第九話 距離を潰し、音を斬る。それでも切れぬは師弟の絆
今回は今までで一番乗った気分で書けました。
ただ、もう少し細かく書き込んでおけばよかったかもしれないです。
「秋以来ね」
「何でこんなことに(涙目)」
「ほらほら泣かないの。さあ行くわよ!」
「! こうなったら……行きます!」
気分の乗った恵水を止める術を持たない留梨は、ただ目の前の理不尽と正面から渡り合うことを選んだ。
一気に踏み込んでくる恵水に対し、気を纏いながら後方へ跳躍、一振りの刀を展開する。思い描く感覚は、しなるほどにしなやかに。
「せい!!」
それを着地と同時に振りぬく。しかし彼我の距離はこの刀の間合いではない。
が、突然その刀が“伸びた”。
「?!」
ギンッと恵水の防御にしては珍しい濁った音を響かせて刃がぶつかる。さすがの恵水もこの奇襲には驚いた様子だ。そうかと思うと留梨の振るった刃は一瞬にして元の長さまで戻る。
『あれは……?』
さすがの恵水も初見で看破できる技ではないと踏み、ならばと一言
「疾脚“破暁”」
術の発動と同時の踏み込みで、留梨までの距離を一瞬にして踏み潰す。相手の得物が伸びるのならば強制的にこちらの間合いに引き込めばいい。そのままその速度を乗せて放たれた神速の薙刀は
「幻理“沙羅双樹”」
留梨に当たらずに空を切る。留梨の姿は真っ白な花弁となって散り、次の一瞬には二人に増えた留梨が恵水の前後に現れる。どちらも恵水の間合いではない。
「っ……!」
左右から迫る長いしなやかな刃。当たればそこで負けだ。策は、無いわけではないが、反則技なので今使うわけにもいかない。
『一か八か!!』
術の効果が切れる寸前の足で真下に踏み込み、その反作用で大きく跳躍する。二本の刀が足先をかすめたが、何とかかわし切った。
「!」
まさか抜けられると思っていなかった留梨は舞い上がる恵水の姿を見て一瞬の隙を見せた。その刹那
「幻象“夢幻桜吹雪”!」
集中が短いため威力こそ低いが、二人の留梨の両方を射程に収めた気弾がばら撒かれる。
「くっ!」
しかしそこは修行を重ねてきた留梨、むやみに下がらずに気弾を避けつつ、時には斬り払いながら立ち位置を維持する。その間にも恵水からは目を離さない。
恵水は宙に浮いたまま降りてくる様子がなく、弾幕の密度は確かな速さで上がってきている。このままではまずいと留梨が思い始めたとき、留梨の肩に何かが触れた。
「? ……!」
それは何と分身した自分。見ればそこは恵水の真下。自分たちがここに誘導されていたのは火を見るより明らかだ。かといってこの弾幕を突っ切って離脱するのは至難の業。こうなれば、できることをするしかない。
『一撃で決まらなければ最後。それなら全力で!』
弾幕の処理を分身に任せる。分身は留梨の思惑を忠実に実行する。
「気砲“散光波”!」
分身の手から大量の光弾が放たれ、恵水の気弾と衝突し爆発、派手に煙を放出する。一時的な目くらましだ。しかもこちらからは恵水が影になって補足できるため、事前に回避される心配はない。
「これで!」
爆炎の中、留梨は全力で持っている刀を“引き絞った”。今まではただ伸ばしていただけだが、今度はさらにしなりを加えて威力を増大させる。そのためのしなやかさだ。
「行っけぇ!!」
煙が消え始め、互いの姿が見えたその瞬間、留梨は全開の一撃を恵水に向けて放った。
「!!」
一目見て恵水は思った、『速い』と。何かしてくるのは分かっていたが、まさかこれほど速い剣閃が飛んでくるとは思ってもみなかった恵水は瞬時かなり動揺した。
……それでも。
チュイン!
「?!」
「旋突“輪貫”ッ!!」
恵水には、剣閃にほんの僅か遅れてパンと乾いた音が届いていた。それはつまり、あの剣閃が音速を上回っていたことを示す。しかし恵水は何の感想も抱かない。そこにあるのはただ、“何物をも突き穿つ”、ただそれだけのために研ぎ澄まされた意識のみ。
留梨が自分の攻撃を逸らされたと気付いた時にはすでに、留梨の目の前で刃が閃いていた。
地面に何かが衝突する重い音の残響と、そこに立ち込めた砂煙が消えると、そこには仰向けに倒れた留梨と、その頭からほんの一寸右の地面に深々と突き刺さった若草色の薙刀、そして、その柄をつかんで留梨の横に立っている恵水の姿があった。
「……結局届きませんでしたか。灰の準備の間に、これでも努力したんですけどね」
「よくやったわよ。あれならよほどの腕自慢にだって勝てるわ。なにせ、私の予想を少し超えたんだから」
恵水の賛辞に頬をほころばせた留梨だったが、すぐに決意した目になって言った。
「ありがとうございます。でも私、もっと頑張ります! いつか、恵水様が私を弟子として誇れるように」
恵水は微笑んで、次に言おうとした言葉を敢えて飲み込んで、言った。
「くれぐれも体には気を付けるのよ。あなたが疲れで寝込んだりしたら私が大変なんだからね?」
「はい!」
恵水にとって、久しぶりに技と技をぶつけ合ったその日は、留梨にとっても記念すべき日になった。
恵水は夏に向けて個人訓練を増やすことに決めた。留梨はこの調子をさらに上げていくべく鍛錬への気持ちを新たにした。
本当に清々しい師弟愛である。
留「先日は次回予告が間違っていたみたいで……すみませんでした」
恵「気にしない気にしない。間違ってたのは作者の原稿なんだし、留梨のせいじゃないわよ」
留「いえ、それでも気付かなかった私の責任です。というわけで、次回こそ砂嵐です。第十話…あ、副題忘れました」
恵「え?原稿は……?」
留「信用ならないので置いてきました、けど、忘れてしまいました。恵水様は?」
恵「私は適当に合わせてって言われてるから」
留「じゃあどうしようもないですね。というわけで、次回は第十話です。よろしくお願いしますね」




