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第二十三話 山に穿たれた地に

お久しぶりです、穂桐です。


無事大学生になりました。

 恵水と雨久対美那の戦いが始まった。まず美那が出したのは二本の気力刀、対する恵水はいつもの薙刀。雨久が後ろで術式を構えながら隙を伺う中、目にもとまらぬ高速戦闘が繰り広げられていた。


「ッ……!」

「中々やるじゃないか! でも、まだまだ遅いさね、様子見してる場合じゃないよ!」

「!!」

 相手の動きを見切ろうと後手に回っていた恵水に苛立ったのか、美那の攻撃が一気に激しさを増した。二刀流での暴風雨のような高速攻撃の前にはさすがの恵水でも正面では受け切るのが精一杯だ。

『こりゃあ間に入るどころじゃないな。 一度攻め込まれると攻撃は厳しそうだし、ここは仕切り治すか?』

 恵水がわざと攻撃を受け止めているので今の所安全な雨久は、準備していた術式を破棄し、新たに握り拳の周りに術式の帯を展開、前に恵水と理渡を止めたときと同じように地面を思い切り殴りつけた。

「要拳、“震域”!」

 足元の揺れ。原因がわかっている恵水は小さく後ろに飛びずさり、対して美那の跳躍は大きかった。

『取ったっ……!』

 着地を狙って強撃。それで終わるはずだった。

「そんな甘い狙いで取れると思うのかい?!」

「!……なっ?!」

「何だありゃ?!」

 美那は降りては来なかった。それどころか、浮遊する美那の周りを取り囲むように幾本もの剣が現れ、それらすべてはその刃を外に向け、美那の周りを回転し始めたのだ。

「私の二つ名、さっき聞いたろ? 麓からその高嶺に至るまで、私の登った道全てが(つるぎ)なのさ!」

 その瞬間、数を増やし続けていた剣たちが一斉に動きを止め、向きを恵水の方向に定めた。空を覆う剣の数々が一方向を向く様は、まさに剣山。

「この数、受け切れると思わない方がいい! 獄象(ごくしょう)逆針山(さかさしんざん)”!」

 宙に浮かぶ剣が恵水に殺到する。その時

「雨久は下がって最大威力で砲撃準備! ここは何とかする!」

「!」

 反論せずに雨久は飛び退きざまに左右一対の術式陣を展開、砲撃準備に入る。

「何する気だい?!」

「受けられないなら当たらなければいいわ、象舞(しょうぶ)桜舞(さくらまい)”」

 恵水が言い終わったその瞬間、大量の剣が一気に恵水のいた地点に炸裂した。地面が大きく抉れ、派手な土煙が上がる。

「…………」

 もうもうと上がる土煙が薄まり始めた時、美那がそこに見たのは、

「な……」

「当たらなければ、って言いましたよ? 私は」

「嘘――」

 美那の返事を聞く前に、二条の光線が美那を飲み込んだ。雨久が準備していた砲撃だ。

「あら、無粋な攻撃だったけど、いい狙いね」

「あーもう、冷や冷やさせやがって」

 雨久が恵水に近づきながらそんなことを言う。そこに、服のあちこちをほつれさせた美那が空中から降りてきた。

「あーあ、あたしの負けさね。 よし、門番の奴には口きいとくよ。 それはそうと、どうやってあれ避けたんだい?」

「術式と回避術の重ね掛けです。 最初に術式で当たりを小さくしてから回避術で避けるんです。まあ、小さくなって躱すって思ってもらえば」

「そうかい。 今は疲れたから詳しいことは後で芽吹にも聞いておくかね」

「そうしていただけると助かりますが、使い方は教えてもらえませんよ」

「ん? 何でだい?」

「これは今のところ私と芽吹様しか使えない秘術ですからね」

「口だけは堅いからねえ、アイツは」

 そこに理渡と枝子が戻ってきた。枝子は少々興奮気味のようだ。

「ねえねえ恵水! あんたあれどうやって避けたの?!」

「秘密よ、大体あんたじゃ分かってもできないわ」

「けちー」

「私も興味があるけど、秘密なら仕方ないわね。 あの密度の攻撃から無傷で出てくる方法があるなんて、まさか規定違反じゃないでしょうね」

「そんなことしないわよ。 面で潰せばさすがに当たるわ」

 規定。天界で決闘を公平にするために設定されている規定で、基本的には“いかなる攻撃も当たらない状態になること”を禁止しており、この状態を実現する術式が完成された際に制定されたものだ。

