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第二話 山梅と山桜、絢爛なる仕合

第二話にして突然の戦闘って…よかったんでしょうか?

「では、試合……開始!」

 理渡の宣言と同時に試合が始まった。互いに相手の出方を見る。

 恵水の武器は先程の薙刀、留梨の武器は気力で形作った太刀で、春に芽吹く新芽のような薄い黄緑色の光を放っている。


『隙がない、ならまずは……』

 打ち込む隙がないと判断した留梨は、すぐさま気力を繰り、自身の体に纏わせた。これにより、身体能力は極限まで高まる。

『纏いが速い……やっぱり相当鍛錬したわね』

 対する恵水も、相手の隙が見えないからといって焦ることはしない。両方とも止まったまま、数秒が過ぎた。


「こちらから行きます!」

 しびれを切らしたのか、先に動いたのはやはり留梨であった。刃と刃がぶつかり、激しい金属音が放たれる。

「はっ!やあっ!」

 止まれば確実に隙を突かれる。留梨は動きを止めず、速い拍子を刻むように攻撃を加えていく。

「……」

 対する恵水は、落ち着いて攻撃を受け流し、武器の負担を出来るだけ軽減しながら反撃の機会を窺う。

 傍から見れば留梨が押しているように見えるが、落ち着き払った恵水の表情は集中していながらも余裕が感じられた。


 若草色の剣閃が幾筋も奔り、その全てがかわされるか受け流される。二人の技量差が見え始めたそのとき、恵水が動いた。

「……見えた!」

 先程よりさらに甲高い音が響き渡った。先程まで受け流していた刃を、恵水の刃が正面から捉えたのだ。

 連撃を続けるあまり動きが単調になり始めたところを突いた剣圧の上昇に、留梨に一瞬の隙ができる。

 そのまま石突で腹部に打突を加えようとした恵水だったが、

「っ!」

 その一撃が留梨を捉える前に恵水が離脱する。留梨はとっさの判断で、腹部に障壁を展開していた。そして恵水の居た場所には若草色の光が奔る。


「いい勘してるわね。今度はこっちの番よ!」

 恵水が強力な踏み込みで留梨との距離を一気に詰める。

 恵水は留梨のように連撃することはなく、一撃離脱で相手の隙を逃さないようにじっくりと攻めていった。

 じりじりと周りを移動し、そこから唐突に繰り出される神速の一撃は、少しずつ留梨の集中力を疲弊させていく。

 しかも恵水の動きは鋭い上に予備動作がほとんどなく、また不定期に来るため、留梨はその状態での集中の継続を強いられることになる。


 何度かそれを繰り返し、再び同じような一撃が打ち込まれる。

「なんの!」

 尋常ならざる速度の穂先を何とか防ぐ。しかし今度はその後が違った。


 そろそろ頃合と判断した恵水は、上段にあったその薙刀を渾身の力で振り下ろしたのだ。

「くっ!」

 恵水はその勢いで跳躍、ひねりを加えながら回転し、留梨の真後ろに着地した。もちろん、留梨の背はがら空きである。

「もらったっ!」

 恵水の刃が留梨を捉えたように見えたその瞬間、留梨は全力で横に跳躍した。着地した留梨は、服に切れ目が入っていたが、敗北判定を受けるほど斬られてはいなかった。

 ちなみに、天界の武器には特殊な術がかけられていて、天人を斬ることは不可能(刃が素通りする)だが、体の中を武器が通過する感覚はかなり気持ち悪いらしい。


「……仕方ないわね」

 恵水が、薙刀を一瞥した後、声を低めて言った。気力を使っていないはずなのに、辺りは強烈な威圧感に満ちていた。

「奥義……」

 薙刀の柄の本の部分を両手で持ち、最上段に構える。恵水が生前修めた武術の奥義の一つらしいが、詳しいことは恵水しか知らない。

短刃(たんじん)(はやぶさ)!」

 目で追えないとすら思える踏み込みから、最高速の一撃を打ち込む。その速さは、文字通り獲物を捕らえる隼のようであった。


 その瞬間、キィンと響き渡った金属音は異様に澄んで聞こえた。恵水の放った一撃は、ギリギリのところで防がれている。

 しかしなおも加わる強烈な剣圧に、耐える留梨の足は固められた雪に若干めり込んでいた。

「……」

 数秒の拮抗。恵水はここで、突然力を抜いて離脱し、武器をそっと置いて両手を挙げた。いわゆる降参の姿勢である。


「え?」

「な?」

 留梨と理渡が同様の反応を示す。一拍置いて理渡が正気を取り戻して言った。

「ちょっと!この大事な試合で降参はないでしょう?!あなたまだ無傷じゃない!」

 留梨は何も言わなかったが、どうやら理渡と同意見らしい。しかし恵水は呆れたように、

「あなたたち、私を誰だと思ってるの?」

 と言って、足元の薙刀を拾い上げ、それを一瞬悲しそうに見つめてから右手で持って水平に空を薙いだ。


 すると、その後に起こったことを見て二人とも唖然とした。

「「!」」

 恵水が真横で腕を止めると、一拍置いて薙刀の柄が粉砕し、刃だけが地面に落ちたのだ。

 つまり、恵水が降参したのは、武器が限界だったからで、先程の発言は、二人ともそれを見切れなかったことと、理渡が大丈夫と言った武器が粉砕したことに対する抗議であった、と。

「なるほどね。うかつだったわ。まあ、理由が何であれ、恵水が降参したんだし、勝ちは留梨ってことになるわね」

 理渡は肩をすくめて、拍子抜けした様子を隠しもせずに言った。


 あっけない幕引きであった。


 書き始めるとやっぱり難しいですね、連載。


 この時点で早くも心が折れそうな作者こと穂桐ですが、まあこれからもゆるゆる頑張っていきます

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