁいい、早く俺達の分も出せ! そうすれば今まで黙ってたことは見逃してやる!」


「ざけんな! 誰がテメェらのために出すか! 俺のニンジンは俺が命を差し出しても構わないと思った奴にしか食わせないんだよ! そのまま飢えて死ね!」

「はぁ!? なんだその無駄なポリシー! そっちがふざけんな! テメェを食うぞボケ!」


 ボリボリと一心不乱にニンジンを食べ続けるアメリアと、醜い口喧嘩を始める四人。

 深まりかけていた絆は、再び崩壊することになった。


 ――主に、ウサギの依怙贔屓によって。



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