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間違って呼ばれた彼らはどう過ごせばいいのだろう?


 王城を出て、テリーが聞いたというオススメの酒場に入った。

 本物の酒場に入るのは初めてだが、VRMMOによくある1階酒場、2階以上が宿屋になっている、大きな店だった。

 店には甲冑を着込んだ剣士や、ローブを羽織った魔術師らしい連中もおり、喧噪の中を料理を運ぶウェイトレスが忙しなげに行き来している。

 将人達は文字が読めなかったが、ナイアの助けとウェイトレスに聞いた「オススメ」を頼むことで、注文することは出来た。

 そして……。




「それでさあ、いざバッターボックスへって足を踏み出した途端、密林だった訳だ。ビックリするだろ? 俺はビックリしたぜ」


 赤ら顔のテリーが、据わった目で言う。


「……なあ、テリー」


「んん? 密林でオレが何を見たって? こっちに一直線に()()()()()バッファローだよ。遅れて投げ飛ばしたらしい大猿も出て来やがった」


 口調もやや怪しい。


「いや、そんな話をしたかった訳じゃなくって、お前、メチャクチャ酒弱いのな」


「ジョッキ、ちょっとしか減ってません……」


 将人の隣に座るナイアも、困ったような顔をしていた。

 実際、テリーの持つ陶製ジョッキの中にある麦酒は、八割ほど満たされている。

 が、酔っている人間ほど酔っていないというモノだ。


「ああ? オレがそんな柔な人間に見えるか? こー見えても国じゃビールなんて水と一緒だったぜ」


「へえ、ビールをよく飲んでたのか」


 かく言う将人の注文は、柑橘系の果実酒である。

 水はなく、何となくアルコールの弱そうな注文がコレしかなかったのだ。

 牛乳ならあったのだが、目の前の料理とは合わなさそうなので、やめておいた。


「親が言ってただけで、オレはコーラがメインだったがね」


 だらしなく笑いながら、テリーは何の肉か分からない骨肉に齧り付く。


「……飲んでないんじゃん。それよりも、よくそんな猛獣達に襲われて無事だったな」


「必死にボールを投げたり、バットで迎撃したりしてな。後で聞いたらそこ、獣達が棲まう森林王国との交戦地域だったんだと」


 ハハハ、と笑いながら、テリーは右手を横にやった。

 すると、バットとボールとグローブが掌から出現し、木の板を張った床にボトボトと落ちた。


「うおっ!?」


「多分、ベースボールゲームやってる最中に召喚されたせいだろうな。いくらでも出せるぜ? ああ、そうだ。ユニフォーム、将人もいるか? 着替えには困らねーぜ?」


 ビッと、自分と同じチームのユニフォームを広げるテリー。


「なら、城に戻ってから一着もらおうか。今の所、これしか服ないしな」


「じゃ、じゃあ、私も欲しいです。将人様とお揃いです!」


「俺とも揃っちゃうんだけどなあ」


 笑うテリーだったが、ナイアには将人と同じ、という点が重要らしかった。

 なおその後だが、死にものぐるいで森を逃走、召喚時の魔力を追跡していたこの国の騎士団に、何とか助けてもらえたらしい。


「バットやボールを出す以外に、何か能力みたいなのはないのか?」


「そうだなあ……9人チームを作成したりも出来るけど、ここでリーグ戦やる訳にもいかねえよなぁ」


 戦時中である。


「……でも、ボール、バット、ユニフォームにヘルメット……それなら、ある程度の攻撃力と防御力は手に入れたも同然だよな」


 少なくとも、徒手空拳よりはずっと心強い。

 まあ、ちゃんとした武装の方が安全だろうが、キャッチャー用のプロテクターなんて、とても頑丈そうではないか。

 バットは打撃武器として言わずもがな、ボールも投擲用に有効だ。

 それを考えると、将人は微妙に落ち込んでしまう。


「将人様?」


「いや、俺の能力って何だろうと思ってさあ。ギャルゲーだぞ、ギャルゲー?」


「ぎゃ、ぎゃるげえなるモノはよく分かりませんが、少なくとも私がお力になります!」


 グッと両拳を握るナイア。

 それを見て、酔っ払い(テリー)が大きく笑う。


「ハハハ、男冥利に尽きるよなあ、将人。羨ましい話じゃないか。あ、そうそう、何か妙なメッセンジャーがインナーフォンに導入されてお前の名前が登録されてるんだけど、これがその『ギャルゲー』の能力なんじゃねーの?」


