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伝わらないこと、伝えたいこと  作者: 仙夏


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06

親父が部屋に戻ると俺も部屋に戻って捜査日記を開き、分かったことを書き出した。

澪 「…お兄ちゃん。」

悠 「ん?」

澪 「…如月家じゃないかも。お母さん、殺したの。」

悠 「えっ?」

澪 「…あの建物の近くに生贄になった女性たちの幽霊がうようよ居たの。話を聞いたら、あの火事の日は捧げられた生贄の人が別に居た。」

悠 「…母さんは生贄になるために殺されたわけじゃなかったってこと?」

澪 「…うん。それに、腕に火傷の跡がある人間を朧ヶ淵村で見たことはないって言ってた。」

悠 「…じゃあ、誰が…」

澪 「…お兄ちゃん。もう調べるの止めようよ。私、お母さんが自殺じゃないってお兄ちゃんが分かってくれれば本当にそれで十分なの。」

悠 「…でも、俺らの母さんだよ?母さんは子どもを巻き込んで自殺しようとした母親だって報道されて、母さんを非難する声もたくさんあった。もし、本当に殺されたんだとしたら、俺は真実が知りたいし、それを報道してほしい。」

澪 「…」

俺は次の日からも火事について調べていたけど結局何も分からなかった。


俺は並行して試験勉強も進めていて、図書館や家でも勉強をする時間が長くなった。

澪は静かに隣で座っていることも多かったけど、俺は試験の度に襲ってくる不安感でときどき澪にイライラすることもあった。

今日もいつもどおり図書館で勉強していると澪は隣で外を眺めていた。

悠 「…何で、何でもかんでも俺に付いてくんの?」

夕方の人が少なくなった時間に本を選びながら俺は聞いた。

澪 「えっと…邪魔だった?」

悠 「…いや、聞いてみただけ。」

澪 「…私が見えるの迷惑?」

悠 「えっ、そんなんじゃないよ。」

席に戻って勉強を再開し、閉館の時間に学校を出ようとすると澪は見当たらなかった。

悠 「…澪?澪。」

探しても見つからず、夜になってアパートの前の家で飼われている犬を見ていた澪を見つけた。

悠 「…澪。」

澪 「…」

澪は立ち上がって無言で家に向かった。

家に入ると、澪は俺の部屋じゃなくて自分の部屋に向かった。

悠 「…その部屋、掃除してないんだけど…」

俺が澪の部屋の障子を開けると、掃除をしていなかったはずの部屋はきれいに掃除されていて、澪の机や物はそのままだった。

悠 「…親父…」

澪 「…」

澪はベッドに横になって目を閉じた。

悠 「…澪、ごめん。邪魔なんて思ったことないよ。俺もさ、毎回毎回試験前はこうで…ごめん…」

澪 「…」

澪は起き上がってベッドに座り、俺も隣に座った。

悠 「…俺、奨学金で高校行ってるんだ。だから、学年一位を死守してないといけなくて…」

澪 「…そうだったんだ。知らなかった…」

悠 「…俺くらい奨学金で学校行かないとさ、澪がもし大学行きたいって言ってもこの家の家計じゃ無理だからさ…」

澪 「…お兄ちゃん、バイトしてたのも私のためでしょ?」

悠 「…まぁね。澪も高校生になるし、高校って制服とか教科書とか何かとお金が掛かるから。でも、何で分かったの?」

澪 「…お兄ちゃんの部屋にあった高校のパンフレット、今年のだったし、女子高のもあった。」

悠 「見たの?」

澪 「…あの人がごみ集めしているときに見てたから。」

悠 「あぁ、こないだのね。寝ててガサガサ聞こえるから何かと思った。いやぁ、女子高とかいくら掛かるか分かんないじゃん?」

澪 「…ごめんね。いっぱい我慢させてきた。」

悠 「…俺、一応兄貴だからね。」

澪 「…私が何も言わなくてもピンチなとき、お小遣いを机に置いてくれてたよね。」

悠 「…何も言わなくても助けるんだよ。それが家族だし、何も言わなくても妹が困ってたら助けんの。それが兄貴なの。」

澪 「…でも、何も言わなきゃ…何も分かんないよ…」

澪は急に泣き出して俺は驚いた。

俺は背中を擦ろうとして手を止めた。

触れたくても…もう…

悠 「…俺、我慢してるって思ったことないよ。まぁ、あの火事がなきゃ、もっと伸び伸びしてたかもしれないけど。でも、俺は好きでやってたから。澪のためって思えば疲れても嫌じゃなかった。」

澪 「…」

悠 「…」

澪 「…試験が終わるまで姿消してようか?」

悠 「…ううん。隣にいてほしい。」

澪 「…ふっ、分かった。」

俺はその日から澪と一緒に勉強し、一週間後の試験では学年一位を死守した。


そして朧ヶ淵村の件から三週間が過ぎて、俺は親父と親父の実家に出掛けた。

父 「今日も澪は居るのか?」

親父は、車を運転しながら後部座席に座っていた俺に聞いた。

悠 「居る。後、部屋掃除してくれてありがとうってさ。」

父 「あっ…あぁ。本当に居るんだな。」

悠 「だからそう言ってんじゃん。」

父 「…お前、澪のこととか無駄な心配をしていたようだが、お前たちの学費くらいきちんと準備している。」

悠 「っ…て、てか、何しに行くの?親父の実家、久々なんだけど。」

父 「何となく、気が向いてな。」


親父の実家に着くと親父は俺と澪の祖父母の仏壇に手を合わせていた。

叔父 「兄さん。久しぶりだね。」

父 「あぁ。急に邪魔して悪いな。」

叔父 「良いや。澪ちゃんのお葬式以来か。」

父 「…あぁ。」

親父はコンビニに買い出しに行き、俺は叔父と縁側に座った。

叔父 「悠君は元気にしてた?」

悠 「はい。」

叔父 「それは良かった。澪ちゃんのことで落ち込んでるんじゃないかと心配していたんだ。あの兄さんでさえ、気落ちしていたから。」

悠 「…」

他愛もない話をして時間を潰していると親父が帰って来て弁当と飲み物を置いた。

叔父 「…何で、弁当が四つ?」

父 「気にしないでくれ。」

俺が一つの弁当を澪の前に置くと親父はその隣にお茶を置いた。

澪は嬉しそうに笑っていた。

親父と叔父の話を聞きながら弁当を食べていると親父が叔父の方にお茶を倒した。

父 「あっ、すまん…」

叔父の服の袖が濡れてしまい、親父が拭こうとすると叔父は腕を捲った。

叔父 「これくらい良いよ。後ですぐ洗濯するから。」

すると、俺は自分の見えたものに目を見開き、澪を見た。

叔父の腕には大きな火傷の跡があった。

父 「っ…その火傷、どうしたんだ?」

叔父 「えっ、あっ、何でもないよ。」

父 「…」

澪は、叔父を見ながらポロポロと涙を溢し始めた。

悠 「澪…」

父 「えっ?」

親父は澪の弁当がある方向を見た。

父 「澪がどうした?」

悠 「泣き出しちゃって…」

父 「…」

叔父 「何?澪ちゃんって…何の話?」

父 「…お前…」

親父は叔父に向かってそう言うと、急に立ち上がって俺の腕を掴んだ。

父 「…澪、行くぞ。」

叔父 「えっ、ちょ、ちょっと、兄さん?」

親父は車の後部座席に俺を押し込み、俺は澪が乗ってからドアを閉めた。

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