第1話 生徒会では終わらない
本日の生徒会での議題は、『イジメ問題について』だ。
会長は知的にメガネをかけ直し、発言をする。
「当校ではイジメ問題を軽視している傾向がある為、検討し、減らしてゆく策がないか考案しようではないか」
今回は真面目に会議をするみたいだ。
なんだか拍子抜けだが、いつものようにボケられるよりはマシではある。
こうやっていつもきちんとしてくれれば
「だが私はイジメられたい!」
……してくれれば、よかったのに。なんて思わせぶりな……痛くて泣ける。
なんでこんなのが会長になったのだろうか。甚だ疑問だ。
「愛らしい少女に痛ぶられる快感は未だに未知だ。それを既知にする為、悠嘉君、私を痛ぶりたまへ」
「嫌ですよ」
即答してやった。
誰がしてやるもんか。
「てか意味わかりませんよ。なんでイジメ根絶が性癖露出になるのか、これこそイジメです」
「何か勘違いしてはいないか?私はイジメを根絶したいわけではない」「なら何を──」「愉悦を味わえる快感が欲しいのだ!」「イジメ以前の問題!?」
なんなんだ、この人は。
いい加減場を弁えて発言してほしい。
「てかなんですか、それ……」
私がげっそりとして訊くと、会長は嬉々として答えた。
「私はこう考えるのだ。学校側が思うイジメとは、表向き衛生上に悪い印象を持っている。対して生徒側は、表も裏も良い悪い関係なく、一種のコミュニケーションやフラストレーションの解消……つまりは心の問題なわけだ」
確かに先生とかテレビとかってイジメどうこうより、そのイジメにより周りがどうとか、悲劇を扱って面白くしているように思える。伝えたいことはわかるけど、イジメに対してあまり深く……というか、表面ばかり扱ってる気がする。
最近は色々と活動が増えてるけど、それでもまだイジメを軽視している傾向があるし。
本人が体験するのと見るのとは全然違うし。
「……だけど、やはりそれと会長の桃色思考とは関係ない気がするんですけど」
「ふっ」なんか鼻で笑われた。ムカつく。「言って置くけど、私はマゾヒストだ!」
いや、意味がわからない。
だからそれが何と繋がるのか……。
「俺もマゾだ!」
「何康也先輩まで一緒になって暴露宣言しちゃってるんですか!?」
この人達馬鹿か?馬鹿なのか?馬鹿なんだな。
「確かに女性に対して尻敷かれて悦んでいるのは先輩達くらいですよね。さすがです」
ここぞとばかりに口出しする辰哉くん。
手持ちのパソコンから目を背けずに、毒舌で悪態をつく。
「だよな!さすが俺っ」なんでそのままに受け止めるのか。
「ふふん。褒めても何もでないからな」あんたもか……逆に尊敬します。
てか、なんか話が脱線している気がする。
「それで、会長は結局何が言いたいのですか?」
「ふむ。そうだったな」忘れてたのか。「イジメとはその心によるものが大きいわけだ」
「それはそうですけど」
「なら、もし私みたいなマゾっ気がある者に対してサディストが鞭を振るうのはいけないことなのか?」
「いいんじゃね?」これは辰哉先輩。「当事者が認めてれば何の問題もないじゃん。むしろ楽しそうだなっ」
目の前に新しい玩具を見せられた子供のように瞳を輝かせてニヤける先輩。
「康也の言う通りだ。むしろ片方が嫌がるのに無理に快楽や暴力を行使しようとするからマイナスの印象を与えるイジメとなるんだ。それを無駄に表ばかりに気を配っているから何も解決しない」
そう。イジメだからとそれを固持し単純にいけないものと取り扱うから余計に酷くなる一方なのだ。
そこからどうするかが大事なのに。
「だから私は、このイジメ問題対する結論として」
目を閉じ、一拍置いてから開き、
「生徒マゾヒスト化計画を実施することに」「お断りに決まってるわボケナスぅっ!」「する──んぶふっ!!」
会長の腹にローキックをお見舞いしてやった。
「……今日もマトモな会議になりませんでしたね」
やっと喋ったかと思えば、恐る恐るって感じの久くん。
もっと話に突っ込んでくれていいのに。主に私が助かるから。
「この会長だから仕方ないわ」
「なんか痙攣し始めたぞ、薙貴の奴。いいのか?」
「いいんです」
「そのまま発作とか起きて亡くなればいい」
「それは言い過ぎ」「……」
結局グダグダな展開になって終わった。
これが私が属する生徒会なんだと思うと、胃がキリキリと悲鳴を上げる。
明日もこんな風な感じなのかな……鬱だ。