「あ、そっちにも行ってた?」


 将人もメッセンジャーを確かめると、そこには新たにテリーとナタリヤの名前が登録されていた。


「おう。ま、普段使ってるのとやり方は同じだから、特に困らねーけど、変なウイルスとかじゃ……ねーよな、これ?」


「多分な」


 インナーフォンのアプリ登録は基本、販売元であるソルバース社の認証が必要になる。

 ウイルスを入れるには、非公認のアプリを導入できるようにまず、インナーフォン自体に細工をする必要があった。

 そもそも、このメッセンジャーが公式のアプリかというととても怪しいのだが、こっちの世界に来てから出現したという事は、テリーの道具類出現と同じ、将人の異能(スキル)と考えた方が自然だろう。


「あの、それでこれ、何なのですか?」


 一方戸惑っているのは、ナイアだ。

 将人が異能と思った根拠のもう1つは、このナイアにインストールされた同じメッセンジャーだ。

 彼女はこの世界の淫魔であり、インナーフォンを導入していない。

 なのにメッセンジャーが登録されているという事は、やはり原因は将人の方にあると見るべきだった。


「ああ、離れてても連絡が取れるんだ」


「念話みたいなモノですか?」


「まあ……そうだな。ああ、そうか、確かにこりゃギャルゲーだ」


 全部が全部そうと言う訳じゃないが、女の子と仲良くなるのが目的のギャルゲーでは、電話やメッセンジャーと言った連絡手段が、大抵存在する。

 また、クラスの悪友から女の子の情報を得たりするのにも、これらの手段を使ったりする。

 ……といっても、これがここで役に立つのかどうかとなると、ちょっと分からないが。


「他の連中はどうなんだろうなあ……ナタリヤはまあ、分かるんだが」


 チビチビと麦酒を舐めながら、テリーが疑問を呟く。

 当然、それは将人も興味を持っていた。


「って言うと?」


「普通の人間は、手から気を出したり出来ねーだろ。ジャパニメーションじゃあるまいし」


「なるほど、格闘ゲームはそういう感じなんだ」


 格闘ゲームにも大きく2種類あり、いわゆる飛び道具や二段ジャンプと言った、二次元ベースだった古い時代の()()()()()()()()()荒唐無稽な超人格闘系と、リアルを突き詰めた現実の体術のシミュレーターともいうべき格闘系が、それである。

 ナタリヤのやっていたゲーム『Humanoid Disaster』は前者に当たり、日本でもヒットしている人気作だ。将人もプレイ経験があり、攻略用のwikiをローカルで保存してあるぐらいだ。

 そこではて、と将人は思う。

 テリーのやっていたベースボールゲームのタイトルは『Field Leaguer』といったか、どういうゲームか心当たりがない。

 日本で開発されたものではない、いわゆる洋ゲーという奴なのだろうか。


パトリシア(パティ)はペット育てるだけだからなー……あ、そうそう紹介出来なかったロゼって奴なんだけど、思い出したわ。コーチューキ乗り」


 赤龍と一緒に眠っていた赤毛の女の子のやっていたのは、確か『みんなで召喚獣!』だったか。

 これまた、将人もやった事がある。

 育成の他に、コレクションや他プレイヤーと戦う事も出来るゲームだ。

 パトリシアとの会話の取っ掛かりにはなりそうだなと思うが、それよりも聞き慣れない単語が気になった。


「コーチューキ?」


「そ。宇宙戦闘機」


 頭の中で、漢字変換を行なってみた。


「航宙機!? ジャンル・フライトシューティングかよ!?」


 フライトシューティングと言っても、世界大戦前の複葉機から、今テリーが言ったようなSFジャンルのモノまである。

 航宙機という事は、宇宙空間を舞台にしたドッグファイト戦のようなゲームだろうか。

 将人がやった事があるのは、現代の戦闘機を使用した『スカイ・ウルフズ』か、正に航宙機を使用した『Photon Duelist』ぐらいだが……。


「惑星に降りての白兵戦もあったらしいから、それで括るのもどうか……みたいな事言ってたけど、まあ大体合ってるんじゃねーの?」


「そりゃまた、心強い……っていうかテリー、俺達の立ち位置って、すごく微妙じゃないか?」


「まーな」


 今、何となく自分達がこの世界で戦うとしたら、という前提で思考を進めていたが、将人達はライトノベルにある異世界トリップ系の召喚勇者のように、戦えと強制された訳ではない。

