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アレッタ・ラ・モルテ  作者: 小林錯弥
5/10

狼狽

「えっ、なんでお前、俺の番号」

「いいから早く来い! 僕じゃどうにもできない! 北町センタービル屋上!」

「~っもう、わかったから急かすな!」


 ルチアが焦っている様子だったので雅臣も急いで外に出ようとするが自分の着ているYシャツが血塗れで、なんともグロテスクな色合いを見せていたことに気がつき慌ててパーカーを羽織ると今度こそ家を飛び出した。


 北町は雅臣の住む町の隣に位置しているが、雅臣の家自体が北町寄りの場所なので、隣町のセンタービルまで走って精々5分といったところだろう。あまり体力には自信が無いほうなので走りたくはないのだが仕方ない。

 目的地が見えた。不思議なことに全力で駆けたつもりなのだが雅臣の息は全くあがらない。……これは《モルテ》に与えられる恩恵かなにかなのだろうか。今初めてちゃんと実感が湧いたような気がした。


「ルチア君!」

「雅臣! 思ったより早いじゃん、で──今このビルの屋上にアルバニアが1体いるみたいだけど馬鹿正直に突入したら多分すぐ気付かれて逃げられる。隣のビルから奇襲しよう」

「そんなことできんのか……? ──あ、俺、あの鎌持ってきてない。どうしよう」

「ん、それなら大丈夫……ってむしろあんなん持ち歩くの嫌だろ。はい、念じて。創造するんだよ」

「ね、念じる……っ、うわ」


 いきなり『念じろ』なんて言われても何を思えば良いのか全くわからなかったため、雅臣はとりあえず部屋で見た大きな鎌を想像した。

 ──すると、何も無かった場所に一瞬赤の光が充満して、気付くと雅臣の前に例の大鎌が現れていた。


「う、嘘だろ……」


 ルチアは驚きを隠せない雅臣を隣のビルに外付けされた非常階段へ行くよう促し、そのまま屋上へ向かう。

 長い階段を登り終え、屋上から隣のセンタービルを見るとこちらの方が高いのか少し下に──アルバニア(アイツ)が見えた。


 見た目は、人の姿に大きな白い翼が生えていて天使のようだ。癪だがアルバニア──イタリア語で『白く美しい』の名に恥じないくらいに美しい。

 今までなら即座に危険を察知し逃げただろう。……だが今回は違う。ようやく復讐の(とき)が来たと、罪悪感で満ちた毎日にこれから終止符(ピリオド)を打っていけると、雅臣はそう思った。


「じゃあ、アイツが逃げないうちにさっさと切って終わらせてよ」

「うん、……は、切る!? え、待って」

「は、だってそれ鎌だよ? 切り刻む用途でしょ」


 雅臣は戦慄した。むしろどうして今まで何も思わなかったのか。

 そうか、復讐って、『殺す』ってことなんだ。今まで重大な何かが欠如している気がしていたのは、そういうことなのか。

 アドレナリンの過剰分泌で興奮状態にあった雅臣の頭は急速にクールダウンしていく。仮にも人型のモノを切り刻み──敵を屠る。己の手で。誰も頼れない。自分にしか出来ない。

 ……嫌だ。嫌だ嫌だ。怖い。逃げたい。


 突然恐ろしい現実を突きつけられ、雅臣の足は竦む。体が勝手に震えて、動けない。


「怖い……無理だ。俺には出来ない……嫌だ……嫌だ嫌だ」

「……何、言ってんだよ。モルテになったんだろ、それだけの未練があったってことなんだよ。お前は……転生して──チャンスを与えられたのに、また後悔したいのかよッ。ふざけんな……闘えよ!!」


 雅臣が切実な思いを口にすると、ルチアは声を荒げた。ルチアは目の前のアルバニアではなく《自分》と闘えと、今の雅臣にはそう言っているように聞こえた。 

 結構良いことを言うじゃないか。臆病な自分が恥ずかしい。そしてルチアも密かに、暗い何かを抱えているのかもしれない、と思ってしまったのだ。


 辛いのは自分だけじゃない。そう戒めると何故か心が軽くなった気がする。

「ごめん……やる、俺、やるから! ──負けない」


 そう言うと雅臣は隣のビルの屋上めがけて飛び降りる。そして深紅の鎌を振り下ろし、間抜けな顔をしてこちらを振り返るアルバニアに憎悪の(やいば)をねじ込んだ──


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