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第一話 提案ないし上申

ここから本編。

実はプロローグの会話の続きだったり。

 地上では木枯らしの吹き始めたある日のこと。年中咲いている万年桜の木があるここは、春の館である。

 今日もいつものように、縁側でお茶を楽しんでいる二人の姿があった。


「昨日ね、今年は早めに桜の準備を始めましょうって芽吹様に言ったら、『まだ早いし、来年どのくらい咲かせるか決めてないもの』だって。遅れると怒るのに、今度は早いなんて、疲れるわ」

「あなたもせっかちなのかのんびりなのか分からないわね。師走くらいまではゆっくりしなさいよ?あなたもそう思うでしょう、山生女(やまうめ)?」

 理渡は、ちょうど新しいお茶を淹れた急須を持ってきた女性に声をかけた。


「そうですね。私はまだその辺りの加減はよく分からないのですが、去年は睦月の中ごろから始めましたから、師走の終わりに始めれば十分間に合うのではないでしょうか」

「ほら、この子のほうがあなたよりよほど優秀じゃない」

「そりゃあ、自慢の部下だもの。私がこうやってのんびりしてられるのも、副業をちゃんとこなせてるのもこの子のおかげよ」

 理渡の皮肉も意に関せずといった様子で恵水は得意げに言った。


 恵水の記憶は曖昧だが、彼女はまだ上がってきて数十年だったはずだ。

 しかし恵水はこの従者然とした女性をかなり信頼していた。

「そんなにほめてくださって、ありがとうございます」

 言われたほうは少々照れている様子。やや長めの髪を内向きに反らせている彼女は山生女(やまうめ) 留梨(るり)

 天人としてはまだ経験が浅いが、何に対しても誠実で裏表がないため、恵水始め上司にはかわいがられている。

 時に玩具にされることもあり、次こそはしっかり言ってやろうと毎回思いつつも結局口車に乗せられて怒れずにいる。

 縁側で日向ぼっこをしている猫のような可愛さ、というのは恵水談。


「それはそうと、そっちは仕事ないの?これから冬なのに」

「今は寒風吹かせてるだけだからね。簡単だし涼華(りょうか)に任せてるわ」

「へー、そっかぁ。留梨、あなたも来年何かやってみる?春一番とか」

「私がですか?でも、春一番は恵水様が大好きだっておっしゃってましたよね?いいんですか?」

 最近は天界でも、まだ経験が足りないからとか言って仕事をしない新入りが多くなってきているが、やはり留梨はそんなこともなく、むしろ恵水を気遣っているところなどは、気付きの良さが際立って感じられた。


「あたしはいいけど、あれは意外に疲れるわよ?突風だし」

「そうなんですか?でも、時間が経てば私の仕事になることですし、出来るだけ早く覚えておきたいです」

「うーんっとね、あれはただ疲れるだけじゃないんだよね。じゃあ、一つ聞くけど、ここに来てからどれくらい経つ?」

「そろそろ半世紀経つと思います」

「半世紀、か」

 恵水は深く考える姿勢になった。


 普通なら、一世紀ほど経って、自身の限界の自覚がはっきり出来てから始めるらしいのだが、恵水自身は一世紀経たずにものにした経緯もあり、何より留梨の筋が良さそうであったから、やらせてみたいと思う部分があった。

「自分で言い出しておいてなんだけど、普通ならまだ早いって言うわね。ただ、留梨は筋が良さそうだし、考えてみる価値はありそうね。あとで芽吹様に聞いてみるわ」

「宜しくお願いします」

 部下のやる気をうれしく思いながら、恵水はさっき注がれた緑茶を一口飲んだ。そこに茶柱が立っていたことは、恵水しか知らない。


 ◇


 しばらく経ち、地上では粉雪が舞い始めたころ、場所は、いつでも雪が積もっている冬の館の庭である。そこで、軽装の恵水と留梨が向き合っていた。


「なんだかなぁ」

「確かに私は未熟ですが、今日は頑張ります」

「いや、そういうことじゃなくて、“気力”を使わないでこれを全力で振るのは無理じゃない?」

「それは心配いらないわ。今日のための特別製だから」

「まあ、理渡がそう言うなら信じるけど」


 “気力”とは、天人の特殊能力の一つで、要は自身の気を具現化する能力のことだ。

 物体の性質を変化させたりすることはもちろん、気力で武器を形作ったり、光弾として撃ちだすこともできる。

 また、高度なものの中には単なる力ではなく、術として使用されるものもあり、その場合は周囲に気力による円陣が生じる。ごくまれに、人間でも気力を使う者が存在する。

 で、これというのは、恵水が持っている薙刀である。どうやら特別製らしいので、天人最強の武芸者の一人である恵水が振るっても問題ない、はず。

 普通は気力でさらに硬化させることで破損を防ぐのだが、どうして使わないのかというと、話は少し前に遡る。


 ◇


 一ヶ月ほど前。

「……で、留梨に突風をやらせてみたいと」

「はい」

「そうね、あなたは四半世紀くらいから始めて、その後四半世紀も経たずにものにしたからそういうのかもしれないけど、普通は絶対一世紀待つものなのよ」

「分かっています。ただ、留梨は筋が良さそうでしたので、本人がそう言ったということもあり、上申いたしました次第です」


 恵水が話している相手、長い茶髪を後ろでゆるくまとめている女性は、恵水の上司で、春に関する事象の最高責任者である春宮(はるみや) 芽吹(めぶき)である。

 芽吹は考えた。これほどとんでもない上申を恵水がしてくるということは、無視できるものではないことを意味している。

 だが、だからといってこれほどのことをそう簡単に通すわけには行かない。自分自身、恵水のことを上申したときは、これでものにならなければ自分が天界を去ることすら考えていたのだ。


「ものにならなかったときの覚悟はできてる?」

「無論です。それに、必ずものにして見せます」

 ちなみに、こうした特例の場合、認められる修行期間は半世紀である。この期間内に修行を終えなければ、上申者には重い罰か、最悪天界を去らなければならない。

 ちなみにこれは普通の場合、終わるか終わらないかかなり微妙な期間である。

「そこまで言うならいいわ。ただし、気力を縛った状態のあなたを倒せるくらいの実力はほしいわね」

「!……お言葉、ありがたく承ります」


 そして今に至る。が、いくら気力を縛ったとしても、天人の体力は基本的に高く、普段から薙刀で戦っている恵水はあまり弱体化しない。

 これが、いつも気力砲を撃っているようであれば話は別なのだが、はっきり言って今の恵水を倒すことすら、戦闘経験の乏しい留梨には無謀な話とも言えた。それなのに、恵水が試合のことを話すと、

「私だって早くお役に立ちたいんです。受けさせてください」

 と言ったのは留梨自身であった。


『強い子ね』

 今恵水の目の前にいるのは、一ヶ月間修行を積んで幾分か強くなって見える留梨である。その姿は昔の恵水によく似ていた。

 尤も、そう言ったのは理渡一人で、後で言われた恵水本人はそんなことはないと言い張っていたが。

「じゃあ、遠慮なく行くわよ!」

「はい!」


 雪の舞う中、春がぶつかり合う。

 いきなり戦闘フラグを立ててしまいました(汗)

 日常なんて無かった(笑)な事態になるのはそう遠くなさそうです。


 そのうちキーワードから日常が消える事態になりそうな予感がすでにしていますが、軌道修正するかどうかは未定です。もうこのまま行ってもいいんじゃないかとも思ってます。

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