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人間やめても君が好き  作者: 迷子
六章 亡国の覇王

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──男女平等! 



 ──そして、話は冒頭に戻る。


 きっかけはエドガーの嫉妬と見苦しく言い訳も出来ない所業からではあったが、結果的には災厄を察知したという点で、功を奏したと言えなくもない。まぁ、本人たちは大ピンチではあるが。


「エドガー……皆……酷いよっ……! どうして私を置いていくの……?」


 グスッ、グスッ、と泣きながら、アメリアは足を引きずるように歩いている。

 そして、


「私だけ、私だけ置いて……絶対に許せない……! 燃やし尽くしてやるんだから……!」


 急に涙を引っ込めたかと思いきや、氷のような無表情で精力的に周囲を探し回り始めた。

 朽ちた建物の陰からその様子を覗き見て、ネコタはブルリと体を震わせた。


「なんかアメリアさん、いくらなんでもおかしくないですか? 泣いたり怒ったり……」

「は、はいっ。操られているとはいえ、あんなに情緒不安定になって、アメリアさんらしくありません。他の人達はそうでもないのに」


 同じように怖がりながら、フィーリアも周りを観察する。


 アメリアと同じように操られている人々は、アメリアのように感情を上下させたりはしていない。むしろ正気に近しい表情で、一心に自分達を探そうとしている。これはこれで怖い。


「……おそらく、支配の深度の差だろうな」


 顎をさすり、ラッシュが答えた。


「町の住人達は、マリンによって完全に支配されているんだろう。だからマリンの意志に応え、疑問を持たず全力で任務を遂行する。

 逆に、そいつらに比べてアメリアは支配が甘いんだ。だからアメリア本人の感情を御しきれていない。とはいえ、支配を抜け出せるほどでもない」


「その結果が、あの子供みたいな癇癪ってことか。滅多に見れない貴重な姿だ。こんな時じゃなけりゃ笑ってやったんだがな」


「笑えるか! アメリアが言いようにされているってことだぞ!?」


 不謹慎なことを言い出すジーナを、エドガーが叱る。

 これがネコタだったら爆笑必至だっただろう。相変わらずアメリア贔屓の酷い男である。


 ヒソヒソと言い合っているうちに、アメリアは五人とは見当違いの方向へと歩いていった。小さくなっていく姿に、ほっと息を漏らす。


「良かった。アメリアさん、行ってくれましたね」

「まだ他の連中は残っているから、油断は出来ないけどな」


 殺気だった表情で、周囲をウロウロしている住人達。

 あれに見つかったら、たちまち周りの人間全てがこの場に殺到してくるだろう。


「見つかったら一気に押し寄せるこの状況。バ〇オや! バ〇オハザードやっ!」

「それでもゾンビよりはマシ……いや、ある意味こっちの方が怖いかな」


 ガタガタと青い顔で震えるエドガーに、ネコタは引き攣った笑みで応えた。

 なお、緊急事態ゆえにウサギの発言の違和感には気づかなかった模様。


「見つかるのも時間の問題だな。早いとこ方策を固めないと、遠からず詰むぞこれは」

「そうは言っても、助けに行こうにもこの状況じゃ無理だろ」


「ああ。だから俺達だけでやらなきゃならねぇ」

「それが無理だから助けを呼ぶってテメェが言ったんだろうが!」


 信仰を操る大本である鏡を破壊するのが、アメリア奪還の本命ではある。だが、それをやるとアメリアの精神がどうなるか分からない。それを避けるために、【神官】か【呪術師】の力を借りようという話だったのだ。


 言い出した張本人であるラッシュの覆すような発言に、ジーナが苛立つのも無理はなかった。


「ああ。だが、アメリアを助ける可能性があるのは鏡だけじゃねぇ。もう一つ、マリンが持っていた物があるだろう?」

「あの杖、ですね?」


 フィーリアの言葉に、ラッシュは頷く。

 難しそうな顔をしながらも、エドガーも同意した。


「だろうな。アメリアを操る時、明らかにあの杖を使っていた。

 おそらく鏡が本体ではあるが、あの杖はリモコンみたいな物なんだろう。

 壊せば解放される可能性も高いし、鏡を壊すよりかはアメリアに与える影響は小さそうだ」


「なるほど。それなら……!」


 分かりやすい説明にネコタも納得し、希望が見えた気がした。

 だが……。


 町の住人、および巡礼者の警戒網を潜り抜け?

