二度追放された聖女ですが、実は物理魔法最強の【地獄の戦車】でした。王子を奪った兄王子を粉砕しに行ったら、確信犯の王子に魔法を封印されて独占されました。一生添い遂げる為に?ならやりましょう、王子【完結】
私は二度、追放された聖女です。
前職を追い出されてなった王子の教育係だけど、今度は王子が追放されてしまう。
私の教育が悪かったのかしら?
◇◇
「聖女、窓の外に、うさぎの親子がいるよ」
居間の窓の外を見て王子が言う。
「今夜の夕食にしましょうか? 王子」
「うさぎの親子が可愛いって言ったんだよ……」
国境の城砦で私と王子は文字通り二人っきりです。
かつては戦場として賑わってた場所だと言うのに、寂しい限りです。
また、隣国との戦争にでもなれば賑わうんでしょうけど……。
「暇ですよね? 王子。隣国に攻め込み……」
「とっても忙しいです! 聖女!」
……。
◇
なぜ、王子が追放されたか?
兄王子から不当に扱われていた部下を庇ったからだと言います。
王子は王国の騎士団を任せられているくらいに偉くて人望があります。
しかし、
一度は庇われた部下が、もっと理不尽な要求を兄王子からされて、王家の秘宝の誰も扱う事が出来ない神剣を隣国に送ろうとしたんです。
これで、以前庇った王子の立場が悪くなり追放されることになりました。
王子の行動は真っ当ですし、私の教育は間違っていなかった。
まあ、教育係になって三ヶ月しか経っていませんが。
ともかく、私は辺境で王子と楽しく生きて行こうと思います。
「……うさぎじゃなくても、肉は必要です。今度町に行ったら狩猟の道具を買って来ないといけませんね」
「聖女、罠よりお肉を買いましょう」
◇
「良いんですか、王子? こんなにたくさん罠を買ってもらっちゃって」
王子と町に買い出しに来ました。
嫌がっていたのに、王子は狩猟の罠をたくさん買ってくれました。
「聖女が喜んでくれるのが一番だからいいんです」
「王子……、私と王子があの場所で一生二人きりで生きていける環境を整えるのが仕事ですから、任せて下さい! あ、菜園用のタネも買っていいですか?」
「はい! 聖女、一生一緒ですよ! 絶対ですよ! 僕も手伝うから、罠と野菜の作り方を教えて下さい」
「はい、私は王子の教育係ですから、一生教育しますからね、王子」
王子と私で話しながら町を歩いていたら、話し声が聞こえてきました。
「王都では兵士の脱走が続いているらしい」
「第二王子が兵士たちをまとめていたのに追放されちまったからな」
「平和な国だったのに、第一王子が王になったらこの国はおしまいだな……」
王子は険しい顔で話している男たちを見つめています。
楽しく私と話していたのに……。
「気にしてもしょうがないですよ。王子を追放した国が自滅しようと、どうでもいいじゃないですか? いらないと言われたらしょうがないんです」
「聖女は僕の教育係になる前の仕事を追い出されたんですよね? もう未練はないんですか?」
「天職だったので、未練はありましたけど、王子の教育係の方が楽しいですから、追放されて良かったですよ。王子は私と一緒の生活は楽しくないですか?」
「最高に楽しいです! 聖女!」
◇
街で買い出ししたお肉を焼いていると、城砦に人が訪ねて来ました。
「第二王子、助けて下さい」
王都から脱走して来た兵士のようです。
「第一王子の横暴で、軍はめちゃくちゃです! 隣国に亡命する者も出始めています。王様が第二王子に戻って来て欲しいと嘆いています」
王子は苦悩の表情で元部下の話を聞いています。
「みんな、第一王子が卑怯な手で、第二王子が庇った部下が隣国と通じているように装っていたのは知っていたんです。ただ、どうしても証拠が見つからなかった。証拠さえあれば今すぐにでも追放を解けるのですが……」
「王子、お肉が焼けました」
「聖女……」
「自給自足の為に作った、庭の菜園の野菜も芽を出し始めているんですよ?」
「……」
「私たちを追放して苦しんでるような無能な王たちの代わりに第一王子に引導を渡しに行くなんて馬鹿げてます。顔を合わせるのも時間の無駄ですよ。私と隣国を攻める暇もないくらい王子は忙しいんですからね?」
「……はい……」
しゅんとする王子。
「聖女様! お願いします! 王都ではみんな困っているのです」
「困っているからなんなんですか? 死んでから来てください。骨くらい拾ってあげますよ? 復讐するなら血が流れてからです」
元部下は帰って行きました。
少しだけ覚悟を持った顔になっていた気がします。
彼ならやるのではないでしょうか?
