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閑 第二半話 公的難題、私的受難

今回は何とか更新ペースに間に合わせました。

 恵水と留梨の試合が終わってほとぼりが冷めた頃、理渡は、普段行かない場所、最も多くの天人が集まる『運候府(うんこうふ)』に足を運んだ。


「相変わらず辛気くさい気が流れてるわね……」

 理渡は当初この場所が嫌いだったが、さすがに半世紀以上も毎年通っていると慣れ、最近では少々愚痴を言う程度だ。

 年一回の恒例行事、理渡は慣れた足取りで一瞬の逡巡もなく複雑に入り組んだ廊下を進んでいく。やがて目的の場所、『轄季室(かっきしつ)』にたどり着くと、まるでその瞬間に理渡が来るのを知っていたかのように、いや、実際に知っていたのだろう、扉が開いた。


「あら、今回も完璧ね。多少は遅れる時もあっていいと思うのだけれど」

 理渡の到着時間が毎回予定通りすぎるので助かる反面少し仕事面で圧力を覚えている氷張の挨拶は若干ひねくれていた。

「そんなことしても氷張様に迷惑なだけですし、遅れる分だけ時間は浪費されているんですよ」

 対する理渡は、氷張が仕事は要領よく手早くを旨としていることとその理由|(ここでは割愛する)を知っているので涼しい顔だ。

「……まあいいわ、入って」

「はい」

 年に一度、冬の為には外せない重要な打ち合わせが始まった。



 ここで、この場所について説明しておこう。


 運候府とは、数限りない天人の内、特に地位の高い者が基本的に住み込みで働いている区画で、天界の最も高い位置にある。地上の企業で言えば本社に当たる部分で、特別重要な会議や各部署での情報伝達などが行われる場所だ。

 他の各所と比べて極端に仕事が多いわけではないが、やはりそれなりの量をこなさねばならず、且つ緊急の用事が舞い込むことがあるため、最初は臨時の詰所だったものが拡大、移転し今に至る。

 ちなみにごく一部の天人しか知らないことだが、この建造物は要塞としても使用可能であり、その機能が発動すれば、天界の全天人の半分以上を収容、その状態で半年の戦闘に耐える能力を有する。

 尤も天界の最上層まで魔物が(少なくとも正面から)攻め込む可能性は皆無であるため今まで起動されたことはなく、今後も使用されることはないだろう。


 そして轄季室であるが、こちらは季節界の天人の仕事用の部屋で、特別なものはないただの部屋である。運候府にはこのような部屋が無数にあり、複雑に入り組んだ廊下で繋がっていて、さらに案内板などの設置もないため、予備情報なしに一人で入るのはむしろ危険といえる。完全に道順を覚えるまでは誰かに案内してもらったほうがよいだろう。



 さて、話を戻して場所は轄季室の氷張に割り当てられた机の前だ。

 理渡は難しい顔をして渡された一枚の紙を眺めている。対する氷張は諦めの混じった苦笑を浮かべている。その紙が何であるかというと、

「これ……本物、ですよね?」

「正真正銘本物よ。今年の降雪予定表」

 この降雪予定表、例年の比でなく、それこそ冗談ではないかと問い返したくなるほどに予定の降雪量が多かったのだ。


「でもこれだと、一人じゃ無理ですよね?」

「そうねぇ……今年はこっちでも紛糾したんだけど、何でかこんな多い量に落ち着いちゃったのよね」

「……確信犯ですか」

「さてね」

 理渡は苛立ったが、あくまではぐらかす氷張の様子を察して追及を止める。

「では、氷張様が一旦戻られるんですか?」

「そうしたいのは山々なんだけど、ちょっと色々立て込んでてしばらく帰れそうにないのよね」

「……」

 数瞬の沈黙。ここでようやく氷張の真意を正確に察した理渡は、

「では仕方がないですね。涼華にでも手伝ってもらいましょう」

「そうね」

 氷張の淀みない返事に、理渡は今回の氷張の意図を完全に把握した。


 こうしてとりあえず仕事に区切りをつけた二人は、いったん轄季室を退出し(夏宮(なつみや)が「またか」と怒鳴っていたが)、娯楽用に設置されている安息室(あんそくしつ)に向かった。



 ここに来た二人がすることと言えばただ一つ、酒だ。


 天界は基本的に俗世から隔絶した仏教の浄土的世界に近いが、無論そこにいる天人も元は人間であり、仏教徒でないことも多いので、いくら選ばれたといっても個々に多少の雑念、所謂“穢れ”は存在する。


「おう、あんたらか。今回は珍しく我慢していたみたいだが、結局来たのかい」

「皮肉は言いっこなしよ、ご主人。いつもので構わないかしら?」

「おう、最近あんたが来ねえから随分余ってるぜ」

 そして、氷張が持ってきた穢れは、無類の酒好きであるという点だ。そして、これがまた非常に強い。

 ところが、一人で飲みに来ると帰りが大変なため、普段はそれなりに努力して押さえつけながら生活している。

「出しすぎないであげてください。この人が潰れると酷いのはお分かりでしょうに」

「ははは、あんたも大変だな。毎度毎度付き合わされるってのは」

「まあ、この人と二人飲みできるのは私くらいですから」

 ちなみに理渡はこの面に関して穢れは特にないが、生前から酒は強いほうで、天界に来てその強さにますます磨きがかかり(かかってよかったものか)、氷張の周囲では唯一氷張と一対一で飲める稀有な存在になった。


 以下、この時の会話の一部を紹介しよう。


 五分後

「ここからはあなたの仕事よ。あとは頑張って頂戴。私はお酒飲みながら春になるのを待ってるわ」

「丸投げですか。そんなことを言ってると連れて帰りますよ」

「あらそれは勘弁してほしいわぁ」


 三十分後

「やっぱりいつ来てもいいお酒ねぇ、ここのは」

「そうですね。ここまで気分よく酔えるのは天界広しといえどもここくらいでしょう」

「私が止められないのもわかるでしょう?」

「それに関しては発言しかねます」


 一時間後

「それじゃあお待ちかねの氷張さん武勇伝!」

「待ってないです」

「あれは今から……何百年前だっけ?」

「私に聞かないでください」


 紆余曲折……


 四時間後

 〈これ以降は主に氷張の発言が完全に崩壊しているためお聞かせできません〉


 こうして理渡にとっては受難の夜が更けていく。帰宅の途につけるのはいつになることやら。


 今週もこんにちは穂桐です。


 前に書いた部分の時系列に遡って書いていると、流れをあまり気にしなくても良いので勢いでどんどん新設定が打ちあがってきます。

 むしろ閑話読まないと本編がわからなくなる可能性が出るレベルですねこれは。


 ところで、何を基準に閑話書いてるんだっていうのは疑問かと思いますが、プロット上で、1か月単位で空白になってる部分を書いています。1.5と2.5を書いたからといって別に全部書く気はないですのでご安心を。


 というわけで次回は5.5、恵水が灰作ってる真っ最中ですが主役は未定です。


 後書が長くなってしまってすみません。ではでは

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