箱詰めの死神
漆黒の深淵を、小さな鉄の箱が漂っていた。
「艦長専用」の偽造IDで射出された緊急脱出ポッドの内部は、吐き気がするほどの血臭と、焼き付いた回路の異臭が混濁している。
床に伏した男は、肺に残った黒い血を吐き出した。
全身を包帯代わりに引きちぎった布で縛り、欠損箇所を無理やり止血したその姿は、生身の人間というよりは、壊れかけの機械に近い。
「生きてるか……?」
カイロは狭い座席に深く背を預けて、呟いた。
彼は感情を失ったその瞳の奥では、冷徹なまでの「演算」の光が明滅し続けている。
砕かれた右膝を気にも留めない。
「……ああ。……クソみたいな、死に方だけは……御免だからな……」
ロイドは懐からドッグタグを取り出した。
あの高圧処理室で「資源」として潰された、あの隊長のものだ。
ロイドはそれを、乾いた血がこびり付く指で強く、白くなるまで握りしめた。
「システム上、俺たちはあの船で死んだ。……これからは、亡霊の時間だ」
カイロが端末を操作すると、ディスプレイに目的地が列挙される。
宇宙を漂う支店母船。
地上にそびえ立つ、きらびやかな本社ビル。
二人の死神を乗せた鉄の箱は、闇の彼方へと溶けていった。
極限状態の密室で育つ殺意の純度が知りたくて執筆しました。
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