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伝わらないこと、伝えたいこと  作者: 仙夏


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3/10

03

家に帰ると澪は俺の机の椅子に座った。

澪 「何なの、あいつ。」

悠 「…あんなの気にすんなって。それより、今日は捜査しなくて良かったのか?」

澪 「…うん。お兄ちゃんさ、私の言うとおりに動いて。」

悠 「は?何で?」

澪 「いいから。そしたら、何でも言うこと聞いてあげる。」

悠 「何でもね…分かった。」

澪の言うとおりに動き、俺は生姜を擦ったりお粥を作ったりした。

悠 「…誰の看病?」

澪 「これで完璧。じゃあ、横になって。」

悠 「はぁ?」

澪 「…今日、無理してたでしょ。幽霊でもそれくらいは分かる。」

悠 「…別にこれくらい。」

澪 「駄目。酷くなってももう看病してあげられないんだから。」

悠 「…」

俺は横になって眠るとしばらくして息苦しくて目を覚ました。

澪 「やっぱり熱あるよ。ゆっくり休んで。」

悠 「…あぁ。」

ちょうど明日は休み…助かった…

自分で作ったわりに、お粥も生姜湯も体に効きそうな気がした。


次の日の夕方まで澪はずっと俺につきっきりだった。

悠 「…お前も休めよ。」

澪 「疲れないから大丈夫。具合どう?」

悠 「…昨日より全然良い。なぁ、昨日の何でも言うこと聞くって話、本当か?」

澪 「ふっ、うん。何か聞いてほしい?」

悠 「…澪さ、何で死んじゃったんだよ。」

澪 「っ、聞かなかった?学校から飛び降りたんだよ。」

悠 「そんなの知ってる。そうじゃなくて、何で飛び降りたか聞いてんの。」

澪 「…消えたかったから。」

悠 「っ…」

俺が起き上がって澪を見ると澪は目を反らした。

悠 「…俺らのせい…?家がきつかった?」

澪 「…そういうことじゃないよ。お兄ちゃんには分かんないし、分かんなくて良い理由なの。」

悠 「…何だよ、それ。そんなんじゃ納得できない。」

澪 「私は納得してるの。」

悠 「…」

すると玄関から親父が帰って来た音が聞こえた。

悠 「あっ。」

俺は立ち上がってリビングに向かった。

親父は、キッチンにあった鍋の方を見ていた。

父 「…お前が料理したのか?」

悠 「あぁ。なぁ、見ろよ。澪が帰って来た。」

父 「はぁ?」

俺は半ば強引に親父を部屋に連れて行き、ベッドの上に座っていた澪の方を指差した。

悠 「ほら。」

親父は俺の部屋を見渡した。

父 「…体調崩して頭でもおかしくしたか。」

悠 「は?って、見えないの?」

父 「…馬鹿なことばっかり言うな。」

親父は俺の腕を振り払って部屋に行った。

悠 「何で…」

澪 「見えないよ。お兄ちゃんにしか。」

悠 「え、まじ?何で?」

俺は部屋の障子を閉めて澪の隣に座った。

澪 「…未練があるのは、お兄ちゃんだけなの。だから、お兄ちゃんにしか見えない。死ぬとき、あの人のことは思い出さなかった。」

悠 「俺は思い出したの?」

澪 「…お兄ちゃんのことだけ考えてた。」

悠 「…そう。なら、良いや。死んだ理由は今度で良い。」

澪 「…良いの?」

悠 「…死ぬとき、頭ん中に少しでも俺が居たならそれで良いよ。でも、今度絶対に教えて。」

澪 「…うん、ありがとう。」

俺は、死んだ理由を聞かれたときの澪の顔が辛そうでそこで聞くのを止めた。


休み明け、体調も良くなって学校に行くと四時間目は調理実習で家庭科室に向かった。

澪 「何作るの?」

悠 「何で澪までエプロン着てるんだよ。」

澪 「良いじゃん。一緒に料理したことないんだし。」

少し早めに家庭科室に着いてクラスメイトを待っていると隣で澪はぴょんぴょん跳ねていた。

悠 「こないだ生姜死ぬほど擦ったけど。」

澪 「ちゃんとした料理のこと。」

皆が到着すると実習が始まった。

俺がニンジンを切っていると隣から澪がずっと教えてくれた。

澪 「まず、皮剝くんだよ。で、これがピーラー。これで、すーって。」

悠 「すー…すー…」

澪 「向けたら、こことここ切って、包丁はね…あの女の子みたいに持ってから、これくらいの大きさに切って。」

俺は澪が手の輪っかで作った大きさどおりに切った。

女子 「あ、雨宮君って料理もできるの?」

悠 「えっ?いや、そんなことない。」

女子 「でも、すごく上手。」

悠 「あ、ありがとう。」

澪 「褒められちゃったね。」

澪の方を向いて笑うと、急に他の班から悲鳴が上がった。

そちらを見ると火が大きく上がっていて先生が急いで消火し、何とか騒ぎは収まった。

女子 「びっくりした…」

俺ははっとして澪を探すと、澪は居なくなっていた。

しばらくして授業が終わり、家庭科室を飛び出して澪を探すと、屋上で澪を見つけた。

昼休みでも屋上は危険だからって生徒は立ち入り禁止になっている。

悠 「…何でよりにもよって屋上なんだよ。」

澪 「…誰も来ないと思ったのに。」

悠 「…大丈夫か?思い出したんだろ。」

澪 「…大丈夫。でも、思い出したよ。家に火を点けた男、火を点けるとき腕捲りしてたの。腕には大きな傷があった。」

悠 「…どんな傷?」

澪 「あれは…こんな感じ。」

澪は、長い靴下を下ろして、あの火事のときにできた大きな火傷の跡を見せた。

悠 「…火傷の跡か。」

澪 「うん。それと、今日、バイトでしょ?私、ちょっと出掛けてくる。」

悠 「どこに?」

澪 「良いでしょ、どこでも。」

悠 「…分かった。でも、本当に大丈夫か?」

俺はずっと震えていた澪の手が気になっていた。

澪 「…忘れようとしていたんだけど、急だったから心の準備が出来てなくて…」

悠 「…うちのアパートもオール電化だし、久しぶりに火を見たもんな。」

澪 「それだけ不思議だよね、何でオール電化なんだろ。」

悠 「あぁいう親父にも良いとこがあったのかもしんないな。」

澪 「嘘。あるわけない。」

悠 「…澪は知ってるか分かんないけどさ、親父、澪の葬式、泣いてたんだ。」

澪 「えっ…?あの人が?」

悠 「俺もびっくりした。親父でも泣くことあるんだって。」

澪 「…一応、父親っていう気持ちはあったんだ。」

悠 「…今は完全に賭けごとに貢ぐ本当の馬鹿な親父だけどな。」

澪 「…ふふ。」

悠 「笑った。」

澪 「ん?」

悠 「…触れられないからさ。笑わせてやることしかできない。」

澪 「…うん、ありがとう。」


学校が終わり澪と別れてから俺はバイトに向かった。

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