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第十一話 渚

 どこかに行った涼華が冬の館に帰り、理渡とともに夕食を囲んでいる頃、恵水はある人物と術で遠話していた。

「明日なんですが、館の閉め切り許可っていただけます?」

「急ねぇ……。まあ、できなくはないし、気持ちもわからないではないから掛け合ってみるわ。じゃあ、結果が分かったら折り返し連絡するわね」

「はい、よろしくお願いします」

 そう言って恵水は通話を終える。そしてすぐまた同じ陣を組んで遠話をつなげる。


「あら、どうしたの? 今食事中よ」

「それはごめんなさい。ところで、明日って二人で出てこれる?」

「奇遇ね。私も同じことを聞こうと思ってたのよ」

「? どうしたの?」

「大したことじゃないんだけれど、明日みんなで渚に行こうかなと思って」

「……奇遇ね」

「やっぱりね。お互い分かりやすい性格してるわ」

「……そうね。なんだか疲れたわ。じゃあね」

「はいはい、また明日ね」


 通話を切ると、突然疲労感がやってくる。恵水はつまらない気分になって縁側に足を向けた。


「……」

 夜桜が日常的に見られるこの場所に居心地の良さを感じられるようになったのは果たしていつからだったろうか。と恵水は夜風に当たりながら考える。

『初めはつい怖くなっちゃって出てこれなかったのよね……』


 桜はその美しさ故に時に怪談の種にもされる。

 何も照らすもののない場所で桜を眺めていると、散った花弁が突然顔に触れたりして不気味であるし、殊更に美しい桜の根本には死体が埋まっていると言われることもある。

『でも……敢えて落ち着かない場所で落ち着こうとするのがいいのかもね』

 自分では結論が出ないだろう問いに適当な落ちを付けて思考を止める。何も考えずにただ風を楽しもうとしたところに、横から声がかかった。


「あっ、恵水様。ここにいらっしゃったんですね」

「あら、どうしたの?」

「芽吹様が帰っていらして、恵水様にご用事がと」

「帰っていらした? ……連絡していただければ良かったのに。分かったわ、今から行くけど、留梨も一緒に来て」

「私もですか?」

「そ。早く早く」


 恵水が留梨の手を引っ張って居間に来ると、当然ながらすでに芽吹が待っていた。

「ただいま、恵水」

「お帰りなさい、芽吹様。それはそうと、どうしてわざわざ戻っていらしたんですか?」

 恵水が座りながら聞くと、芽吹は少し言いづらそうに、

「それがね…

 と話し出した。


「なるほど……。もう私たちの明日の予定もご存じでしたか」

 結局芽吹によると、ちょうど同じ申請をしに来た氷張と出くわして冬の館の話を聞いて、そのうち盛り上がってしまい結局自分たちも一日休暇を取って同行することになった、とのこと。

「って、恵水様は私に何もおっしゃってなかったじゃないですか!」

 一人憤慨しているのは留梨である。そんな話は全く聞いていないから当然だ。


「あっちに持っていく食事を作るのは私なんですから事前に一言くらい教えておいてください!」

「ごめんごめん。私も芽吹様に連絡してから理渡に話聞いたから。たまたまあっちも行くって話だっただけよ」

「それでも最初から行くつもりだったんだったら早めに言ってください!」

「ぅう……ごめんなさい」

「フフッ、まったくどっちが年上か分からないわね」

 何故だか次第に話が脱線していく。自分で書いてても何故だと思う。


「もういいです。じゃあ明日のお昼は朝のうちに作っておけばいいんですね」

「……よろしく」

「私の分もよろしくね、留梨」

「はい、任せてください芽吹様」

 久しぶりに三人が集まった春の館の夜はこうして更けていった。



 次の日の朝、今度は冬の館だ。

「……」

 早朝に突然布団から起き上がる影があった。その人影は何を言うでもなく台所に向かい、淡々と前の晩に下ごしらえをしておいた素材を調理していく。


「……」

 無我の術でも使っているのではないかと疑わせるようなその無表情は、しかしただ単に眠気からくるそれである。そうして全行程の半分ほどが終わったところで、ようやくその人影は言葉を発した。と言っても背後から

「おはよう涼華」

 という声が聞こえたので

「おはようございます、理渡様」

 と返しただけだが。


 そうこうするうちに氷張も起きてきて、ちょうど食事(昼食含む)の準備が終わったころにようやく涼華は完全に覚醒した。

「じゃあ、腹が減っては戦はできぬと言うし、食べましょうか」

「ですね」

「はい」

「「「いただきます」」」


 つつましやかに食事やら準備やらを終えた冬の館一行は、

「それじゃあ行きましょう!」

 という氷張の高らかな宣言と共に転移術で“渚”に向けて出発した。


 その頃、春の館一行も同様に転移し、二組はちょうど同じ瞬間にその場所に到着した。


「着いたわね」

「お互いにね」

 その場所は、渚から連想される空間とはかけ離れたただの広い野原。だが、こここそ正真正銘今回の目的地、“冥土の渚”である。


恵「ずいぶん繋ぎな話になったわね……」


留「まあしょうがないですよ。次回が本番、だといいんですけど」


恵「不安ねぇ。とりあえず次回は『境界での肩慣らし』って、また繋ぎなの?!もう!」


留「お、落ち着いてください恵水様!」

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