時間戦士は永遠の夢を見るのか・番外編「私は私」
<火曜日>
二人は博物館への道のりを歩いていた。相変わらず、興味深げに辺りを見回しているアミカナに、志音は声をかけた。
「どうだった? この世界での初めての夜は?」
彼女は肩をすくめた。
「そうね。優雅に過ごす……って訳にはいかなかったかな?」
志音は苦笑した。そんなホテルを選んで泊まらせたのは彼だったが、ホテル代を払ったのも志音だった。
「……まあ、4000円の格安ビジネスホテルだしね。よく眠れた?」
「あー、まあまあかな?」
彼女は曖昧に答えた。
彼は改めて彼女の姿を見返した。昨日買わされた服の上下を、彼女は今日も着ていた。
「ねえ、未来から服は持って来なかったの?」
「ええ。持ってきたのはボディスーツと標準火器だけよ。時間転送には膨大なエネルギーが要るからね」
「じゃあ、原理的には持って来れるんだ」
「ええ。何で?」
志音は頭を掻いた。
「いや、昔見た映画では、未来からは生きたものしか過去に送れなくて、未来人は素っ裸だったから……」
彼の言葉に、あからさまに顔を顰めると、彼女は体を庇うように両腕を抱えた。
「……ちょっと、いやらしい目で見ないでくれる?」
「いや! そんなつもりじゃなくて……」
慌てて手を振る志音のリアクションに、彼女は満足そうに微笑んだ。
「……で、その映画の未来人は、その後どうしたの?」
突っ込みの役割を終えた両手を後ろに組んで、アミカナは志音に顔を近付ける。
志音は安堵した。そういうことね……
「ええと、素っ裸のまま、現代人から服を強奪してた」
彼女は噴き出した。
「はっ、荒唐無稽ね」
……今度は自分の番か……志音は、やれやれ、という表情を作った。
「……僕も、服代は強奪されたけどね……」
彼女は目を瞠ると肩をすくめた。
「ああ、ごめんごめん。えーと、任務が完了したら返せると思う……」
志音は微笑んだ。
「……まあ、いいけど……」
一通りの軽口を交わし終えると、彼女も笑顔を見せた。ふと、前を見据える。
「……それにしても……生きたものだけか……」
感慨深げに呟く彼女に、志音は眉を顰めた。
「何?」
苦笑したアミカナは小さく頭を振った。
「いえ、脚本家、なかなかいいところ突いてくるな、と思って」
「そう?」
「で、その未来人はどうなるの?」
彼女に聞かれて、志音は腕を組んだ。
「えーと、どうなるんだっけ?……確か、溶鉱炉で溶かされたような……あれ? 違ったっけ? とにかく、使命を果たして、そのまま死んだはず」
「……ふーん……」
アミカナは天を仰いだ。その声音に、志音は眉を顰めた。
「何?」
「いい脚本ね」
「……あ!」
今更ながらにデリカシーのなさに気付く。しかし、若干の違和感はあるものの、彼女が未来人であることを実感させるような要素はほぼない。そもそも、本当に未来から来た人なのだろうか?……
「何?」
「ごめん、何か……その……縁起悪い話しちゃって……」
志音の言葉に、彼女は彼の顔を見つめた。やがてニッコリと微笑む。
「別に構わないわ。映画は映画よ」
そう言うと、彼女は再び前を見据えた。
「そして、私は私……」
二人の前には、コンクリート打ちっぱなしの博物館が見えてきていた。不意に、アミカナは志音の腕を取る。
「ねえ、入館料も強奪していいかな?」
何度目かのおねだりの笑顔に、志音は肩で息をついた。
「はいはい……」




