09
悠 「…澪。もう一度だけ聞いても良いか?澪が死んだ理由。」
澪 「…」
悠 「…親父は如月家が澪を狙ったんじゃないかって言ってた。そうなのか?」
澪は俯いて首を横に振った。
澪 「…自分から飛び降りたよ。自分の意志で。」
悠 「っ…どうして…生きてたらさ、いっぱい楽しいことができたじゃんか。今日みたいにさ…」
澪 「…できないよ。できなかったの。」
悠 「…こんな家だったけどさ、澪のおかげで俺も親父も変われたんだよ。だから、そしたら…」
澪 「…変わってても変わってなくてもできなかったの。私…自分で死ななくても死んじゃう予定だったの…」
悠 「は…?」
澪 「…病気だったの…あんまり分かんなかったけど自分で調べて…治る確率は低いって見た。」
悠 「えっ…で、でも、治療すれば良かったんじゃないのか?」
澪 「…治療続けないといけないんだよ。ずっと。そんなお金ないじゃん。それくらい分かってる。」
悠 「そ、そんなの俺や親父も頑張ってそれくらい稼ぐよ。」
澪 「…ずっとずっと迷惑掛けるの。お兄ちゃんは大学も行けなくなっちゃうし自分の好きなように生きれなくなっちゃうの。嫌なの、そんなの…」
悠 「…前も言ったじゃんか。俺、澪のためなら疲れても無理しても良いって。全然、苦じゃないって…」
澪 「…死んでから聞いたよ。死んでからお兄ちゃんもお父さんも変わった。前は、話もしないし、話しようとしても誰も聞いてくれなかった。」
悠 「っ…」
澪 「…お母さんが亡くなってから全部変わった。あれからお兄ちゃんともそんなに話せなくなって感情を出すのが怖くなった。迷惑を掛けるのも怖かった。お兄ちゃんが私のためにバイトしてくれていたのも勉強頑張っていたのも全部全部…知らなかった…迷惑掛けても良いんだって思えなかったの…」
悠 「…」
澪 「…私が死んだらお兄ちゃんたちに迷惑を掛けなくて済む。それだけ思った。でも、死ぬときにお兄ちゃんのことを思い出して…お兄ちゃん、あの火事はお母さんの自殺だと思ってて、自分だけ置いて行こうとしたって思ってたでしょ?そうじゃなくて違うんだってことを教えたかっただけなの。お母さんはお兄ちゃんのことも私のことも大事にしてくれていた。」
悠 「…それが俺への未練…?」
澪 「…うん。」
悠 「…あのとき、話聞いてやらなかったから…」
俺は自分の目から涙がこぼれるのが分かった。
澪 「…バイトも私のためだって知らなかった。また、私は置いて行かれるんだって思った。お兄ちゃんの気も知らないで…」
悠 「…ごめん…分かるわけないよな…俺、言ったことなかった。言わなくても時間が経てば伝わるもんだって思ってた…ごめん…」
澪 「…」
悠 「…病院も…一人で行ってたんだよな…ごめんな…一緒に付いて行ってやるべきなのに…」
澪 「…違う。私も言ってなかったから。何も伝えないで死んじゃったから…」
悠 「…家族だからって甘えてたよ…」
澪 「…」
澪も泣いてしまって俺も涙が止まらなくなった。
しばらくすると澪は俺の手の上に手を置いた。
澪 「…お兄ちゃん。」
悠 「…何?」
澪 「…少しの間だったけど、楽しかったね。前みたいな家族になれた気がした。」
悠 「…あぁ。」
澪 「…生きていてももしかしたらこんなに楽しい時間過ごせなかったかもしれない。それくらい、すっごく楽しかった。」
悠 「…俺も。物凄く楽しかった。」
澪 「…一緒に学校行ったりお兄ちゃんのバイト姿見たりお勉強しているところ覗いたりドライブしたり。本当にありがとう。」
悠 「…俺こそ。ありがとう。」
澪 「…お兄ちゃんがお兄ちゃんで良かったよ。」
悠 「…俺もだよ。でも…」
俺はまた涙があふれだした。
悠 「…勝手に居なくなんなよ…もう触れられないし話せなくなるし…喧嘩もできないんだぞ…?」
澪 「…私ね、死んだこと、後悔してない。昔と変わらずお兄ちゃんは優しい人のままだった。でも、死んでから分かったのはお兄ちゃんは優しすぎるってこと。お兄ちゃん、きっと私が生きていたら私のために何でも構わずやろうとする。自分を犠牲にしてまで私を守ろうとするでしょ?」
悠 「だって…俺は澪の兄貴だよ?」
澪 「…すごく嬉しいよ。でも、お兄ちゃんが苦しくなっちゃうと思うから。これからはお兄ちゃんもわがまま言いながら生きて良いんだよ。きっとお兄ちゃんのわがままも受け入れて大切にしてくれる人に出会えるから。」
悠 「…」
澪 「…お兄ちゃん。一つだけ、私もわがまま言って良いかな。」
悠 「…ん?」
俺は澪の望みを聞いて、親父の部屋に行って障子を開けた。
親父は障子の側の壁に背を付いて座りながら泣いていて、俺に気づいて涙を拭いた。
悠 「…親父、映画観ようぜ。」
澪を挟んで三人でソファに座り、澪がずっと好きだった映画を見ていた。
映画も終わりに近づき、澪も親父もぐっすり眠っていて、俺は二人に毛布を掛けた。
俺は、スマホのカメラで三人が写るように自撮りをして写真を見た。
悠 「…消えちゃうのかな。これも。」
時間は過ぎて澪を見ていると夜明けになり、また死神が現れた。
死神 「毎度おなじみ死神です。」
悠 「…澪、これからどうなるんですか?」
死神 「死後の世界にお連れします。そこでは、妹さんが痛みを感じることも苦しさを感じることもありません。」
悠 「…そうですか。良かった。」
死神 「…話せました?妹さんと。」
悠 「…はい。」
死神 「そうでしたか。ここまで強い未練を残した子は久しぶりなのでね。特別サービスしちゃいました。では、そろそろ。」
悠 「…あの、前みたいに…連れて行くんですか…?」
死神 「良く眠っていますね。では…」
死神は澪を抱き上げた。
死神 「こうやって連れて行きます。」
悠 「…ありがとう。澪、元気でな。」
死神 「ふっふっふっ。死人に元気でとは面白いですね。死後の世界で元気に過ごせますね。」
悠 「…澪のこと、よろしくお願いします。」
死神 「もちろん。お任せください。」
扉が急に現れ、死神は澪を連れて扉の中に入っていき、俺に向かってお辞儀をした。
扉はだんだんと消えていき、澪が居なくなった家は少し広く感じた。
俺は、親父の隣で目を閉じて眠り、昼過ぎに起きると上に俺が昨日澪たちに掛けたはずの毛布が掛かっていた。
机には置き手紙があって、親父は仕事に出掛けていた。
俺は部屋に戻って澪との捜査日記を見た。
悠 「…本当に澪は傍に居たんだよな。」
俺は捜査日記を大切に机の中に仕舞った。




