四度目の転生
初めまして、有象無象のその他大勢にカウントされる皆さん。
俺の物語を読もうとしてくれることにまずは感謝しよう。
まずは物語を綴る前に俺の紹介をしておきたいと思う。
俺の名前はガルレージ・アルトライム。ガルでもアルでも気に入ったほうで略してくれ。
使えるスキルは「消失点」と「命契約」の二つと、百の系統に分かれる魔術。
その二つのスキルと百の魔術を使って俺は過去に三度世界を終焉に導いた経歴がある。その度に俺は世界の壁を通り抜けて新たな世界に転生しなおしてきた。
消失点と命契約の説明は後々していこうと思う。
まあ、とりあえず自己紹介はこれくらいにしておこう。俺のことは物語を読み進めながら深く理解していってくれ。ちなみに好物はグラゼリアの果実。崩壊した世界の果実。二度と物語には出てこないだろうから記憶にとどめておく必要はない。
偉大な力を所持する俺が転生する。
転生する際には一度すべてを放棄しなければならない。力も記憶もスキルもすべてを失って新たに生まれ変わるのだ。しかし俺は予め、「ガルレージ・アルトライム」という情報を魂に刻んで残す。
魂に刻まれた「ガルレージ・アルトライム」という情報は消えることなく俺を俺のまま転生させる。
転生してまず最初にやることは潜伏。ある程度その世界の情報や文化を学ぶのだ。どういった者らが生きて何を生み出しているか。どのような技術があり、俺に相応しい価値あるものがないか。記憶に留めておくべき人材がいないかどうか、を。
「坊や…」
そうこう説明している間に俺は無事、転生することができた。
大きな女が俺を抱いている。いや俺が小さい。俺は今「赤ん坊」という立場のようだ。
「可愛いわね…」
痩せた女はそう言って俺の頭を撫でる。本来ならこの俺にそのような無礼を目論んだ時点で肉片になっているのだが、赤ん坊という未成熟な体躯での魔術使用は危険であるため今回だけは見逃してやることにしてやることにした。
ただ忘れるな。今はまだ百の魔術は使えぬが、俺には二つのスキルがあることを。
赤子の身であろうとも、いつであろうと俺は指一本動かさずにお前を消し去ることができることを。
決して忘れることなかれ。
「あうぁ」
なんと情けない鳴き声を出してしまったのだろうか。俺あるまじき失態だ。
ブチュチュチュリ。
突然の解放感とともにお尻の当たりが温かくなる。
ああ、なんと情けない。赤ん坊とは自力で尻の穴を閉じることもできないものなのか。それより自身の便意でありながら察知することもできないのか。これでは改善のしようがないじゃないか。
俺は惨めな気持ちになって大声を出して泣いてしまう。泣きやもうとするが涙が止まらない。出したくないのに大声で泣いてしまう。
感情が上手く操れないが、どうやら精神が赤ん坊の肉体に影響されているようだ。大変なことだ。
「よしよし…、いいのよ。たくさん出して…、健康に育つのよ…」
女が俺の出した排泄物の存在に匂いで気付いたのか、俺を寝転がしてオムツを取り換えようとする。
それには忌避感と屈辱感の混ざり合う新天地のような感覚があった。
「足を開いて…」
そう言って女が俺の両足を無理やり開かせる。恥ずかしいので抵抗するが力では到底かなわない。
ガバッと両足開きの無残な姿にされる。記憶にある中でもこれは一、二位を争うレベルの屈辱だ。
もう一度言うが俺がその気になれば一瞬でお前を消滅させることができることを忘れることなかれ。
足を開かされ俺の唯一の装備であるオムツが剥されていく。
そして俺は衝撃的事実を目撃する。
オムツの下の俺の股にあるべきはずの男性器が存在していなかった。 簡単に言うとちんこがない。
この世界の赤ん坊は性器を有せず成長するとともに性器が形成されていくタイプなのかもしれない可能性も考えられるが、そこまで俺は楽観主義者ではない。俺の転生した体は雌なのだ。
尻の汚れを拭き取られながら俺は考える。
女の身体など何度も見たことはあるが実際に女になったことなどこれまでない。そういった転心術も使えるが、全ての面において男性体に劣る女性体を利用する機会もなかった。
「よしよし…」
脱糞の処理が終った後、女はまた同じように抱くと椅子に座って頭を撫でてきた。
何が楽しいのか俺には理解に苦しむが、撫でられるのもそんなに悪い気はしない。
俺が成長し全てを支配したその時には宮殿に頭撫で係として雇ってやるのもいいかもしれない。
「おやすみなさい…」
眠くなってきた。本来の俺なら一週間は一睡もせずに破壊活動に精を出せるのだが、やはり精神面が赤ん坊の体に影響されているのだろう。
いかに強靭な心をもってしても肉体が未熟では百パーセントのパフォーマンスは発揮できないことが証明できたとして、今は寝てしまおう。寝て成長して一日でも早く、この世界を終わらせてしまおう。