第十四話 第一章終話 春盛りに、光奔りて
とりあえず第一章エピローグになります。エピローグらしくはないですが。
いつもより若干長いかな程度です。
地上では桜が満開であった。人々が春真っ盛りといった様子で祭でもあるかのように――いや、実際に祭か何かがあるのかもしれないが――騒いでいたその日は、休日かつ晴れ。絶好の行楽日和だった。
「……楽しそうねぇ」
「ですねぇ」
暇そうにそうつぶやいたのは留梨と恵水である。
天界では、その気になればどこにいても地上の様子を観察できるようになっているため、暇つぶしに眺めるのは割とよくあることだ。
「たまにしかないものだと、ここまで盛り上がれるのねぇ……」
「こっちは年中ですしね。まあ、こっちの桜さんたちのほうが数倍は綺麗ですけど」
「まあそれは間違いないわね。あなたが世話するようになってからはますますよくなったわ」
「ありがとうございます」
自分の世話する桜を誇りに思っている留梨は満面の笑みであるが、恵水の発言の内容に術式の触媒としての花びらの質などの意味が含まれていたことは知らない。
「そうだ、お花見しましょう」
「今から、というか今更ですか?」
「その、何となく暇だから」
「そうですねえ、では、久しぶりにお酒でも出してくつろぎましょうか」
いつもの留梨なら呆れて止めにかかる場面だが、今日は暇なせいか随分と乗り気である。
普段働き者の留梨が遊びに転じたため、あれよあれよと準備は整い、現代のそれを真似て桜の木の下に所謂ござを敷いた花見場があっという間に完成した。
「じゃあ、始めましょう!」
「はい」
こうして、改めてといった体で春の館での花見が始まった。
その頃、偶然ながら冬の館の二人も地上の花見を眺めていた。
「現代人って相当暇なのね……」
「私たちが言えた事じゃないですけどね」
「まあねぇ……」
こちらも取り留めのない会話で場を持たせつつ地上を観察して暇をつぶしている。
「さて、この暇をどう紛らわすか考えましょう!」
「そうですね、やっぱり渚ですか?」
「それはこの間行ったじゃない。しかもまともな相手がいなかったし、行っても鬱憤が溜まるだけじゃない?」
涼華のありがちな返答に、理渡は珍しく半眼で応じる。
「ではどうしましょう? そもそもこの間行ったのにまた館空けたら怒られますよ?」
「……そうねぇ。じゃあ、寝る?」
「そのくらいしかないですかね」
と、そのまま昼寝を始めようとした両名、実はこの時点で片方にとある連絡が来ていたのだが、そんなことをもう片方は知る由もなく。
そして、その片方が眠りについたのを確認すると、黒い笑みを浮かべた首謀者は、術式で相手の眠りを深くしてから秘匿型の転移術で床に沈んでいった。
その少し前、わざわざ花見だからと言って羽目を外すこともなく、ゆっくりとした息抜きといった風情で隼備した酒を飲んでいる二人がいた。
「たまにはいいわね、こういうのも」
「久しぶりに風情があることをした気がしますね」
「そうね。前は暇さえあれば鍛錬だの試合だのって言ってたからね」
「そうですね。ところで、冬の館はどうなってるんでしょう?」
「そういえば気になるわね。ちょっと聞いてみて、来れそうなら呼んでみるわ」
恵水はそう言うと、目を閉じ、向こうが何か用事だった場合のことを考え、ただの遠話ではなく念話の術を使い理渡に連絡を取る。
『もしもし理渡、聞こえる?』
『誰かと思えば恵水じゃない。どうしたの?』
『別に大した用事じゃないんだけど、今って空いてる?』
『暇ね』
『それならちょっとこっちに来ない? 暇つぶしに』
『楽しそうね。何かあるの?』
『それは……来てからのってことでいいんじゃない?』
『そうねぇ、分かったわ。少し待ってて』
理渡はそう言い残して向こうから念話を遮断した。
「どうでした? というか、どちらにかけました?」
留梨はなんとなく気になって必要以上に質問した。
「言わずもがなだと思ったけど、理渡にかけたわ。暇って言ってたけど、その割りに少し切羽詰まった感じだったわね」
「? 何かあったんでしょうか?」
「まあそれは来てから聞けばいいわ。すぐ来るって言ってたし、大丈夫でしょう」
