プロローグ
「もう…出てってやる!!!」
時計の針が10時を指した頃、美咲は誰もいない部屋でそう叫んだ。やはり何も応答はない。
ピーッとレンジの音が部屋に響いた。しだいに気の抜けた蒸気が上へと上がっていく。
少し慌てた素振りをしてレンジを開けるとむわっとした空気が顔にまとわりついた。中にはドヤ顔をかました黒こげのハンバーグ。思わずため息が漏れた。
ふと時計を見る。
驚くほど、時計の針はまだ10時1分をもったいぶるようにのっそりと指している。
美咲は横目で秒針を睨みつけると、乱暴にハンバーグをテーブルの上に置いた。
よたよたと椅子に腰をかけると、ある異変に気づいた。
「…あれ…?」
綺麗なくすみない桃色のカードに「美咲へ」と細い字でかかれている。間違いなく自分宛てだ。何故気づかなかったのだろう。
嫌な予感がして、少し苦笑する。
そっと手に取ると二つ折りのカードを思いっきり開けた。
「美咲。12歳のお誕生日おめでとう。約束してたのに一緒にケーキ食べれなくってごめんね。今日も帰りが遅くなります。」
まだ続きがあったが、読む気になれない。
ぐしゃぐしゃに片手で握り潰すと、うやむやに投げつけた。
パタンッとゆっくり、まるでスローモーションのように写真立てが倒れていく。
写真の入ってない写真立て。
きっとこれからも写真が入れられる事はないだろう。
「お母さんの馬鹿!!」
12歳になったばかりの少女は乱暴にドアを足で蹴り開けると、暗い闇に背中を消した。
~続く~
初投稿です。
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