ドM勇者VSオネエ大魔王 リベンジ
VSオネエ大魔王四作目です。
「はぁ……」
サディはため息をついた。
兵士の報告によると、オタク勇者オタッキーが行方不明になったという。
前の二人はオネエ大魔王『イ=ヤーン』に倒されたと聞いたが、今回は行方不明らしい。
「魔王を前にして怖気づいて逃げたのでは?」
兵士ミエハリは偉そうに言う。
「だったらお前が行くか?」
サディが鞭に手を伸ばすと、ミエハリは首を振る。
「私は強いです。ですが、オネエを見ると拒絶反応が出てしまうのです」
つまり、勝てないと言っているのと同じなのだ。
呆れたサディは聞く。
「今まで勇者を探してきたのはお前だったな? どうしたらあんな馬鹿ばかり見つけられるのだ」
「えっ、それは普通に」
「普通、とはなんだ」
「だから、普通に勇者募集してますーって大声で呼びかけましたよ。今日もそうするつもりでしたし」
それだけであんなドMやナルシストやオタクが見つかるのか、とサディは思う。
やはり、世界がオネエ大魔王によって汚染されているのだろうか。
「ああもう!」
痺れを切らしたサディは立ち上がる。
突然のことだったので、ミエハリは驚いて声も出ない。
「私が勇者を探す! お前は牢屋に入ってろ!」
サディが言うと、兵士たちがぞろぞろと部屋に入ってきてミエハリを取り押さえる。
「ええっそんなぁ! ひどい!」
助けを求めるミエハリの声を無視してサディは歩く。
「女王様、護衛もなしでは」
と言いながら、後ろから何人かの兵士がついてくる。
「くどい!!」
サディは一言叫ぶと、一人で城下町に出た。
通りすがりの町民は、皆珍しいものを見る目で見ていく。
「うそっ女王様?」
町民からすればサディが歩いている光景すら珍しいものだった。
しかも、サディの服装は一際目立つ。
黒いレオタードに、網タイツ、高いハイヒール、腰に当たり前のようについている鞭。
サディはこの服装を普通と思っていた。
自分がこの町でどれだけ浮いているかも知らない。
そんなサディには、オタッキーが服装を見て笑う理由ももちろん分からなかった。
「勇者はどこだ!」
サディは人目を気にせずに勇者を探す。
だが、それらしき姿は見当たらない。
そもそも勇者が目立つ格好をしているという考え方が間違っている。
今まで来た奴がみんな赤マントをおしゃれで着ていただけだったのだ。
そう自分の頭に言い聞かせるサディの目に、見覚えのある赤マントの姿が入った。
「あっ女王様じゃないですかぁ」
間違いない。
このやる気のない喋り方に、手に持った玩具の剣。
最初のドM勇者マッゾだ。
「お前死んだのではなかったのか!?」
「やだなぁ。勝手に殺さないでくださいよぉ。僕は最強の勇者様ですからねぇ。真っ黒になったと見せかけて無傷だったんですよぉ」
「逃げただけだろ」
「だから最強なんですよぉ」
マッゾは腕を組んでにやけている。
「じゃあイ=ヤーンも倒してきたらどうだ」
「えっいいですよ? だってあのビンタ気持ちいいし」
サディは思う。
マッゾを囮にして自分が戦えばいいのだと。
もう勇者を探す時間はない。
サディはマッゾを連れて例の草原に行った。
「イヤ~ンさんどーこでーすかー!」
マッゾはイ=ヤーンを呼ぶ。
近くの草むらに隠れてサディが魔王の出現を待つ。
「あらぁ、アタシを呼んだかしらぁ?」
魔王はすぐに降りてきた。
「あ! アンタ、この前のドMキモキモ変態男!」
「そうですよぉ。よく分かりましたねぇ。でも変態魔王のイヤ~ンさんに言われたくないなぁ」
「誰が変態ですって?」
魔王がビンタの構えをとる。
「ビンタですか? どうぞどうぞ……ぶへっ!」
腕が振り下ろされた。
マッゾは魔王のビンタを笑って受け入れる。
そのままマッゾは十メートルぐらい吹っ飛んだ。
ビンタ一つで、サディも飛ばされそうなぐらいの風が吹いた。
「あ~気持ちいいなぁ」
「アタシは変態じゃないわ! 心はオトメなのよ!」
魔王は自分が乙女であることを主張する。
マッゾはそれを全く聞いていない。
「多分カメラさんも僕を映しているよ思うんで、そろそろいきますよイヤ~ンさん!」
マッゾが玩具の剣を持って走る。
マッゾにとって悲しい現実だが、ここにカメラマンはいない。
「ええーい」
大きな魔王の足にマッゾの剣が当たった。
だが、魔王はびくともしない。
「そんなのでアタシは倒せないわよ?」
いくら見た目は剣でも、玩具で魔王は倒せないのはサディも分かっていた。
魔王は定番の雷を落とす。
今度こそ、マッゾは真っ黒になった。
「うーん最高」
雷に打たれてもなおマッゾは笑っている。
「このイ=ヤーンを倒すのはアンタにはムリよ! フン!」
そう言って魔王は去って行った。
何も出来なかったサディは、草むらで呆然としていた。