<閑話>
その龍は一体の魔物から始まった。
魔物の名は死喰小人族といい、捕食したモノから僅かな魔力を得る醜い特殊スキルを有した小人族の変異種だった。
ゴブリングールはゴブリン種特有のコロニーを作り、人や鹿などを襲った。
時には人の反撃により殺された仲間の屍を喰らうこともあった。
彼らはひっそり暗い森の中で力を蓄え続けた。
彼らは死を恐れなかった。死のうとその屍は仲間に喰われ種の力に還元される。死を恐れないゴブリングールの特攻はトロール種や人狼族をも凌ぎ恐れさせた。
その内、彼らの中に強い個体と弱い個体の差が表れ始めると、自然に共食いを始めた。
弱い個体が強い個体に頭を垂れて捕食されていく。
彼らは知っていた。我々は人を喰らいすぎたと。どれほど魔力を得て強くなろうともいつかは人間の報復によって滅ぼされる運命だと。
そうして死喰小人族は超死喰小人族へと進化するが、その場に残っていたのはたった一体であった。
こうして残されたスーパーゴブリングールはコロニーを捨て森を出た。スーパーに進化したことで驚異的な身体能力を獲得したため単独で獲物を狩り生きていくことも容易であった。
種であることを放棄し、全てを個に委ね託すことで血を残すことのできた死喰小人族だったが、惜しくも一つだけ思い通りにいかなかったことがあった。
それは残された一体が更に力を求めてしまったことだった。
元よりゴブリングールには魔力の器があり捕食から得れる上限は個体差はあれど存在した。しかしスーパーゴブリングールに進化したおかげでその上限は失われ、捕食し得られる魔力も格段に増えていた。
増え続ける力と魔力。
その首に懸賞金が懸けられ、ある程度の力を持った討伐者の人間をも返り討ちにしていく中、彼は自身の強さに歓喜し、生き延びいつか種としてその血を繁栄させるという使命も忘れてしまう。
村を襲って人を喰らい。ゴブリンのコロニーを襲って喰らい。それでも屍に飢えた彼は人と人の戦場にまで出現し多くの人間を喰らった。その頃にはゴブリンとしての形は残っておらず、その意志も消滅していた。強大な魔力に身体は肥大することで適応できはしたものの心はついていけず壊れてしまっていたのだ。
しかし心を失った化け物はそれでもなお捕食し続けた。
喰らっても喰らっても増していく力に限界はなく、増え続ける力に体は比例して肥大化していった。
それから百年、かつて一体の死喰小人族でしかなかったそれは山より巨大に。「龍」と呼ばれ恐れ讃えれられる存在にまで成長していた。
◇ ◇