「せ、聖女! あんな事を言ったら彼が命を無駄にしてしまう」
「王子、私は骨は拾うと約束しましたから、無駄ではありません」
「いや、助けるつもりがあるなら今やりましょう!」
「でも、せっかく罠もたくさん買って、王子と仕掛けられると楽しみにしていたんですよ? 王子は楽しみじゃなかったの……」
王子と気持ちがこんなにずれていたなんて……。
「た、楽しみですよ、聖女! でも、罠を仕掛けた後に、王都に行かなければいけなくなったら罠が無駄になってしまいますから。せっかくの聖女と二人の生活が始められません……」
王子の言葉にハッとする。
「確かにそうです……!」
私は居間の引き出しに隠してあった、バングルを右手に装着します。
「……王子といると幸せすぎて勘が鈍っていたみたいです。元部下を追いかけるんでしょう、王子? 付き合いますよ!」
「あ、ありがとうございます! 聖女!」
◇
元部下さんに追いつくと、涙を流して感謝されました。
本当にホッとしている様子で、命を捨てる覚悟があったのは素晴らしいですね。
「兄上は王都にいるんだよね?」
王子が元部下に聞いています。
「いえ、今は軍の訓練施設にいます。じきに王都に戻る予定で、僕たちが王都に着く三日後には第一王子も王都に帰っていると思います」
「なら、王都に向かおう、聖女」
王子が私に言いますが、訓練施設なら行った事があります。
「第七訓練場なら、一度行った場所に移動できる因果帰還で行けます、王子! すぐ行って帰ってこれますね!」
「因果帰還って、伝説の大魔法じゃないですか!? 聖女様が何故そんな魔法を!?」
元部下が驚いていますが、
「私は王子の教育係なので」
私はバングルをはめた右手に魔力を集める。
途端に三人の立つ地面に魔法陣が展開される。
「因果帰還、座標:第七訓練場へ直結!」
魔法陣が下から競り上がって来たと思ったら光に包まれて飛び上がる。
あっという間に第七訓練場の城門前に私たちを下ろすと、魔法陣は地面に沈むように消えた。
「す、すごい!! これが移動魔法!!!」
元部下がものすごく騒いでいます。
「ははは、僕の聖女はすごいだろ!」
「僕の“教育係”の聖女ですよ、王子」
王子だって最初にこの魔法を見せた時は、元部下さんと同じ反応でした。
「兄上はだいたい王族専用の宿泊所に滞在しているはずだ。行きましょう、聖女」
「はい、王子。お供します」
◇
因果帰還で、あっという間についた訓練場ですが、歩いて移動するとなるとかなり広いです。
「大丈夫ですか? 聖女」
王子は心配してくれますが、元部下の方が辛そうです。
情けないと言いたいところですが、王子を訪ねるまでも、歩き続けて、更に休まずに移動となれば大変でしょう。
もちろん、私ならその状態でもなんともありませんが。
「休ませてください……」
元部下さんはさすがに倒れてしまいます。
「聖女、夜に移動しなくても、明日でいいんじゃないですか?」
「……そうですね。夜には門番は門を開けてくれないでしょうからね。物理的に破壊することもできますけど……」
「キャンプです! 聖女」
王子が持って来ていた即時展開式簡易拠点を展開する。
今日は、ここでキャンプです。
私はいつものように王子に寄り添って眠りました。
◇
朝目が覚めると、王子がいません。
朝、目が覚めて王子の腕に抱きついていないなんて、教育係失格です。
元部下もいない……。
……それはいいけど。
即時展開式簡易拠点の外に出ると、目の前に血の跡があります。
……。
これは、もしかして王子が……。
そんな、まさか……!
第一王子ぃぃ……、私の大事な王子をよくも奪っていったわね!?
ブチッ!
私の中で何かが切れました。
「高速行軍、距離設定、無限」
第一王子のいる宿泊所へ通常の十倍の速度で移動。
私の身体を包む青い光が訓練場の側の森の木々を薙ぎ倒しながら進みます。
風は爽快だけれど、王子を奪われた痛みは、こんな事で晴れるはずもない。
門の前で停止すると、右手のバングルを掲げて物理魔法を詠唱する。
物だけを破壊して人間は傷つけないと言う単純な初級魔法だけど、私が使えば効果は百倍になる。
王子が、人を傷付けたら悲しむから……!
