プロローグでは終わらない
弟が病気で、より良い治療を受ける為そのに移住することとなり、転校をせざる負えない事情になって早2ヶ月。
私、時定悠嘉は生徒会の雑用兼突っ込み係となっていた。
これだけ聞くと意味わからないが、これも現・生徒会会長のせいである。
「ふっふっふ。悠嘉君、生徒会には慣れたかな?私としては、早く慣れて貰いたいのだが。私の健やかなる希望の為に」
「……慣れた、と言いたいところですが」
「ふむ」
「気安くお尻に手を伸ばさないでくださいよっ。セクハラですよ!?」
「そこに手にフィットしそうな丁度良い臀部があったのでつい、な」
「つい、じゃないですよ!てかいつまで触れてんですかっ。訴えますよ!?」
「ふふ。やはり元気の良い少女は心に響く。これぞ〝華〟だな」
このセクハラメガネの高身長の男が生徒会長、穂野村薙貴先輩。背は178でほっそりとした体つきに知的な眼差し、だが脳内はお花畑。それも真っピンクのめでたさ。のんでこの人が生徒会長なのか不思議なくらいだ。
「かいちょーの脳内の方が〝華〟ですよね。もちろん悪い意味で。その頭ん中どうなってんすかね。見たくないですけど」
穂野村会長の発言に嫌味を言うのは、生徒会書記の駛光辰哉くん。その生気が抜けたような瞳に、そのやる気が伝わらない物言いが特徴と言えば特徴。私と同じ2年生で、クラスは違うけど、話せる友人だ。好きなのか、いつも持参しているノートパソコンをいじってるけど。
「酷いな辰哉君。私は美の探求者だ。それを否定するとは……些か不本意だな」
「否定はしてません。否定するとしたら、それはかいちょーの存在を否定したいです」
軽く罵ってるけど、これがデフォなのだ。
女の子みたいなベビーフェイスしてるクセに、なんか残念だ。会長に注意(?)してくれるのは嬉しいけど。
「そうだぜ、薙貴の言う通りだ。これは美の探求だ。女の子に美を求めるのは当たり前だ。それを否定してしまったら、男としての機能を失ったのも当然なんだぜ」
横から穂野村会長に賛同するのは、生徒会副会長の獅子崎康也先輩。茶髪の入った黒髪に左耳にピアス、胸元をだらしなく開けたいかにもって感じのチャラい人だ。女の子第一で何事も女が絡むと率先して動き出す行動力を持っているが、それをもっと別の所で役に立ててほしい。生徒会とか。
「僕はそう言うことを言っているのではありません。それなら、美の探求の為なのなら相手の同意もなしに身体を触ってもいいのですか?そこに道徳的な人間性はあるのですか?同意のない行為はただの犯罪です。控えてください」
そうだ、そうだっ。もっと言ってやれ!
「なら美の探求に女性の裸体をモデルにデッサンを行う絵師はどうなる。それも犯罪か?違うだろ」
「それは別ですし、そもそも論点がずれてます。僕は当事者同士の同意があって成立する交渉すらなしに行動する、その考えをですね──」
長くなりそうな予感がしてきた……。
そもそも、なんでセクハラに対しての抗議から美の探求についての論争になってるの。
……疲れるわ。
「……」
さっきから会話に加わらないもう一人の存在に目を向ける。
黙々と下を向いてサウナの暑さに耐えるようにジッとしている。
この生徒会に置いて唯一の1年生で会計を担当している、曽我部久くんだ。人見知りで押しの弱い草食系男子な年上にモテそうな子だ。
「えっと……」
「…………う」
「え?」
意味もなしに声を掛けてみると、何か呟いた。
「生徒会の仕事をしましょうよっ!」
突然の怒鳴り声に一同固まり、時が止まったかのように室内は静まった。
「──はっ。え、えーと……なんかすみませんでしたっ!」
一同、それもそうだなと、キョドっている曽我部くんを見て反省した瞬間だった。
これが、私の転校先の生徒会での日常の一端である。