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第六話 如月、冬の終わり

 二月になり、地上ではもう少しで春の足音が聞こえてきそうな頃。

「やっと終わりましたね、理渡様」

「ええ。今年は大変だったでしょう」

「いえいえ、あのくらいへっちゃらです」

「あら、頼もしい子」


 理渡と涼華が今年の仕事を終えて、冬の館の縁側で話している。すると、珍しくある人物が帰ってきた。腰まである長い黒髪を頭の高いところで束ねているこの女性は…

「ただいま」

「あ、お帰りなさい氷張様」

「お帰りなさいませ氷張様」

 この冬の館の主、冬宮(ふゆみや) 氷張(ひばり)である。


「ふふっ、やっぱりね。二人でこうしてるんじゃないかと思って帰ってきたの」

「「?」」

 訳が分からないといった様子で二人は氷張の顔を見上げる。すると

「じゃあ、今年の総仕上げ!私が二人の腕前を見てあげるわ!」

「はい?」

 何か始まった。



 で、話を聞いてみると、要は氷張と二対一で仕合らしい。ただし、理渡は援護に専念の上、使える技も一種類に限定されてしまった。理由は言わずもがな、そのままだと強すぎるからである。

「じゃあ行くわよ!」

「あの、理渡様、いいんでしょうか」

「氷張様はああ見えて異常だから、本気出さないとひどい目に遭うわよ、たぶん」

「分かりました」

 理渡の発言で吹っ切れたように涼華が臨戦態勢に入る。


 秋にはここで春の仕合があったが、今度はここで冬の仕合が始まった。

「はあっ!」

 まずは涼華。両手に、付剣をした拳銃を青白い光で作り出しながら猛スピードで氷張に向けて疾駆する。

「やっ!」

 そしてやや詰まった距離から両手の拳銃を交互に連射するも、光弾はすべて避けられるか受け流されている。そこからさらに近づこうと踏み込んだその時


「涼華、距離っていうのは相対的なものでね。制距、」

「涼華下がって!」

 しかし理渡はその声が遅いのが分かっていた。だから同時にまさしく援護砲撃を撃ち込む。

「六式鳳凰砲!」

 理渡の左右三対に展開された円陣から計六本の光が伸びて、そのうち四本は氷張に、二本は他と違う気を混ぜて涼華に向かう。


「無間」

 涼華は理渡の声と同時に、氷張がそうつぶやくのを聞いた。その瞬間、具体的には分からない違和感が背筋を走った。

 試しに一発銃撃してみると、その正体がわかった。

『届かない?!』

 氷張は術によって、涼華から自分への距離を無限に引き延ばしたのだ。こうすると、あらゆる攻撃は届かないことになり、相手は一切戦闘できなくなる。

 涼華がそれに気付いた次の瞬間、違和感が崩壊すると同時に足元が吹き飛んだ。

「!?」

 原因は理渡の特殊砲撃である。


 空中で体勢を立て直して降りてきた涼華と、砲撃を避けていて攻撃できない氷張を確認した理渡は、

「仕方ないわ、涼華は下がって狙撃、私が前で防ぐ!」

 と伝え、前方に踏み込んだ。

「了解です!」

 着地した涼華は下がり、どこで知ったのか長大な大口径狙撃銃、いわゆる対物ライフルを構える。普通なら対人用を使うところだが、遠慮は邪魔と判断した。


「あら、あなたは援護のはずだけど?」

「安心して狙撃できるように敵を近づけない、それも立派な援護ですよ?」

 まずは舌戦から入る二人。しかし、その間にある殺気は急速に膨れ上がっている。

「そう。じゃあ迂闊に下がれないわね。でも、“下がらされたら”どうするつもり?制距、無間」

 理渡は敢えて避けずに受けた。技が技だけに、たぶん効果範囲は限定的だったはずだ。

「さて、どうしましょうねぇ」

 声も無限の距離を超えることはできない。そのため、氷張は理渡の挑発的な発言には気付かなかった。


 その頃、涼華はちょうど発射準備を整えた。

「照準頭部、…発射」

 弾丸は過たず頭部に命中、することはなく、当然のように避けられる。

「フフッ、まずはそっちからね」

 理渡が術を掛けられたのは何となく気付いていたので、涼華の背筋に寒気が走る。

 それでも次弾を高速で装填し、迫ってくる氷張に一発撃ち込む。が、今度は流された。

「これで、終わりよ!」

 その言葉は、やられる側の涼華の心情も代弁していた。


「…弐式参装鳳凰砲、無限ッ!」

 その時、届くはずのない声が届き、届くはずのない二本の圧倒的な破壊力を孕んだ光条が氷張を飲み込んだ。

 そして、光条が消えた後には、満身創痍の氷張が倒れ、涼華の横には、何事も無かったかのように理渡が現れた。

「何したんですか?」

「単純な話。無限と無限は同一なのだから、無限の距離があるのなら無限の砲撃を撃ち込めば済む、ということよ。氷張様に使うのは初めてだから、読めなかったんでしょう」

 まあ、術を解いて出てくるのも難しくはないけどね。と続けた理渡の横顔を見ながら、つくづくすごい上司を持ったものだと涼華は思った。



「あれで終わりだったのは、どうやら私のほうだったようね」

「あれはある意味隠し技でしたし、仕方ないんじゃないですか?」

「鳳凰砲を指定した私が間違っていた、か」

 数分後、理渡と氷張が縁側で談笑している。あの場面で本気だったのは結局涼華だけだったのであった。ちなみに涼華は嫌な汗をかいたとかで湯浴み中。

 ところで、今回出てきた鳳凰砲。左右何対かの砲撃円陣を展開して撃つ。それだけなのだが、例えば弐式参装の場合、円陣は三つを重ねたものが左右一対合計二門展開される。

 式数が増えるほど面制圧力が上がり、装数が増えるほど一点突破力が上がるという仕様だ。

 しかし、理渡は援護だけという話はどこに行ったのだろう。


「冬も終わりですね」

「暇になるわね。誰か事件でも起こさないかしら?」

「そういえば私さっきから嫌な予感が」

「…あたるのよねぇ。あなたの予感」

 後に案の定的中したこの予感であるが、何が起こるのかこの時の二人は知らない。


理渡「ついに私と恵水が…(意味深)」

涼華「え?突然どうしたんですか?何があるんですか?!」

理「それは読んでみてのお楽しみ♪」

涼「ですよねー」

理「次回『困憊の夢と鬱屈の理』」

涼「真面目に予告?!」

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