 今恵水が使った術式は、美那の放ったような大量の点攻撃は避けることができるが、隙間のない面での攻撃を避けることはできないためこの規定には抵触しない。というのが恵水の言い分だが、結構ぎりぎりと言っていいだろう。実際使いどころを間違えなければおおよそどんな攻撃でも避けようと思えば避けることができるのだから。

「ま、いいさ。 そんなことは置いといて、口利きの連絡はしておくからあんたらは明日発ちな。 今夜はうちの所に泊まっていくといいよ。 轄門室は広いけどいつもあたしと枝子しかいないからね。 山雪姫、あんたはどうする?」

「そうですねえ、私は仕事はないですが、帰って恵水の分も部下の世話をしなきゃいけないので帰ります。 まあ私が帰らなくても大丈夫な子達なんですけどね、老婆心でしょうか」

「はっ、小娘の世話なんか好き好んでやる辺りは氷張とそっくりさね。 でもねえ、あんたが思うほど上がって短い奴らは強くないよ。 何もないように見といてやりな」

「わかりました」

「さ、取り敢えず部屋に戻るよ。 そら!」

 美那が術式を発動させた次の瞬間、一同は元の場所、轄門室に戻ってきていた。

「じゃあ私はこれで」

「道は大丈夫かい?」

「ええ、そこのとは違いますから」

「間違いないさね」「確かにな」「その通りね」「ちょ、ちょっと!」

 そうして理渡は帰り、残った四人も泊りの準備を始め、そのまま時間が過ぎていった。


 ◇


 その夜、食事を終えて部屋に集まった面々は、これから向かう先――すなわち地上――について話していた。と言っても、雨久はすでに恵水と美那によって酔い潰されており、枝子はそっちの様子を確認していたため話していたのは恵水と美那の二人だけだ。

「地上ってどんなところでしたっけ? しばらく行ってないので忘れちゃいました」

「あんたら暇な時に下見たりしないのかい? 昔の血生臭い騒ぎばっかりのとはちがうけど、今も昔も奴らはせっかちで毎日お祭り騒ぎさ」

「そういうことは分かるんですけど……、何というかこう、もっと具体的な情報ってありますか?」

「それがねえ、昔に比べて世界が変わるのが早くなったから、いくらあたしらでも正確なところは分からんのさ」

「じゃあどこに聞けばいいんですか?」

「私が口利きした先の奴がくわしいさね。 そっちに行けば必要なものもそろえてもらえるさ。 だからその点は心配いらないよ」

「そうですか。 あまり詳しく話していただけない辺り、そっちに行かないと分からないことが多そうですね。 それじゃあ今日はこの辺で寝ましょうか」

「そうさね。 じゃあお休みよ、あたしは少し仕事が残ってるから。 ……あんたらのせいで終わらなかったんだけどねえ」

「それはどうもお疲れ様です。 ではおやすみなさいませ」

 どうも恵水と関わり合いになる上司は常時無礼講でも構わない人が多いらしい。


 ついに明日、二人は下界に降りる。

次回予告


恵「ついに私たちは人間界にやってきたんだけど、突然術式に不具合が! 帰ろうにも方法がなくなってどうしよう! 次回『恵水と雨久の異世界探索記』」


雨「不具合とか帰れないとかそんなわけあるか! ……え? ないよな?」


恵「もちろん冗談よ」


雨「そうか、安心した」


恵「とか言ってるとこの作者本当にやったりするのよね。 ま、予定は未定よ」


雨「?!」

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