 情緒不安定になって常に大火力の魔法を放ってくるアメリアを傷つけず、逃げながら?

 最奥に居るであろうマリンという得体のしれない実力を持つ相手から、後生大事に抱えている杖を破壊する?


「無理じゃねぇか、これ?」


 あまりの難易度に思わず口にするジーナに、皆が同じことを感じてしまった。

 確かにどれ一つとして容易く出来るものではないし、不確定要素が大きすぎる。


 カァッと喝を入れ、エドガーはジーナに怒鳴る。


「無理でもなんでもやるんだよ! それしかねぇんだからな!」

「まっ、確かにな。無理無茶無謀は承知の上だ。それしか取れる手段がない以上、全力で遂行するしかないだろう」


 ラッシュは全員の顔を見回し、真剣な顔で続ける。


「誰か一人でもいい。なんとかマリンの元まで辿りつき、杖を破壊する。アメリアを取り戻せば、あとは囲んで叩けばいいだけだ。上手くいけば街の住人達も解放されるかもしれん」


「杖を破壊してようやくイーブン、ってのが辛いとこだが、仕方ねぇ。寝取られた女は寝取り返さにゃ」

「いや、だからアメリアさんはアンタの女じゃ──」


「見つけたぁあああああああ!!」


 甲高い女の声に、ぎょっとして五人がそちらの方へ向く。

 見れば、エドガーが昨晩飲んだくれていた店の看板娘が、こちらを指さしながら立っていた。


 愛想のいい笑顔は、怒りに。そして手には包丁を持っている。

 エドガーが昨日見た姿とはかけ離れた様子に、分かってはいても恐怖を感じた。


「皆~! ここ! 此処にいる! 早く来てぇえええええええ!」

「くっ! 的確に嫌な行動を……!」


 看板娘にラッシュは舌打ちする。


 操られているからなのか、それとも、戦闘力のなさを自覚している少女だからこそ、なのか。


 どちらにせよ、敵としては最適な行動だった。


「マリン様の邪魔をするなんて、よくも! 死ねぇえええええええ!」

「くっ!」


 包丁を突き立て、突進してくる看板娘。それに、一番近くに居たネコタが反応した。


 苦々しい表情のまま、拳を構える。そして、包丁の軌道を見切りつつ、拳を振りかぶり――


「何やってんだ馬鹿野郎!!」

「げふぉぁっ……!?!?!?!?」


 真横から、エドガーのケリが突き刺さった。

 ネコタは横っ飛びに転がり、ちょうどネコタの居た場所を、スカッと包丁が通る。


 エドガーは着地すると同時に看板娘の背後に回り、優しく首を絞めた。


「──ッ! うっ……」


「ふぅ、危ない所だった」

「お前……何を……!」


 極められ、落ちた看板娘を見ながら、ほっと息を吐くエドガー。

 そんなエドガーに、ネコタはわき腹を押さえつつ抗議の声を上げる。

 だが、逆にエドガーは叱りつけた。


「この愚か者! 相手は操られているだけの住人だぞ! それを傷つけるつもりか!」

「これは仕方ない状況じゃ……というか、僕は無力化しようとしただけ……」


「お前の技術で出来るわけねぇだろうが! 女に傷が残ったらどうする!?」

「ぬぐっ……!」


 納得はいかないが、言い分としては間違ってもいない。

 悔しそうな表情をするネコタに、やれやれとエドガーは首を振る。


「まったく、これだから短慮は困る。もう少し俺のように深く考えて──」

「死ねぇえええええええ!」

「むっ!?」


 建物の陰から、今度は冒険者風の大男がエドガーに襲い掛かってきた。


「とうっ!」

「ぐぼっ……!」


 そしてエドガーは迷わず大男の腹部に飛び蹴りをかました。

 もちろんネコタは怒鳴った。


「何やってんのお前!? さっき言ってたことはなんだったんだよ! 普通に攻撃してんじゃないかよ!」

「バカかお前は! 見れば鍛えた冒険者だって分かるだろうが! 男と女じゃ扱いが違うのは当然だろうが!」


「むっ、むぐぐぐっ……!」


 これも、言い分としては分からなくもない。いちいち気遣って気絶させてたらキリがないし。

 だが、しかし……納得が……!