 むしろ、戦いが終わるまで待っていてくれ、という感じだった。


「でも現実問題として、余所の国の戦争に首突っ込めるか? 戦争経験無いだろ、日本人」


「そういうお前さんも、実戦の経験があるようには見えないぜ、アメリカ人」


 テリーがククッと笑う。どうやら図星のようだ。


「つっても、何もしないよりは、やれる事はやった方がいいよな。皆が忙しい中で、自分達だけ手持ち無沙汰ってのは、なかなかに居心地が悪い。あ、これ俺の経験談な」


 将人の弁に、テリーも力強く同意を示す。


「いや、そりゃ分かる。最低でも、自分の身を守るぐらいは出来ねーとな」


「2人とも仲がいいです」


 ぷぅ、とナイアが頬を膨らませていた。


「妬くな妬くな。オレは将人をどうこうするつもりはないぜ? 競争相手じゃねーから安心しな」


 テリーはヒラヒラと手を振って、ナイアの嫉妬を一蹴した。


「競争相手って……」


 俺に男色のケはねーぞ、と内心将人はボヤいた。

 それとは別に、新たな疑問が頭に浮かぶ。


「他の連中も、俺達と似たようなモンなのか? つまり召喚されて撤退ってな流れの事なんだけど」


「ま、そうみたいだな。将人が最後だったけど、召喚されたのは同時だったらしい。基本的にみんな負け戦だったみたいだが、オレから言う事じゃねーだろ」


「そりゃもっともだ」


 ……ナタリヤの包帯グルグル巻きとか、あれが怪我だとするならば、相当な目に遭ったと見るべきだろう。

 何にしても、メッセンジャーの登録は埋めておいた方がいい。

 パトリシアや、テリーが言った会えなかったロゼだったか、彼女らと会うついでにも、直に話した方がいいだろう。


「明日から、他にどうするかな……文字が読めるなら、帰還の方法を探すんだけど」


「ハハハ、読めねーしな」


「ま、今日会えなかった奴とか寝てた子に、挨拶しに行くとするよ」


「おー、そうしろそうしろ」


 そうしてしばらく雑談に興じていると、やがてテリーがゆっくりと机に伏した。

 どうやら酔い潰れ、眠ってしまったようだ。


「ホント、酒弱いな」


「ですねえ」


 まあ、その場に吐いたり、暴れたりするよりはいいだろう。


「ところで、将人様」


「うん?」


 ナイアは目元の隠れた顔を、こちらに向けてきた。


「さきほど、召喚とか帰還とかいうお話が出てましたけれど……どういう事でしょうか?」


「……そういや言ってなかったか。信じてもらえるかどうか分からないけど、俺達はこの世界の人間じゃないんだよ。全然違う所から呼び出されたんだ」


「それは、いわゆる召喚術で呼び出された使い魔とか、そういう存在という事ですか?」


「ま、そうだな。本当は全然別の存在を呼ぶつもりだったらしいけど、手違いで俺達がこちらに引っ張られたんだと」


「そう、ですか……」


「自分の国に持って帰る情報?」


「ですからっ! そういう事はしません!」


 ナイアに怒られた。


「単に、私がどうするべきか迷っているだけです。帰還に力を貸すべきか、残ってもらうよう邪魔をするべきか」


「邪魔されると困るんだけど!?」


「将人様と離れ離れになると、私が寂しいじゃないですか!?」


 ドン、と木のテーブルに陶製ジョッキが叩き付けられる。


「……何気に酔ってるな、ナイア」


「酔った勢いで押し倒してもいいでしょうか? 個人的には押し倒される方希望で」


「ホント、天然で誘うよな、君は!?」


「淫魔ですから!」


「シー、声がデカイ!」


 将人は、ナイアの口を手で押さえた。

 幸い、酒場の喧噪で周りには気付かれなかったようだが、もしここでナイアの正体がバレたら命に関わる。

 すると、掌をねろりと粘体が滑った。


「うわ、舐めるな」


「今晩一番のご馳走でした!」


 目元を酔いに赤らめながらも、すごくいい笑顔で両手を合わせた。

 ご馳走様に手を合わせる作法とか、淫魔の間で伝わっているのだろうか。


「つか元の世界に戻る以前に、この国が無事ならの話だろ」


「……つまり、私的にはこの国が滅んでくれた方がいいという訳ですね……」


「ヤンデレストップ! 俺の好感度を上げたいなら、協力した方がいいぞ!」


