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アレッタ・ラ・モルテ  作者: 小林錯弥
8/10

衝撃

 彼女の名前は葉山葵子(はやまあおこ)。葵子は保健委員長をしているため雅臣も名前くらいは知っていた。

 ふたりきりで無言だと流石に気まずいのでとりあえず挨拶はしておこうと声をかける。


「おはよう。早いね」

「──!? おっ、おはようごじゃましゅ!」


 噛んだ。もう可哀想になってくるくらい綺麗に噛んでみせた葵子は、恥ずかしそうに下を向いてしまう。

 確かにまともに顔を合わせたこともない男にいきなり話しかけられても困るよなぁ、と思って雅臣は申し訳ない気持ちで胸をいっぱいにしていると、葵子はおずおずと口を開いた。


「あ、や、ご、ごめんね……人とお話しするの、に、苦手、で……」

「あはは、そっか。こっちもいきなり話しかけちゃってごめんね、驚いたよな」

「ううん……全然……!」


 別に嫌がられていた訳じゃないとわかって安心する。

 それから少しだけ他愛ない話をしていると教室に人が増え始めたので自然にお開きとなった。

 葵子と話して、雅臣の疲れた心は幾分か癒された気がしている。一生懸命に話を広げようとする姿はなんだか可愛らしくて、見ていると楽しかった。


 あれから特筆するようなことは起こらず、平和で退屈な学校での一日が終わろうとしている、今は夕方。

 部活動もしておらず特にすることもない雅臣は帰りのホームルームが終わり早々に家路に着こうと昇降口まで行ったところで、ポケットの携帯電話が鳴った。

 ワンコール程で出た電話の向こうから聞こえてきたのはやはりルチアの声。またアルバニアが現れたそうだ。脳内に昨日の凄惨な光景が(よみがえ)り、気が滅入ってしまう。


 さっきよりもうんと重たくなった心と体を引きずりルチアに告げられた目的地に向かうと──いた。

 雅臣は目を閉じると、何も無い空間から深紅の鎌を出現させる。この時だけは、幼い頃夢見た魔法使いのような気持ちになれて、高揚した気分になるのだ。

 向こうはまだこちらの存在に気付いていない。こんな不毛な争い、さっさと終わらせようと手にした大鎌を振り上げた瞬間──


 標的(アルバニア)の姿が、視界から掻き消えた。


「──えっ」


 消えたと思った天使の姿はいつの間にか目の前にあって、顔には気味の悪い笑みを貼り付け、短剣のようなものを構えている。

 ……そこから刺され、自分が殺される想像をすることなんてあまりに簡単すぎて、『嗚呼、死ぬ。』と思うまで体感で1秒もかからなかった。

 そうして諦めたように雅臣は目を閉じる──が、いつまで経っても予想していた激痛はやってこない。

 恐る恐る目を開けた雅臣の目に飛び込んできたのは、なんと頭に風穴を開けて絶命しているアルバニアと──


 少し離れた所にまだ銃口から硝煙をあげる狙撃銃を持って立つ、葵子の姿だった。


 葵子は雅臣と共に、酷く驚いた顔をする。そんな葵子の瞳は、今朝見たような綺麗な黒ではなく燃えるような、『赤』に変わっているようだった。


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