05
澪 「…良いとこあるんだね。あの人にも。」
悠 「…母さんが死んでからだからな。あいつが変わったの。前まではどこにでもいる普通の父親だった。」
澪 「…そうだったね。私たちのことを守ろうとしてくれていたなんて知らなかった。」
悠 「…火事のこと聞かなきゃ、一生聞けなかったかもな。」
澪 「…うん。」
悠 「でも、如月家って何だろ。聞いたことはないな。」
俺がパソコンで検索すると、澪も俺の隣から画面を覗き込んだ。
悠 「…事件絡みばっかだな。あっ、如月家専用の口コミサイトもある。」
澪 「…中部地方の山奥に如月家が仕切っている朧ヶ淵村っていうのがあるんだ。」
悠 「…知らなかったな。母さんにそんな秘密があったなんて。」
澪 「そうだね…」
悠 「…母さんの家系とは交流もなかったし、葬式でも会ったことないもんな。」
澪 「うん。父方の家系とも関係は深くないし、あまり気にしてなかったね。」
悠 「…今度の休み、行ってみるか?」
澪 「や、止めときなよ。あの人だって危険だって言ってたじゃん。」
悠 「でも、如月家を調べない限り母さんの件は解決できない。澪の未練も消えないんだ。行ってみるしかないだろ。」
澪 「…」
そして、次の休みに俺は澪と一緒に如月家が仕切っているという朧ヶ淵村に向かった。
ただ、朧ヶ淵村は結構不便な場所にある。
朧ヶ淵村の近くまで行けるバスが来るまで後四時間…
俺らは、バス停の側で座り込んで待っていた。
悠 「まじか…」
澪 「…ねぇ。」
悠 「んー?」
澪 「…帰ろうよ。私は、お兄ちゃんにお母さんは自殺したんじゃないって分かってもらえればそれで良いの。」
悠 「…駄目。ここまで来たし、俺にも意地はあるから。」
すると、一台の車が俺らの前に止まった。
車にはおじさんが一人乗っていた。
男性 「君、どこ行くの?ここのバス、なかなか来ないよ。」
悠 「あー、朧ヶ淵村に行きたいんです。」
男性 「…なら、乗りなよ。俺もその村の近くなんだ。」
悠 「えっ、いや…でもなぁ…」
俺が澪を見ると澪は首を横に大きく振った。
悠 「やっぱり大丈夫です。ありがとうございます。」
男性 「…そう。じゃあ。」
おじさんの車が行くと、澪は俺の側で震えていた。
悠 「…何か見えた?」
澪 「…人の首みたいなのがいっぱい。全部、女性だった…帰ろう、お兄ちゃん…」
悠 「…分かった。でもさ、帰る方向のバスも二時間後だぜ?」
澪 「…」
悠 「…まぁ、一時間くらいだし歩くか?」
澪 「良いの?」
悠 「澪が良いなら…って、疲れないんだっけ?」
澪 「うん…」
悠 「じゃあ、良いよ。帰ろう。」
俺たちが歩き出して少しすると、誰かに後を付けられている気がした。
振り返ると俺は急に頭を殴られて、その場で気を失った。
澪 「…ちゃん…お兄ちゃん…」
悠 「…っ…」
澪の声で目が覚めると、俺は手足を縛られていて知らない建物の中に入れられていた。
悠 「いって…澪、大丈夫か?」
澪 「お兄ちゃん、血が…」
俺が自分の頭を触ると手に血が付いていた。
悠 「…こんなの大丈夫。早いとこ、ここから出ないとな…」
手足の紐を解こうとしていると外から変な歌が聞こえ、急に俺が居た建物の一部が燃え始めた。
澪が外を見に行くとすぐに戻って来た。
澪 「村の人…ここ、朧ヶ淵村だ…」
悠 「まじかよ…っ、くそ…全然、解けないじゃん…」
澪 「…村の人も火を点けてここから走ってった…どうしよう…」
澪が泣きそうになりながら俺のことを見ていて、俺は必死に手足の紐を解こうとしていた。
悠 「げっほげっほ…澪、外に出ろ。」
澪 「嫌…嫌だ…」
縄も解けず、気を失いそうになってくると、急に外から声が聞こえた。
悠 「…親父?親父!」
父 「悠!居るのか?」
悠 「ここだ。助けてくれ!」
父 「少しそこから離れろ。」
俺が倒れ込みながらも何とか離れると急に斧で親父が建物を壊してくれた。
悠 「親父…」
父 「話は後だ。逃げるぞ。」
悠 「あぁ。澪。澪?」
澪を探すと澪は居なくなっていて、親父は俺の手足の縄を切った。
父 「行くぞ。」
親父に付いて建物を出ると、村人たちがこちらに走ってきていた。
悠 「澪!澪!」
父 「早くしろ!」
親父に手を引かれ、運転席に乗せられ、親父はすぐに車を出した。
悠 「待って!引き返してくれ!澪が!」
父 「お前、正気か?」
親父は村人を避けながら山を下り、俺はずっと後ろを見ていた。
悠 「澪…」
父 「…澪も殺されたんだよ。如月家に。目を覚ませ。」
悠 「は?如月家が?」
父 「…ったく、だからあの件に関わるのは止めとけって言ったんだ。このバカ息子。」
悠 「…でも、何で?」
父 「…嫌な予感がして、家のパソコンを見たら検索履歴に如月家と朧ヶ淵村への行き方があった。」
悠 「…そっか、それで…」
父 「…一度くらい言うことを聞いたらどうなんだ。お前は。」
悠 「…じゃあ、親父も頼む。これから何でも言うこと聞くから。車を停めてくれ。」
父 「…ったく…」
親父が車を停めると俺は車を降りて澪の名前を呼んだ。
しばらく待っていても澪は現れなかった。
父 「…行くぞ。」
悠 「…親父、ごめん。俺、探しに行く。」
父 「はっ、はぁ?おい、待て!」
俺が走り出そうとすると、俺を呼ぶ声が聞こえ、振り向くと澪が居た。
悠 「はっ…澪…」
澪 「ごめん。遅くなった。」
悠 「はぁ…良かった…」
父 「澪…?」
親父は車を降りて俺の側に来た。
悠 「…俺、見えるんだよ。」
父 「…」
親父は目の前の空間に手を伸ばした。
澪は、寂しそうにその手を見ていた。
すると、後ろで爆発音が聞こえ、山が燃えていた。
父 「っ…話は後だ。お前たち、車に乗りなさい。」
澪と一緒に車に乗ると、親父は車を出した。
親父はときどきバックミラーで後ろを確認していて、村人が来ていないか確認していたのかもしれないし澪が見えないか確認していたのかもしれない。
夜中、俺は近くの病院で検査を受けて帰りの車の中はずっと眠っていた。
気付けば家に着いていて親父に叩き起こされ、家に戻った。
家に着くと親父はリビングの机に座り、俺と澪もその前に並んで座った。
父 「…それで、本当に居るのか?澪。」
悠 「居る。」
父 「…そうか。お前にだけ見えるんだな。」
悠 「…そうみたいだな。」
父 「…では、お前たちに話す。もう絶対に如月家に関わるな。お前を閉じ込めたのも、火を放ったのも如月家の指示だ。」
悠 「…分かったよ。」
父 「…澪は?」
俺が澪を見ると澪も頷いた。
悠 「分かったって。」
父 「なら、良い。さっさと寝ろ。」