「解体、対象固定、レベル木っ端微塵」
右手から爆風が門に向かって放たれると、風に当たった門が砂のように粉々に崩れて行く。
人に対しては効果がないから、門番の兵士が粉砕された門を呆然と見つめている。
人に効果はないと言っても、門の上に人がいれば真っ逆様に落ちてくる。
今回は運良く誰もいなかったようです。
まあ、落ちて足の骨でも折れていれば戦えませんが、無傷なら私と戦う必要があるので、どっちが運がいいかは分かりませんけど。
門番たちが私を見ている。
王子が悲しむけど、歯向かってくる敵には容赦はしませんよ。
だって、私が傷ついたら、王子がもっと悲しみます。
「対戦よろしくお願いします」
けれど、わーっと門番たちが逃げ出す。
「王国特殊聖女部隊だ!」
「解散させられたんじゃなかったのか!?」
「あれは物理魔法最強の地獄の戦車じゃないか!」
あら? 同じ訓練場で訓練していただけあって、王国特殊聖女部隊の名が轟いていたようです。
私の二つ名まで知っているとは。
対戦相手がいなくなったら、私の怒りはどこへぶつければいいの?
もちろん、私から王子を奪った、第一王子に私の怒りを全て叩き込んでいたぶってやりましょう。
私から愛する王子を奪った罪は重いのです。
◆
「では、今後はこの様な事はおやめ下さい、いいですね、兄上?」
訓練施設の王族の宿泊所に保管されている、僕の追放のきっかけになった国の秘宝の“誰も扱えないはずの神剣”を突きつけて言う。
「はい……!!」
政治的に有能で、僕を追放に追いやった兄上は呆気なくうなづいた。
少しだけ力を使って見せただけなのだが。
部屋の隅っこで縮こまる兄上の姿を見ると、今後は横暴もなくなっていくと思えた。
「お、王子……」
朝、目が覚めていなくなっていた元部下も僕の力を見て怯えている。
かなり手加減したんだけど、やりすぎたか?
本気で力を使ったことがないから、いまだにどれくらいの制御が正解なのか分からない。
王国特殊聖女部隊も強すぎて手に負えないと解散させられているし、平和な時代に力を持ちすぎても扱いに困ってしまう。
聖女はどうしているだろうか?
一人置き去りにする形になってしまったが怒っていないだろうか?
まあ、怒って追いかけて来てくれる事を期待しているんだけど。
正直なところ、元部下が兄上の命令で攫われた時の血溜まりを見ても、元部下を助けに行くべきかどうか迷った。
聖女の身の心配はしていないが、怒り狂った聖女に破壊される訓練施設の損害を考えたら聖女の側にいるべきだった。
けれど、元部下の生命には代えられない。
抱きしめてもキスしても起きない、朝に弱い聖女を残して、僕は兄上のところに来た。
ドドドドド
物凄い地響きと共に聖女が高速行軍でやって来る。
兄上と元部下の顔が青を通り越して真っ白になっていた。
恐怖でガタガタと震えている。
まさに地獄の戦車が近づいて来ていた。
高速で部屋に入って来る聖女に即座に僕は魔法を放つ。
「損害零」
即、聖女の周りに魔法陣が展開される。
「王子! やっぱり第一王子の所に来ていたんですね!」
僕が聖女より第一王子を優先させたことに怒っている。
僕への独占欲に塗れた聖女が可愛い!
聖女は魔法陣に抵抗しようとするが、魔法陣は聖女の魔力を飲み込んで身体の中心に収束していく。
これで聖女は魔法を使えなくなった。
神代の魔法で、現在使えるのは僕を除いて一人か二人いるかと言う究極魔法だ。
ガクッと聖女は膝をつく。
こんなものでしか止められない聖女も聖女だが……、これでしか止められないから、聖女は僕のものになった。
「王子……、私より元部下や第一王子の方がいいんですか?」
聖女は可愛い顔で僕を見上げている。
「すみません。聖女は殺しても死なないから大丈夫だと思ったんです」
「王子に、信用してもらえて、教育係として嬉しいですけど……」
拗ねたように言う聖女。
地獄の戦車とはこんなに可愛いもののことなのか。
聖女はこんなに可愛いのに兄上はまだ震え上がっていた。
「第一王子、私より王子に優先されたあなたをいたぶってあげたかったんですが、王子に魔法を封印されてしまったので出来なくなりました。……あら?」
聖女が兄上に詰め寄った後に何かを見つけた。
聖女が拾い上げたのは、鞭だった。
何故こんなものが兄上の部屋に?