 

「うるぅああああああああ!」

「むむっ!」


 また、新たな敵が襲い掛かってきた。

 恰幅の良い中年の女性だ。鍛えた様子は見受けられない。看板娘同様、街の住人だろう。

 しかしこう言ってはなんだが、顔に愛嬌のようなものは感じられず、意地悪そうな顔つきをしている。


「ホアタァアアアアアアア!」

「ぶぎっ……!?」

 

 そしてエドガーは迷わず女の顔面にケリを放った。

 なんだったら一番気合が入っていた。


 今度こそネコタはマジギレした。


「本当に何やってんのお前!? 女性にまで本気じゃんか!」

「──男女平等!」

「うるせぇ! 明らかに見た目で決めてるだろお前!」


「お前ら余裕あるな……」


 こんな状況でもこのやり取りとは、こいつらのメンタルはバケモノではなかろうか?

 いつも通りを崩さない二人に、ラッシュは本気で感心した。


「うっ、うぅぅ……」

「マジか。手応えは有ったぞ?」


 気絶させたはずの三人がゆっくりと体を起こし、エドガーはぎょっとした顔を作る。


 締め落とした看板娘はともかく、肋骨に皹が入っている大男。そして顔面が陥没した中年女性は、しばらく眠っていてもおかしくないはずだ。


 だが、その理由も三人のを観察すれば良く分かった。

 三人共が意識を失ったまま、獸のような唸り声を上げている。


「……わ~お。本当にバ〇オっぽくなってきた」

「起きていれば自身の意志で。気絶させても強制的に操って動かすか。厄介すぎるぞ」


 これでは、丁寧に住人を寝かす意味もない。

 かといって、殺す訳にはいかない。


 ますます不利になっていく状況に、ラッシュは目眩がしてきた。

 パキリッ、とジーナが拳を鳴らす。


「だったら手は一つしかねぇな。両手両足を砕くぞ。それでとりあえず動けなくなるだろ」

「それしかねぇか。住人達には悪いが、後でアメリアを取り戻して治してもらおう」


「鬼畜かお前ら! いくらなんでもそりゃ思いきりすぎだろ!」

「そうですよ! この人達は被害者ですからね!?」


「で、でもでもっ、私達が危なくなるのですから、仕方がないと思います!」


 躊躇わず賛同するフィーリアに、ラッシュとネコタは絶句した。

 スラリと、エドガーまでもが剣を抜く。


 このまま操られた住人達に惨劇が広がるのではと思ったとき、聞きなれた声が届いた。


「見つけた。皆、こんなとこに居たんだね」


 騒ぎを聞きつけたらしい。アメリアが、再び戻ってきていた。

 誰もが固まっている中、にっこりと笑いながら、アメリアは言った。


「皆、まとめて送ってあげる」


 炎が、再びエドガー達に襲い掛かる。

 繰り返しのようにフィーリアが火の精霊に語り掛け、炎を食い止める。

 身を守ることには成功したが、フィーリアは青ざめていた。


「今、街の人ごと……」

「見境なしか!」


 アメリアの炎は、五人だけではなく、周りに居た街の住人にも及んでいた。

 味方という認識すらないのだろう。フィーリアが防がなかければ、間違いなく住人は死んでいた。


 いつまでフィーリアが守れるかも分からない。ラッシュの判断は早かった。


「──散らばれ! 固まってたら纏めて殺される!」


 アメリアの大火力の前では、集団で動くのは愚かでしかない。

 散らばれば少なくとも、一人を追っている間に他の者に余裕ができる。


「住人が居ないところに逃げろ! そして分かってるな!? 誰か一人でもいい! マリンの杖をなんとかして壊せ!」


「──ッ! 分かりました!」

「ちっ、しゃあねぇな!」


「あわっ、あわわわっ! わ、私はどっちへ──げぼっ!?」

「おら、テメェはこっちだ。グズグズすんな」


 あたふたするフィーリアと、その首根っこを掴んで走り出したエドガーを除き、それぞれが単独で別方向へ逃げ出す。


「……エドガー、絶対にゆるさない」


 散らばった獲物達をゆっくりと眺め、アメリアは悩んだ様子を見せた後、エドガーとフィーリアの方へ歩き出した。


 このあたりはまぁ、自業自得である。

 こうして勇者一行は仲間と逸れ、逃げ回ることになった。



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