「じゃあ、そのように」


「ま、その話題に関しては保留にしとこうぜ。ホント、昨日今日で決まるような話でもないだろうし」


「分かりました」


 ナイアも納得してくれたようだ。


「……でまあ、明日からだけど、城の強い人に護身術とか教えてもらいたいけど忙しいかなぁ」


 特にナイアに尋ねた訳ではなく、何となく呟いてみる。


「その時は、私がお手伝いします。魔術の手解きぐらいなら、出来ますから」


「そ、そうか」


「はい、手取り足取り腰取りです」


 ぺカッとナイアの瞳が輝いたように、将人には見えた。


「そういう言葉って、一体何翻訳してるんだろうな!? そもそもナイアは城に入れないだろうし!」


「……そこが、悩み所です。夜のお世話が出来ません」


「さすが淫魔、真っ先にそこが来るのか……」


「添い寝でもそれ以上でも、全然おっけーです!」


「待って、恋愛経験ゼロの童貞にそれ距離近すぎて、ホント逆に困るから」


「問題ありませんよ。私も処女(おとめ)ですから」


 大ありである。


「まあ、城から出て通いにするか……」


 魅了されてるのかどうかは将人自身には分からないが、ナイアと一緒にいるのは心地よく、もはや離れる気にはなれなかった。

 共に行動する事前提として、既に考えは進めていた。


「そういやナイアって動物に化けたりとか、出来ないのか? 吸血鬼とか淫魔とかって、何か蝙蝠やカラスに変化とかあるみたいなの、ゲームだかアニメだかの設定で覚えがあるんだけど」


「それです!」


 パンッとナイアは手を打った。




 酒場を出て、まだ活気のある大通りを将人は歩く。

 ただし、背中に大柄な金髪男を背負ってだ。


「重い……台車を借りればよかった……」


「お、お手伝いしましょうか?」


 将人の頭上、と言うか正に頭の上に乗った小ガラスが人語を話した。

 鳥に変化したナイアである。


「その姿じゃ、どう頑張っても無理だろ……! 気にせず、頭に乗っててくれ」


「は、はい……」


 足を踏ん張り、王城を目指す。

 見えてはいるのだから、決して遠くはない……ないはずだが、やはり脱力した人一人の身体はやはり重たかった。


「つーかコレは貸しだからな、テリー……!!」




 同時刻、夜魔の国イマ。

 この国は女王が治めており、その臣民の多くも女性であった。

 もちろん男性型のそれもいるが、数は少ない。

 必然的に、重要な地位には女性が就いていた。

 そして、その頂点に立つ女王の豪奢な寝室。

 床にまで垂れる長い紫色の髪に、成熟した色香を漂わせた肢体を薄い寝間着に包んでいるのが、今代の夜魔女王だ。

 二十代半ばほどの整った美貌を物憂げにし、手に持ったワイングラスをサイドテーブルに置く。

 そして、長い背もたれの椅子に、身体を預けた。


「ナイアはまだ見つからないの?」


「も、申し訳ございません……いまだ、手掛かりも掴めず……」


 侍従長が、汗を掻きながら頭を下げる。

 それに構わず、女王は溜め息をついた。


「あの子にも困ったモノね……王女としての自覚を持ってもらわないと……いや、でもあれは……」


 それからふと、部屋の隅にいるまだ少女と言ってもいいメイド淫魔に視線を向けた。


「貴方、まだ処女(おとめ)だったわね」


「え? は、はい、そう、ですけど……」


「ちょっと眠くなるまでの話相手になってもらえる? 状況を整理したいの」


 女王は微笑み、他のメイド達を下がらせた。


「こ、光栄です! よろしくお願いします」


「ふふ、そんなに固くならなくていいのよ。そうね……貴方が大人になるには、どうすればいいのか知ってる?」


「え……それは……男の精気を直に吸う……つ、つまり、交尾して処女を失い、子宮で精を受ける事……ですよね?」


 メイド淫魔がつっかえながらも、この国での常識を口にする。


「正解。そうする事で私達は大人になるの」


 女王は窓の外に浮かぶ、緑色の月を見上げた。


「ナイアは昼間、男の匂いに惹かれて軍から飛び立ったわ。それはいいの。何だか危なかったみたいだけど、死んだなら死んだで別に構いはしないわ。そういう事も、珍しくないもの」


