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第十三話 拾い“もの”、新たな住民

 恵水や理渡が帰路に着いた頃、留梨と氷張の組も帰路につこうとしていた。

「さて、この辺りもあらかたいなくなったことだし、帰りましょう?」

「はい、そうですね」

「じゃあ帰りはあっち……あら?」

「なんですか?あれ」

 見ると地面に陣が現れ、何かが湧いてくるところだった。


「あれは魔物がこっちにくるときの陣ね」

「ええ?!」

「大丈夫よ。そんなに力はないようだし」

 その間に魔物としては小さい兎大の物体が陣から現れた。陣の光が消えた後に残されたのは、

「可愛い……」

 先程地獄の外れで消失した“彼”であった。



 その数分後、朝転移してきた場所に再び集まった四人は、一組だけ遅れている氷張、留梨組を待っていた。

「まったく、ちゃんと頼んだのに氷張は何してるのかしら?」

 少々いらだった様子で芽吹が言うと、

「氷張様に限って何かあるとは思えないんですけど……」

 不安げに理渡も言った。


「ごめんなさいみんな。遅くなって」

「遅いわよ。……? 何かいるわね」

「魔の気配がありますけど……」

 朗らかに帰ってきた氷張とは裏腹に、待っていた四人は一気に剣呑な空気になる。

「そういえば……留梨?」

「は、はいっ!」

「やっぱりね」

 思い出したように恵水が言うと、氷張の後ろで縮こまっていた留梨が顔を出した。

 その手に抱かれていたのは、

「キュ?」

 そう、“彼”である。


「何でそんなのを連れてきたの?留梨」

 と、四人を代表する形で恵水。

「えっと、そのあの……」

「可愛くってつい、ね」

 窮した留梨の代わりに答えたのは、当然と言えば当然だが一緒にいた氷張だ。

「まあ、否定はしませんし、この程度なら問題ないとは思いますけど」

「問題大有りよ、恵水。こんなのどう報告しろっていうの?」

 少々声を荒げて割り込んできたのは芽吹だ。

「まあまあ落ち着いて芽吹。館においておけば基本的に常時監視になるし、この程度の力ならどうにでもなるでしょう? 報告するほどの危険因子ではないわ」

「でも、いくら弱くても魔物であることは変わらないわ」

「そうです氷張様!こんな姿でも何してくるかわからないんですよ!それに、魔物を家に置いておくなんて普通じゃないです!」

 急に大声を出して力説しだしたのは涼華。以前何かあったのだろうか。

「涼華」

「はい?」

「気持ちはわかるけど落ち着いて話して。言いたいことはわかってるわ」

 そう言って理渡が涼華を諭す。こうして全員が参加した議論が始まった。


 結局議論は容認派の氷張、恵水、理渡、留梨と、非容認派の芽吹、涼華に分かれた。

 容認派は、この魔物がほぼ無力であり、能力制限の術でもかけておけば脅威たり得ないこと、それと、意外にもこの全員が彼を可愛いと認識していたことを理由に挙げた。

 対する非容認派は、あくまで彼は魔物であり、突然反抗してくる可能性もあることや、世話はどうするのかということを理由に挙げた。


「このままじゃ平行線ね……。留梨、何かもう少し言っておきたいことはある?」

 終わらない議論に疲れ始めた恵水が言った。

「はい、じゃあ一つだけ。皆さん魔物だからってこの子のこと見てあげてないんじゃないかなって思ったんです。たとえ魔物でも、その元は人の心です。ちゃんと可愛がってあげれば喜んでくれると思うんです。……私が一生懸命世話しますから、この子、連れて帰らせてもらえないでしょうか?」

