二人ぼっち。
無我夢中に地面を蹴った。
静まり返った銀世界には荒い息使いと足音だけが響いている。
-なんでこうなっちゃったんだろう-
こんな遅くに家を出るのは初めてだった。
気がつくと自然に「うーちゃんの家」へと向かっている。
「うーちゃん」とは学校の帰り道に公園で見つけた小さな子犬。目立った外傷はないが、捨犬のようだった。
一目惚れでお母さんに説得するがみごとに大失敗。
しょうがないので今では公園でうーちゃんを飼っている。
…しまった今日は餌を持ってきて無い。
手にじんわりとした冷たい感触。
見上げるとやんでいたはずの雪がまた降り始めた。
わたしの体にポトリと落ちては同化していく。
「寒いなぁ…」
昼間は暇そうに立っている電灯も、今はしっかりとうーちゃんの家に続くルートを照らしてくれる。走るペースを早めた。
ざく…。
公園に着いた。
暗くて危うく滑りそうになり、近くにあった網張りの柵につかまる。
夜の公園って意外と怖い。
少し雪の被った遊具は不気味過ぎるほどだ。うーちゃんは今日も無事だろうか。
冷たい空気を一気に吸う。
「う~ちゃぁぁん!!!」
もわっとわたしの口から空気が上へとあがっていった。
「ワン!!」
奥の茂みから影がサッと飛び出した。
うーちゃんだ。
わたしが小さなベンチに腰をかけると、すかさずぴょんっと膝に飛び乗る。
きらきらとうーちゃんは雪で輝いているように見えた。
挨拶変わりのようにうーちゃんは容赦なくわたしの顔をペロンと舐めかかる。
はたしてうーちゃんは雄なのか雌なのか…試す勇気はさらさらない。
「うーちゃん。こんばんわ。」
落ち着いた頃。
わたしはポツリと呟いた。
うーちゃんはじっとわたしの顔を見つめている。
ぶるっと小刻みに震えたのが分かった。
パーカーのチャックをかじかんだ手でゆっくりと開けるとうーちゃんを中で包み込む。
寂しくないね。うーちゃん。
少し窮屈そうにする姿は微笑ましかった。やっぱり温かい。
このまま時が止まればいいのに。
ゆっくりと瞼が落ちていく。
ぎゅ…ぎゅるるるるるる
壮絶に腹が悲鳴をあげる。
手ぶらで家を飛び出したため、何も持っていない。ポケットに運よくお金なんてあるはずがない…。
今日は土曜日。明日は?明後日は…?
急に現実を突きつけられると、自分がとてつもなくちっぽけな事を思い知る。
渦を巻くように鳴る耳鳴り。
その時、ふと脳裏にお母さんが浮かび出た。
「…あれ?いなかったんだ?」
歯に力を入れると、喉の奥がきゅぅっとなって鼻がひどくツーンとした。
ファスナーを上まで強引にあげると、うーちゃんに見られないよう涙をぬぐった。
~続く~