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泥濘を這う執念

遠くで、何かが軋む音がした。

……いや、それは自分の骨の音だったか。


「……ガハッ……ッ、ゲホッ!」


肺に溜まった血混じりのヘドロを吐き出す。

意識が、泥の中から引きずり出されるように覚醒する。

視界を埋め尽くしていたのは、船体が二つに割れた際の衝撃でひっくり返った、スクラップと死骸の山だった。


重い静寂。

さっきまで耳を劈いていた警報も、廃棄物を粉砕していたプレス機の駆動音も、今はもう聞こえない。

ただ、断裂した配線から漏れる青白い火花の音と、自分の、不規則でひりついた呼吸音だけが、この「墓場」に響いている。


ロイドは、自分の上に重なっていた鉄屑を、まだ動く右腕だけで押し退けた。

「……クソ。……痛ぇ……、ガハッ!」


ドクン、と。

心臓が、怒りで破裂せんばかりに脈打った。

静寂が深い分、その心拍音は耳元で鳴らされる太鼓のようにうるさい。

左腕は肩から先が動かない。全身が、裂けた肉の熱さで焼かれている。

だが、その激痛さえ、艦長への殺意に火を注ぐ燃料に過ぎなかった。


(ああ、そうだ。……生きてるぜ、艦長。お前がゴミと一緒に捨てた、この『不良品』はよ……!)


ロイドは、折れた鉄パイプや瓦礫の山をかき分け、這いずり回った。

指先が冷たい金属に触れる。自分の愛銃だ。


兵士としての理性など、どこにも残っていない。

今のロイドを動かしているのは、脳にこびりついた艦長の薄笑いを、この銃で、至近距離から木っ端微塵に吹き飛ばすという執念だけだ。


「……あが、……あぁぁぁぁッ!!」


ロイドは、垂直にそびえ立つ梯子に手をかけた。

一歩、また一歩と。死体としてシステムに処理されたはずの自分を無理やり動かし、地獄の底から、這い上がっていく。

一歩登るたびに傷口が開き、熱い鮮血が梯子を伝って下で待つ死骸の山へと滴り落ちる。


だが、彼は止まらない。

ダクトの奥から漏れてくる微かな振動を、艦長の「喉笛の震え」だと思い込み、食らいつくように登り続ける。


(待ってろ、クソが。……今、殺しに行ってやる)


司令室へ続くダクトの入り口。

はるか遠くに見える、歪んだ光。

その瞳は、もはや人間のものではなかった。

管理システム上のバイタルは「0」のまま。

死神よりも深い殺意を宿した「幽霊」は、暗い穴の中を、獲物の首を目指して這い進み始めた。


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