 何となくこれで最後だと察した留梨は、思いのたけを話した。

「まるで子供みたいな言い回しね。でもまあ、嫌いじゃないわ、そういうのも。……そうね、今回は特別に許可するわ。しっかり世話してね」

 ここでついに芽吹が折れ、議論は決着した。


「ところで……」

 話がまとまったところで氷張が

「その子の名前って決めてあるの?」

 と呟いた。

「はい。真珠の“珠”で、“(たま)”なんてどうでしょう」

 留梨は淀みなく答えた。おそらく拾った時からずっと考えていたのだろう。

「何で、珠?」

 横で聞いていた恵水がそう尋ねると、帰ってきた答えは至極簡単だった。

「球は玉ですから、玉つながりで珠にしました」

「キュー、ね。いい名前かもしれないわね」

 恵水はその短絡的な命名に少し呆れたが、どのみち見た目も丸いのでそれでいいかと思い直した。反芻してみると、確かにこの名前がぴったりな気がしてくる。

「そろそろ帰るわよー」

 少し離れたところにいた芽吹がそう呼ぶので、三人も合流、一斉に転移術で館に帰って行った。

 誰もいなくなった渚に涼風が渡った。


 春の館の庭に転移陣が現れ、三人と一匹が帰ってくる。

 とりあえず目の前の縁側に腰を下ろして一息つくと、留梨が思い出したように言った。

「そういえば、この子って何食べるんでしょう?」

「魔物には食事は必要ないのよ。そもそもあっちに食べられるようなものもないわ」

 芽吹が答えた。まるで行ったことがあるような口ぶりだ。というか実際あるのだろう。

「探せばあるかもしれないけど、あそこはあまり長居する場所じゃないわ」

 そう言う恵水も渡航経験があるらしい。

「ところで、首輪か何かつけておかなくていいの?」

「あ、忘れてました。でもその、私やり方知らないんです」

「それはそうよね、恵水」

「はい芽吹様。これですね」

 芽吹の声にそう答えると、恵水は空中に陣のような模様の光の輪を浮かべ、それを珠の首にはめた。輪は珠の首にぴったりの大きさに縮むと、吸い込まれるように消える。

「キュ?」

 撫でられて心地よくなっていたところに突然何かされたので、珠は少し驚いたようだったが、別段感覚に変化はなかったらしくそのままおとなしくしていた。

「……何を?」

 留梨は何が起こったのかよくわかっていない。

「“封魔環”よ。この子は元々強くないから違和感はなかったみたいだけど、これを付けるとその魔物の力をかなりの範囲で制限することができるわ」

「なるほど」

「キュー」

 恵水の話を聞いて手の止まった留梨に抗議するように珠が鳴いた。


 それからしばらくくつろいでいた三人だったが、

「そういえば恵水、今は何時?」

「そろそろ時間ですね」

「そう。じゃあ私はまた行くわ」

「いってらっしゃいませ」

「いってらっしゃいませ、芽吹様」

 芽吹を見送ると今度は留梨が立ち上がって言った。

「では、私は夕ご飯の準備をしてきますね」

「いってらっしゃい」

 恵水の返事を確認すると、留梨はそれまで抱えていた珠を足元の地面に下ろし、

「キュー」

 不服そうな珠に柔らかな笑顔を向けた。

「これからはあなたもここの住人よ。よろしくね、珠」

「キュー!」

 先程とは一転して嬉しそうな声を上げた珠は、くるりと踵を返して歩いていくと、桜の木の下で体を下ろして、早速キュウキュウと寝息を立て始めた。

「気に入ったみたいね、留梨も、ここも」

「ええ、心地よさそうで何よりです」


 こうして春の館に新しい仲間が増えたのだった。

 地上では桜がちらほらと咲き始め、恵水たちの仕事は終わりを告げていた。


どうも、久しぶりにあとがきに来ました作者こと穂桐です。


この回でとりあえず第一章は完結とします。これ以上はグダりそうだったのと、そろそろもうちょっと動きのある話にしたいなと思いまして。


第二章は、仕事も終わってゆっくりするはずが…な話になる予定です、あくまで予定です(大事なことなので二回言いました)。


これから二、三話ほど空白期間の補完をしてから第二章に入ります。引き続き読んでいただければ幸いです。

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