「いいものがありました。王子の教育係として、分からせてあげます」
聖女に妖しい笑みを向けられた兄上はちょっと羨ましくもあった。
「第一王子、対戦よろしくお願いします」
◆
三ヶ月前。
「王子、実は王国特殊聖女部隊が解散することになったのです」
「そうなんですか? すごい部隊だと噂を聞いていましたが」
「……凄すぎたのです」
老魔法使いの言葉には、何故か凄みがあった。
「しかし、解散と言っても彼女たちを野放しにするのはあまりにも危険過ぎるので、彼女たち以上の力を持つ方に監視役をお願いする事にしました」
「はあ?」
「地獄の戦車を王子様の教育係として引き取ってください」
「じ、地獄……? 教育係って、僕はもう成人してますから」
「そうでも言わないと、彼女が納得しないのでお願いします。監視してるとは絶対に言わないでください」
「はあ」
と言うわけで押し付けられた聖女だけど……。
「王子、私に何を教育して欲しいんですか?」
思った以上に可愛くて、もっと一緒にいたくなった。
追放は、証拠を集めて抗議すればされずに済んだけど、聖女と二人になれるなら、望むところだった。
むしろ、証拠は絶対に見つからないように処分した。
◇
王子と国境の城砦に戻って来た。
因果帰還で戻ったので、半日しか城砦を留守にしていない事になります。
王子のせいで、第一王子を魔法でいたぶることは出来ませんでしたが、鞭で思う存分ひっぱたいてやったので少し溜飲は下がりました。
元部下も王様の代わりに鞭で打とうと思いましたが、王子が止めるので断念しました。
「聖女は、復讐はどうでも良かったんじゃないんですか?」
王子様に聞かれました。
「探してまで復讐する様な事に価値がないだけで、目の前にいて喧嘩を売られたら、喜んで処理します。コストゼロですから」
王子がちょっと引いています。
前世で効率厨だった時の癖が抜けませんね。
「でも、今回は愛する王子を奪われたから、コスト度外視で追いかけたんですよ?」
「はい、聖女の愛をとても感じました!」
『タクティカル・セインツ:リソース・ウォー』
前世でハマっていたゲームです。
おかげでチート能力に目をつけられて王国特殊聖女部隊の一員にさせられてしまいました。
まあ、まさかあんなにガチ勢たちが転生してるとは思わず、本気で競い合ってしまいました。
最後まで、お姉様方には敵いませんでしたが、今はどうしているんでしょう?
私は、大好きな王子の教育係になって、追放されても幸せです。
(この聖女が敵わなかったお姉様って一体……)
◆
城砦に帰って来る直前。
「王子? 第一王子に引導を渡したのに、城砦に帰っていいんですか?」
「聖女は王都に戻りたいんですか?」
兄上には、僕は王都に戻るつもりはないと伝えてある。
でも、また何か問題を起こしたら、僕と聖女が来るぞとは脅してある。
聖女と言った時に少し嬉しそうだったから、兄上のために『損害零』を使う事はないと伝えたら、青ざめていた。
今回も聖女の壊した門を私財で直すのだから大変だろう。
元部下にも、王に僕が戻るつもりがないと伝えるように言ってある。
「私も王子と同じです。王子と二人きりになりたかったんです。このまま愚か者たちに、永遠に国の事は任せてしまいましょう」
聖女の言葉に絶句する。
「私、王子がわざと追放されたの知ってましたよ!」
イタズラっぽく笑う彼女は教育係失格だった。
「兄上はもう僕に一生逆らえない駒ですから、僕たちの追放生活を守るために、勝手に滅びないくらいに頑張ってもらいましょう」
「効率的な王国の影からの支配なら任せてください。王子との二人っきりの生活の為ですから、コスト度外視の教育で王宮を支配下におきますよ」
本当だったら国の為に使う僕と聖女の力だけど、ただ二人だけの為に使う。
極上の贅沢で、辺境の城砦が国一番の幸せな場所になる。
「僕とずっと一緒で、添い遂げましょうね、聖女」
「はい、王子」
怖いくらいの幸せに永遠に包まれる。




