第二十一話 向く先に立つ相手とは
今回少しメタな部分が一箇所ありますので苦手な方はご注意ください。
恵水の術を受け微風を生み出した黒板の上、その変化は劇的だった。
「おおう……」
「わぁ……」
何が起こるか知らなかった二人が感嘆の声を上げる中、彼らの目の前では、現在地を中心に尚も広がる光の立体地図が立ち上がりつつあった。
上へ、あるいは下へ伸びていく光の筋は、幾度も分岐と合流を繰り返し、枝先には大小様々な部屋が示されている。見る間に高さを増していくその様子は現実離れした事象の多いここ天界でもめったに見ることはかなわないだろうものだった。
「よし、一通り済んだみたいね」
恵水が満足げにそう呟いた頃には、立体地図は、蟻の巣もかくやというほど複雑な通路で構成された運候府の全景をほぼ完璧に模写していた。
「こりゃまたえらいもんを……」
「いつの間に作ってるの? 毎年仕事あって忙しいのに」
「まあ、それでも時間はある方だし、少しずつ作りながら置いておくのよ」
「でもそうすると、品質管理って大変よね?」
完成した地図を見ながら、枝子が珍しくまともなことを言う。希少なものほど扱いが難しいのは往々にしてあることで、そもそも扱いを間違うと変質、場合によっては消失するため希少となっているものも多いのだ。
「ああ、それは……」
「そういうのは私がやってるのよね。一晩寝る時間くらいなら恵水が自分で何とかするんだけど、しばらく手が付けられないときは私が恵水の道具を使って劣化しないようにしてるわ」
恵水が渋い顔をしたその隣、具体的なようで具体的でない返答が理渡から返ってきた。理渡の表情は、これ以上語る気はないと告げている。
「ふーん。まあ、そんなことより、轄門室はっと……」
理渡の表情を察してか、それとも単に飽きたのか、枝子はあっさりと話題を変えた。
「うーんっと、ここ、じゃないし、こっちでもないし……あ、ここよここ! 見つけたわ!」
先程からしばらくの間、地図を見ながらあーでもないこーでもないと言っていた枝子、ようやく目的の部屋を見つけたようだ。
「……信じていいのよね?」
「……多分」
「ったく、しょうがないわね。まあいいわ。とりあえず行きましょう。あんたこれ持っててね」
「え?」
そう言うと恵水は地図の足元にあった先程の黒板を枝子に持たせる。すると、地図はその黒板に従って移動、枝子の眼前に浮きあがった。
「うわあ! ちょっと、脅かさないでよ! っていうかこれ持って歩けるんだ」
「まあね。使い勝手はあまりよくないけど。ところで、あんたがさっき言ってたのって、ここよね?」
「ええ」
返事を聞いた恵水は、枝子が先程示した部屋が映っている部分に指をかざし、
「白き光の塔、彼の地まで我を導け。導道“赤光”」
と唱えた。
すると、地図上のとある一箇所――おそらく現在地だろう――から一本の赤い線が伸びる。そのまま一つの通路に沿って進んでいき、たどり着いたのは恵水が指をかざした部屋、つまり目的地のはずの場所だ。
「へー。色々便利ね、これ。ねえ恵水、これ私にくれない?」
「……あんたさっきの話聞いてた?」
「じょ、冗談よ……」
半眼になった恵水に睨まれ、枝子はすぐに前言を撤回した。恵水をしてそうさせるほど製作には手間がかかるのだろう。
「ほらほらあまり脅さないの。とりあえず道は分かったし、行きましょう?」
理渡がそう言い、四人は地図の示す道に向かって歩き出した。縮小版の地図で見ても道程はまだまだ長い。
しばらくして、現在地は……
「着いたわ。ここね」
「あれー?」
「? どうしたのよ枝子」
「な、何か足りなくない? こう、長い長い道中の……とか」
「何言ってるのよ。そんなのはここ三話くらいで飽きるくらいやったから、作者がもう満腹だって言って切ったに決まってるじゃない。 ねえ?」
「それは事実ですが言わないでください。あと、次回予告以外では不用意に呼ばないで頂けると嬉しいのですが」
「あ、そう。それじゃあね」
「ね、ねえ恵水。今何か「何でもないわよ。聞かなかったことにして」 ……」
ちなみに雨久は、何も言わないし何も聞いていないを貫こうとして
「ねえ恵水! 今のって本当に作s「やめろぉぉぉ!!」 うわあっ! いきなり何よ?!」
「その話はもう止めろ! いいからさっさと入るぞ!」
出来なかった。
雨久の勢いに任せて、ようやく最初の目的地である“轄門室”に入る一行。
「あらあら、随分遅かったじゃないのさ」
それを出迎えたのは
「氷張と芽吹から話は聞いてる。随分無茶したいのがいるらしいけど、誰さね?」
逆らい難い雰囲気かつ高圧的な態度で、加えて言えば部屋の他所より一段高い床に座っている
「……いつまで黙って立ってる気さね? 話くらいは聞いてあげるからさっさと入りな」
芸者風の女性だった。
とりあえず四人は部屋に入り、部屋の主だろうその女性の前に並ぶ。ただし、枝子は元々あちら側なので女性の横に移動する。
「さあて、もう一回聞くけど下に降りたいっていう無茶な子は誰さね?」
「あ、あのですね美那様、いくらなんでも自己紹介くらいしましょうよ。あっちもどうしたらいいか分かんないって顔してるじゃないですか」
「あれ、言ってなかったっけ」
その場にいた全員が脱力した。枝子はどうやら慣れているらしくそれほど体勢を崩すことはなかったが、慣れていない側は相当な肩すかしを食らった。しかし、恵水と理渡は何とか直立のまま堪え、雨久はぎりぎりで持ち直したため、何とか誰も転ばずに済んだ。
「何さねあんた達、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。あたしは門守美那。まあ、年がら年中ここに詰めて暇してるんだけど、たまに下から来る魔物らの討伐隊がいるだろ? あれの事務方やってんだ」
「あれ?」
ここで声を上げたのは珍しく理渡。
「門守美那様……、もしかして、いえ、間違いない、“剣山の高嶺”って、貴方ですよね?」
「あら、そこそこ昔の話を憶えてる子がいるじゃないか。あれは、大体百年くらい前、前々回の武道会のすぐ前だったかね」
理渡の言葉を聞いた美那が口の端を持ち上げる。不敵な笑いを受かべながら、彼女は突然
「あたしのことが分かってるなら話は早い、さ、あんたらの実力、直接見せてもらおうかね!」
立ち上がりながら高らかに宣言した。
恵「さて、いきなり無茶なことおっしゃるわね」
理「そんなこと言いながら早速準備始めてるのはどこの誰よ」
恵「どのみちやらなきゃ先に行けないじゃない」
理「それもそうね、じゃあ頑張って。ところで次回は何?」
作「……ま、まだ少しも書いてません(震え声)」
恵&理「「えぇ?!」」