 女王の跡継ぎである王女は現在、7人いる。

 ナイアはその末子であり、継承順位は低い。おまけに今は戦時中であり、戦いの中命を失う事もあるだろう。

 ――が、それでも己の娘である。可愛くない訳がない。


「でも、あの子は戻って来た。処女のまま。これについて、どう思う?」


 メイドの娘は少し考えて、


「相手の男がナイア様と逢う前に死んだ、とかでしょうか」


 女王から与えられた情報から、推測した。


「そうね……でも、あれは違うわ。あれは恋する乙女として戻って来てた。これは致命的におかしいのよね」


「…………」


 メイド娘は黙って、女王が頭の中の整理をするのを待った。

 やがて、切れ長の瞳が開き、メイドを見つめる。


「私達はね、初めての相手には本気で恋をするのよ。本能がね、そういう風に出来てるの。その男の全てを受け止めたいと、そういう欲望が限界まで高まって、そう、まさしく()()()()()()()()()。手加減抜きの淫魔の吸精よ? 結果的に男がどうなるかは……分かるわね?」


「殺してしまうのですか」


 メイドも淫魔の端くれだ。

 男というのが自分達の糧になるというのは理解していたので、吸精の末、命を落とす事には特に感慨が無かった。


「少し違うわね。結果的に死んじゃうの。初恋の相手の全部を自分の中に取り込むんだから、そりゃ男の方は死んじゃうわ。でも男の魂は、自分の中にちゃんと留まってる。これが淫魔にとっての成人の儀式よ。愛というモノを、本能が理解するの。貴方にもいずれ、そういう相手が現れると思うわ」


「は、はい」


 小さく微笑む女王に、メイド娘は照れ、俯いた。


「でも、戻って来たナイアはおかしかった。アレじゃまるで中途半端。男には逢えた。けれど逃がした。そうとしか考えられないけれど、そんなの淫魔として有り得ないわ。本能が男を求めるのが私達なのよ。そしてその誘惑と魅力に、男は決して抗えない。ならその時点で処女は散っているはず。そしてその時点で、ナイアは大人になれていたの。だから不自然」


 どう思う? と、女王がメイドに視線をやる。

 娘は少し考え、やがて顔を上げた。


「……た、例えば、ですけど、男の方がとてつもない高位の司祭だった、とかはどうでしょうか? ああいう人達は禁欲していると聞きますけど」


「それなら、無事で戻って来た事がおかしいでしょう?」


「あ……そ、そうですね」


「……まあ、最初から出てた結論だけど、つまりこういう事ね。出会い方とかそういうのは細かい話はともかく、ナイアは恋をした。男を欲した……と、途中までは上手くいってた。けれど、男の精を奪うには到らなかった。そして、ナイアはその相手を求めて、家を飛び出した」


 つまりそれは、ある意味でメイドの娘の指摘が近い事を示唆していた。

 相手の男に、抗う力があったのだ。

 その一方で、淫魔(ナイア)に危害を加える真似もしなかった。

 戦闘力は……ない?


「どんな奴なのよ、それ……」


 女王は小さく嘆息した。

 まあ、こういう事は巡り合わせだ。

 運がよければ、ナイアは捜索隊が見つけるだろうし、そうでなくてもどこかで再会出来るだろう。

 駄目だった時は……その時はその時だった。

 今時のギャルゲーって、悪友と連絡取るとかそういうのやんのかねw

 別にときメモから止まってるって訳じゃないけど、そういえば年単位でこのジャンルやってないなーとコレを書いてから、気付いた今日この頃です。

 あと少し前のエピソードで致命的なミスがあったので、修正しました。多分すぐに分かる場所。……他に同じような箇所、ないだろうな。(汗


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