転生
目を覚ました雅臣が見たものは、病院の一室やまさかの地獄──というわけでもなく、もう生きて見ることは無いだろうと思っていた、自室の天井だった。
雅臣は酷く驚く。それもそうだ。確かに鋏で頚動脈を断ち切って自身の血液が噴水のような飛沫をあげる様子まで見ていたのだから。
まだ手には鋏を持っている。死のうとした事自体が夢なんじゃないかと思ったが、どうやらその可能性は無いらしかった。
赤く染まる鋏に、仰向けでベッドに横たわったまま目線を横に向けると鋏と同様に毒々しく赤くなったシーツが見えて、それらは自殺という事実を物語っている。
雅臣が自身の並外れた生命力に最早感嘆していると、窓の辺りからふと声が聞こえた。
「へぇ……すごいじゃん。君は今から死神だ」
「え、は……え?なに?死神?」
「そう、死神……モルテだよ。だからさ、まぁ、頑張ってよ。」
「だから、それってどういう……」
「あぁ、そっか。めんどくさいなぁもう」
純粋な質問を投げかける雅臣に、窓のフレームに腰掛けた綺麗な金髪をした若い男は言った通り本当に面倒くさそうに頭を掻いた。
「君は、《転生》したんだ。ほら、横見てみろよ」
「て、転生……え、横?」
言われた通りにさっきとは逆の方を見ればそこには──
「──鎌?」
そう、鎌が……それも、雅臣の身の丈程もあるような大きな鎌があったのだ。湾曲する刀身は血のように深い赤である。
……とてもじゃないが、農業用とは思えない。
そう、これはよく、童話などで語られる──
「死神の鎌、みたいだ……」
「そうそう、ってわけだからさ、わかった? ……ははっ、すげぇそれっぽいな、その鎌。こう、死神だぞー! みたいな」
「あ、うん、確かに……って、お前は誰だよ……」
流石に顔も知らない赤の他人が自室の──しかも2階の窓に腰掛けているのはおかしいと思った雅臣は、今更な質問をした。
「あれ……言ってなかったっけ。まぁいいや僕はルチア。ルチア……ノービレ。とりあえず普通の人間だと思っといて」
「え……訳分からん。でもやっぱ外人さんなんだな」
「あー……たしかにニュアンスは間違ってないね。そうそう、外人さん外人さん。」
「なんだよその意味深な発言は!?」
本当に訳のわからない奴だと雅臣は思ったがまあり深く他人に干渉することは元々好きではないので今は目の前にいるルチアの事を、『意味不明な奴』とだけ認識しておくことにした。