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第三話 歯車は廻り、降り積む深雪

恵水「暇ね…」


留梨「すぐに忙しくなりますから今のうちに休んでいてください」

 地上が冬本番の気象となり始めた頃。

「今年は多めって言われたけど、まさかここまで多いとはね」

 理渡がこう言っているのは、先ほど上司の冬宮(ふゆみや) 氷張(ひばり)から渡された今年の雪の降らせ具合の予定書きであった。

 仕方がないので、今年はある人物に手伝ってもらうことにした。


涼華(りょうか)、ちょっと来てもらえる?」

「あ、はい。今行きます」

 そう言って走ってきた短い黒髪の女性は、理渡の部下である山染女(やまぞめ) 涼華(りょうか)。純真無垢で、なかなか天界にはいない性格である。

 上司に似てか他人よりも気力が多めにあるので、地上の天候への干渉に関しても、理渡の手伝いをすることが最近増えつつある。

 主に寒風を担当し、最近では術の使い方も板についてきた。


「結構大きめのお願いがあるんだけど、いいかしら?」

「私にできる範囲なら何でも言ってください!」

 いつもと同じ快活な返事。理渡は個人的に好感を持っている。

 他人に言わせれば、もっとお淑やかにと思うのかもしれないが、その素直な笑顔を見ると、たまにはこんな元気な娘がいてもいいだろうと思うのである。


「じゃあまず、これを見て頂戴」

「何ですか?」

 そう言いながら涼華は受け取った紙に目を通す。


 そして一通り読み終わると、とても驚いた様子で、

「こ、これって今年の降雪予定表じゃないですか!」

「そう。それで、今年はいつになく量が多いのよ、って言ってもピンと来ないかもしれないけど、とにかく多いの。それで、あなたにも手伝ってもらえないかしら?」

「あわわ…降雪事象のお手伝い…」

 聞いた涼華は驚きのあまり口をパクつかせている。


 そろそろ涼華が天界に来てから七十年も近い今日この頃である。

 そろそろとは思っていたのだろうが、一方で一世紀が経つまでは特に無いだろうとも思っていた涼華にとっては、突然のことで思考が追いつかないという状況だった。


「今年はそんなに難しいことは頼まないわよ。陣の展開も維持も私がやるから、あなたは必要なときに気力を分けてくれればいいわ」

「は、はい」

 やはり涼華は不安を隠せない様子だが、そこは納得してもらうしかない。幸いまだ二、三週間はあるので、詳しい話は追い追いでいいだろう。


 ◇


 そして、涼華を説得しながら二週間が経過。明日からは実際に事象の創造に入る。

「もう、涼華ったら。硬いわよ、もっとゆっくりして」

「でも、やっぱり緊張します」

「大丈夫よ。むしろ過度の緊張は失敗の元、何事にも余裕が大事だわ」

 未だに緊張が抜けない涼華に対して、理渡はこう言いながらもまあ仕方ないだろうとも思っている。

 それに、涼華のこの性格である。一度経験してしまえばまあ何とかなるだろう。


『この子はやればできる子だもの』

 そう心中でつぶやいた理渡もまた、恵水と同様部下のことが大いに気に入っているのであった。

「それに、多少量を間違えても私がちゃんと調整するから心配しなくていいわよ」

「いえ!理渡様にご迷惑はかけられません!私がんばります!」

 そしてもちろん発破をかけるのも忘れない理渡であった。


 次の日。ここは冬の館の事象室である。事象室というのは、天界の館に1つずつ備えられていて、ほどほどに広いが何もない石造りの部屋である。

 他の部屋と最も異なる点は、地上との結びつきが強められていることで、ここで特定の術式を起動すると、地上の様々な事象を創造したり事象に干渉することが可能である。


「さて、始めましょうか」

「はい!」

 理渡は返事を確認すると、殺風景な部屋の中心に立った。

 涼華は入口付近で待機している。


「…………」

 理渡がなにやら呟いたが、それは涼華には届かなかった。すると、理渡から見えない力が流れ出し、足元に一つの青白い光の円陣が組みあがる。

「えっと、まず1つ目の陣ができたらだから、転送」

 そう言うと同時に涼華から理渡に向けて気力が流れていく。そして、理渡に届くと、一旦理渡の中に入り、理渡の気と混ぜ合わせられてまた放出されていく。

 目には見えないが確かに感じられる流れであった。


「……」

 今度は理渡は何も言わなかったが、突然円陣の数が床を多い尽くすほどに増える。それも全て同じものではなく、大きなものや小さなもの、構成も様々に異なった円陣だ。

 そしてそれらが歯車が回るように連動して回り始める。

「まずはここまで、と」

 涼華は少しずつ転送する力を弱めて、消す。


 彼女が言いつけられているのは、これ以降、一日一回の気力供給であるから、一回目が無事に終わったためとりあえず安心し、とりあえず今回は大丈夫だろうと密かに自信を持てた。

 まあそれもこれも理渡の予想通りではあるのだが。

「よし、明日も頑張ろう!」

 青白い光の歯車は、例年より三割増しの速度で回り続けている。


 ◇


 一週間後。

「ふぅ。やっぱり手伝ってもらうと楽ね。重ね重ねありがとう、涼華」

「はい!私、まだまだがんばります!」

「ふふっ。頼もしいわね」

 ちなみに今理渡は、一週間続けて気力で雪を降らせてきたところ。

 もちろん涼華は手伝いの傍ら家事もこなしていた。


「しかし今の人たちは相変わらず忙しいわね。冬くらいゆっくりできないのかしら」

「私の頃もここまでにぎやかではなかったですね」

 天界は地上の管理を行っているので、地上で何が起こっているかはかなり具体的に知ることができる。

 今はスキーやらスノーボードといった名前の板に乗って、雪の積もった斜面をすべり下りる遊びが広く行われているようだ。


「まあ、いいわ。それより今は、」

「ゆっくり休みましょう」

「そうね」

 天界にも夜はやってくる。二人はそれぞれの部屋に手早く寝具をそろえ、一週間ぶりの眠りについた。当然のことながら、二人ともすぐに深い眠りに入っていた。


 その年は雪の結晶が例年の三倍ほどの大きさだったという。


 まえがきはこのころの恵水たちです(笑)


 いきなり戦ったりしてましたが、実はこっちが本業です。

 恵水たちにもちゃんと仕事はあります。これから出てくる予定です。

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