第十九話 この門、入れず
話が進まないのは腕の問題だけなのか、それとも進行から逃げているのか……。
暇つぶしが熱くなりすぎた一戦を終えた恵水たち一行は、再び真上に向かって空を飛んでいた。
「ねえ理渡、宿まであとどれくらい?」
「そうねえ、もうすぐだとは思うんだけど、すこし分かりづらい場所にあるのよね」
「一応、行ってはいるのよね?」
恵水はまさかと言いたげな表情で聞いた。しかし
「それが、手続きは氷張様がやってくれたし、そもそも行ったこともないのよ」
「お前は冬宮様に何やらせてるんだ。俺に連絡といい宿の手続きといい」
「全くもう。私も人の事は言えないけど、もう少しやり方あったんじゃない?」
返事はそのまさかだった。理渡をよく知るこの二人でもさすがに呆れは禁じ得ない。
「まあ、本当は場所くらいならもう把握してるんだけどね。ほら、あれ」
そう言って理渡が指差した先にあったのは、それほど大きくない一軒家のような建物の影。
「……期待はしてなかったが」
「まあ、風情ってことにしておきましょうよ」
やはりというかそれ以上というか、その建物は宿というよりはただの家。その上数か所の壁に皹のようなものが見えれば、ただの一泊にしても少々不安である。
「なあ理渡。あの宿、俺たち以外に客は?」
「いないと思うわよ。久しぶりの客らしいって聞いてるしね」
「だろうと思ったよ」
そんなことを話しながらも、とりあえずは宿の付近に着地、近くから建物の様子を確認した。
「ちょっと古めだけど、思ってたよりは丈夫そうでよかった。これなら問題なさそうね」
「そうね。辺りも特に何かあるわけじゃないし、静かに過ごせそうだわ」
「まあ、一泊くらいならさっき思ったより不安はないな」
思い思いの感想を述べた後、恵水がふと上を向くと、
「ここだと見えるのね、運候府」
「え? ああ、本当ね、よく見えるわ」
「おお、本当だ」
真上、三人が見上げた先には、うっすらと運候府の巨大な影が見えていた。
「……唐突だけど」
「何? 恵水が唐突っていう時は大抵つまらないことだけど、一応聞いておくわ」
「嬉しくて殴りたくなるわね。いや、久しぶりにいい風が吹いてるなと思ってね」
「そうか? さっきから変わらないだろ、そんなに強くもないし」
「恵水はそうかもしれないけど、私は付き合わされてるだけだし」
「ふふっ、最近は暮らしが淀んでたもの。この辺りで一度くらいは気晴らしがあったっていいわ」
「俺の発言無視かよ……」
親友的な会話の最中はやはり綺麗に無視される雨久であった。
この日はこのままこの宿に一泊した一行。そして明朝、幾分か引き締まった表情で三人は宿の前に立っていた。
「さて、思ったよりはいい宿だったし、気持ち切り替えて行きましょうか」
「ああ、こっからが本番だしな。あまりのんびりもしてられないだろ」
「何ていうか、息ぴったりね、貴方達」
「そんなことはないけど、別にいがみ合うこともないわよ」
「こういうやつは慣れてるからな」
この二人、昨日が初対面には全く見えない。まあ前日から結構打ち解けてはいたと思うが。
「じゃあ、行くわよ雨久」
「ああ!」
そうしてさらに上に飛び、しばらくしてようやく
「着いたわね」
「言わなくても分かってるが」
「こういうのはお約束ってものよ、ねえ理渡?」
「まあ、そういうものね」
一泊二日、三人はようやく最初の目的地に到着した。
「ところで……」
そこまで言って止めた恵水に、理渡は敢えて
「何?」
と聞き返した。恵水が発言を途中で切る時は大抵『あってほしくないけれどいかにもありそう』な内容で、しかも当たっていることが多い。
だから理渡はそれを“当たりやすい懸念事項”として聞いておこうと思ったのだが、恵水は珍しく
「別に何でもないわ」
と直接その内容を言わなかった。
「さ、行きましょう二人とも。理渡、案内よろしくね」
素っ気なかった返事の代わりとでも言うように恵水が歩き出そうとすると、今度は理渡が
「それなんだけど」
と恵水を止めた。
「あーもう、やっぱり思った通りなんじゃない」
理渡が言うには、理渡はこれから行く部屋を知らないため、担当者と連絡を取って案内してもらうことになっているらしい。
「で、これから連絡するからまだしばらくかかると思うわよ」
「なんてこったい」
「どうせこんなことだろうと思ったわ。言わなければいけるかと思ったんだけど、事実は変わらないってやつね」
恵水が先程言いかけたことも、まさに『理渡が行先を知っているか』だった。
そうして理渡が連絡した後、担当が来るまでしばらく待っていたのだが。
「何かさっき連絡してから、中の気配が騒がしくなってきたわよ? どうなってるの、理渡?」
「さ、さあ……何でかしら?」
「……諦めろよ、俺にはもう嫌な予感しかしない」
と、三人が妙な雰囲気になっていたその目の前に、運候府の建物から吐き出されるように一人、おそらくこの騒ぎの元凶が飛び出してきた。
飛び出してきた影は縦に一回転して地面に激突するも、何もなかったように起き上がり
「いったぁ……。あ、どうも皆さんこんにちは! って、あれ?」
目の前の三人を見回して頭に疑問符を浮かべた。
「あら、門松じゃない」
「門楯手よ! それに枝子って呼んでっていつも言ってるでしょう! それはそうと恵水、こんなところで何してるの?」
どうやらこの妙な人物、恵水の知り合いらしい。
~次回予告~
恵「さて、次回予告、のはずだったんだけど」
理「作者も怠慢ね。次ができてないらしいわよ?」
恵「じゃあこんな感じで行きましょう? 『堅牢な砦から突如現れた謎の人物! 謎の術で引きずり込まれた先にはなんと……! 次回『木乃伊取りが迷子になる(予定)』」
理「謎とか迷子とか何言ってるか分からないわよ。ところで、木乃伊って何?」




