風渡り
風渡り
さやさやと梢が揺れる。ぼくは青葉の桜の上で、ベンチに座る彼女を見下ろす。毛虫がこわくないのか、彼女はゆっくりと文庫本のページをめくる。ときおり、ぱたっと、音がする。涙のあとが、ページに残る。
さよならはこわくないよ、ぼくは軽く枝葉を揺らして、葉っぱと毛虫を落としてあげる。
彼女がぼくを見上げる。
青空と緑の葉を、まぶしそうに目を細めて。
ぼくは翼を開いて飛び立つ。ぼくを可愛がってくれた、貴方のともだちはいなくなったけれど、ぼくはまた帰ってくるから。渡り鳥だもの。
またね、またね。
鳴きながら、ぼくはもう、振り返らなかった。