お分かりだと思うが、理渡は“すぐ行く”とは一言も言っていない。あくまで“少し待って”と言っただけだ。
「そうですか。では私たちはこのままで」
「ええ。このまま飲みながら待ってましょう」
こうして飲むことさらに数分、二人もそろそろ酔いが回ってきたころに、目の前の地面から白い光と共に理渡が姿を現した。
「あれ? ここに直接来るなんてどうしたんですか?」
「そうよ。形だけでも玄関から入るものでしょう?」
「それが、館は開けてられないけど、涼華一人残してくるとなると、説得が大変でしょう?」
「そういえばそうね。どうしたのよ?」
「あまり面倒事になるのは困るから、手っ取り早く寝かせて来たわ」
「まあ無難ね。さて、そんなことはもういいから飲みましょう」
「って、暇つぶしって花見? 私はこの間氷張様と深酒したばかりなんだけど」
「そんなことはどうでもいいの。いいから飲む飲む!」
理渡がこの後『やっぱり来ないほうがよかったかしら』と思うまでにそれほど時間はかからなかったが、いずれにせよ既に後の祭りである。
こうして理渡が酔った二人に絡まれている頃、冬の館では、理渡の予想外の事態が発生していた。
「ただいまー、あれ?」
偶然氷張が帰ってきていたのだ。
「涼華? ……寝て、いや、眠らされてる?」
当然理渡が掛けていった術にも気付くわけである。
「理渡、何処に行ったのかしら?」
底冷えのするような声でそうつぶやくと、氷張は上位職用の緊急術式、宮権“広探”を使った。本来こんな時に使うものではないのだが、それほどまでに氷張を駆り立てるものがあったのだろう、何かはわからないが。
「見つけた」
そう言って無表情で氷張が転移したのは、それからわずか数秒後であった。
「!! 逃げないと!」
「どうしたのよぉ理渡」
「氷張様が来るわ!」
「え……? じょ、冗談で「もう来たわよ」
氷張がその言葉を言い終わるのと、理渡が背後に障壁を展開するのと、その障壁に一発の光弾が衝突するのがほぼ同時。
「何をしてるのかと思えば……、何をしていたのかしら?」
「「「……」」」
こんな抜けたことを言われても誰も笑わない。それほどの威圧感が氷張から噴き出していた。
「まあいいわ。理渡はもらって帰るから」
「くっ、こうなったら命だけでも! 行くわよ理渡!」
「分かったわ、後ろは任せなさい、恵水!」
「私も微力ながらって違います! 三人とも止めてください!」
「そっちがその気なら、容赦しないわよ!」
こうして、春の館は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図となったのであった。
「疾脚“破暁”、短刃“隼”ぁ!!」
「気砲“四式三装鳳凰砲”!!」
目視の範疇を超えた速度で刃が走り、その後を圧倒的な四本の光条が奔る。
「制域“昇華凍結”!」
しかし、氷張の設定した特殊領域に入った瞬間、それらはすべてその動きを止め、
「気弾“鳳凰散光波”!」
拡散した圧倒的物量の光弾によってあっけなく制圧された。ちなみに留梨は隅で流れ弾の処理に当たっていたため事なきを得た。
「「申し訳ありません」」
「分かればいいわ。久しぶりにすっきりしたしね。じゃあ理渡、帰るわよ」
「はい」
こうして氷張(と理渡)は嵐のように帰って行った。
「……結局、ゆっくりできなかったわね」
「はい」
「醒めちゃったし」
「そうですね。……また、飲みなおしますか?」
「もう、いいわ……」
波乱と倦怠に包まれ、今日も春の館の一日はおおむね平和に過ぎていったのだった。
第一章 少々違う日常 ―完―
今回もどうも穂桐です。
なんで気の向くままに書くとこういうものができるのか、自分でも未だに不思議でなりません。どうやら私は戦闘狂らしいですね(苦笑)
それはそうと、ここでかなりはっきり区切りがついたので、来週からしばらく休講して次章の構想を今以上に固める作業に入りたいと思います。と言ってももうほとんど下地はできているので、大体ひと月くらいで帰って来れると思います。
とりあえずここまで読んでいただいてありがとうございます。もちろんこれからもがんばりますので以後もよろしくお願いします。




